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破綻

遠目からでもわかるほどに仰々しい行列が、道を遮るようにしてオーラン達の荷馬車の前に立ち塞がっていた。シャルロットにとっては懐かしい白い制服とマントに身を包んだ騎士達が騎乗している。親衛隊だとわかった。


 助かった・・・・・・・・・とはおもえない。むしろ慌てている男達と同様に混乱との狭間にある。


「どうした? もう一度言わねばわからんのか?」


 整列している騎馬の中から、一人進み出てくる人がいた。あっ、と声に出して驚いた。誰あろうエドモン・シャルロッドだったのだ。


「オーラン・オーヴェンヒルムと、王宮侍女のジャンヌとその一団と見受ける! シャルロット王女様誘拐の容疑で逮捕する! 全員大人しく速やかに馬車から降りて神妙にせよ!」

「くそ、バレてんじゃねぇか!」「どういうことだ!? おいどうする!」「そもそもあいつらどうしてここにいるんだ!」


 さっきの圧倒的優位に立っていた男達は、嘘であるかのようにパニックに陥っている。きっと馬車にいるオーラン達も同じだろう。完全に予期せぬ事態なのだから。


 それは、シャルロットもだった。親衛隊は離宮にいたはず。王都からも遠く離れているというのに、追いついたのではなく、先回りしているのだ。


 一体どういうことだろうと不思議でしょうがない。


「どうした? 大人しく言うことをきかないと力ずくで動かせてもらうぞ!」

「エドモン卿、一体これはどういうことか」


 ざわついている馬車の荷台から、大音声を轟かせながら降り立ってきた。


「何故このようなところにいるかわからんが、誰の許しを得て我らの行く手を阻む。私は国王陛下より直々の許しをえて自らの領地へと療養しにいくのだ」

「これはこれはオーラン団長。お久しぶりでございます。先程申し上げたとおりです。シャルロット王女様誘拐の咎で逮捕状が出ております。大人しくお縄に就かれたい」

「逮捕状? 王女様が誘拐されたというのは、今初めて効聞いたこと。だというのになんの証拠があるというのか」

「白々しくとぼけられても困ります団長。いえ、オーヴェンヒルム殿」


 姓をずばりと言われ、流石にオーランの表情が歪む。対するエドモンは得意げに鼻を鳴らしながら、胸元からなにかを取りだす。国王が直々に記した手紙、勅許の封がされている。


「大臣と一緒に死んでいた女性。あれは一切なんの関係もない娼婦であることは調べがついています。あなたが収穫祭の日、騎士団の隊舎を抜けだしてを抜けだして娼婦を買って連れだしたという目撃証言もあります」

「言いがかりだそんなことは!」

「更に、あなたと一緒にいる商人は大臣達に武器を売っていた者達だ。責任者である貴方がそれを知らぬ筈がない」

「それは――――」

「なにより、生き残りも証言してくれたのですよ。ええ。あなたとジャンヌ嬢が殺しそびれた、数年前に国王陛下を呪おうとした魔術師が!」

「っ、」


 苦虫を噛み潰したように悔しそうな歯軋りをしている。追い詰められたというのが傍から見てもわかるほどのオーランに対し、エドモンは得意げになって更に言い募る。


「もしも! なんら隠し立てすることがないというのなら大人しく調べに応じていただきたい!」


 固唾を呑んで見守っていた男達にも、諦めの気配が濃くなっていく。


「我が友、エリク・ディアンヌもすぐに駆けつけます。諦めなされよ!」

「!」

「な、に?」


(あ、ああ・・・・・・・・・・)


 シャルロットはおもわず涙を流しそうなほど感極まった。もう一度だけ会いたい、この想いを伝えずには死ねないというほど慕っていたエリクが来ているというだけで、言葉にできないほどの安心感が満ちてきて胸がいっぱいになる。


「エリク・ディアンヌ・・・・・・・呪われ騎士が・・・・・・だと?」

「そうです! エリク・ディアンヌです! 我が友があなた方の企みに気づき、あなたを捕らえんと尽力し、故に我らも真実を知ることができたのです! あなたこそがすべての黒幕であったと!」

「エドモン様!!」

「あ、こら!」


 我慢できず、止めようとする男達を置き去りにシャルロットは駆け出した。自分はここだと喉が擦り切れるというほどの声を張り、喜びに突き動かされながら。


「おお、お前は、シャル? どうしてここに?」

「わ、わたくしです! エリク様の元で使用人として身分を隠していましたが、わたくしがシャルロットです!」

「え、な、なに!?」


 エドモンは、泣きながら駈けてきたシャルロットに驚愕した。シャルロットがオーランによって攫われたということは知っていたが、シャルが正体を隠していたこととエリクが護衛をしていたことまでは聞かされていなかったのだ。


「王女様!」「ご無事でございましたか!」「よくぞ!」


 後ろにいた親衛隊達が早々にシャルロットに気づき、いまだ混乱から抜け出せずにいたエドモンは半ばやけくそ気味になって彼らの連呼に声を合せた。


「そ、それ見たことかあああ! 王女様がここにいるのがあなたの罪の証! 最早これまでとおもわれて素直にお縄につかれよおおおお!」

 

 オーランとその一団は、既に悔しそうにしながら続々と馬車から降り、手を挙げて膝をつく。親衛隊は彼らを囲みながら男達を縄で縛っていく。


「お前、いや貴方様・・・・・・・大丈夫でございましょうかシャル。いえ王女様!」


 とんちんかんな言い方をしながら、他の隊員達と同じようにシャルロットに駆け寄るエドモン。今更ながら恐縮し、かつての非礼を詫びたいようなエドモンに、シャルロットは泣きながら微笑む。


「け、けれどあなた達はどうしてここに?」


 事態が収束していく最中、シャルロットはどうして親衛隊がオーランと自分に先んじて待ち構えることができたのかと尋ねた。


「川でございます」

「か、わ?」


 小首を傾げるシャルロットに、エドモンは恭しい態度を取り戻し、説明をした。王都と離宮を阻むようにして流れている川を使ったのだと。


 犯人であると断定したオーランの行く先は、いくつか候補があったが遡っていくと海にまで繋がっていている。支流ができているが王国全土にまで張り巡らされている川と、そして舟を使って時間を大幅に短縮させて先回りすることができたと。


「本来であるならば、離宮までも一日はかかりますが半日以下で行くことができました。急なことだったので川周辺に暮らしている漁師や運搬を生業としている商人に協力してもらい、成すことができたのです」


 それも、自分の兄と父が強引に、大金を握らせることでどうにかなったと笑いながら語ってくれた。他の道も、支流となっている他の川を使って舟で移動している騎士隊や軍が道を塞ぎ、包囲網のようなものを形成して徐々に狭めているはずだと。


 親衛隊とエドモンがここにいたのはオーランが領地に一旦逃げこむ可能性が高い道だったから、という理由だとも。


「ありがとうございますエドモン様。親衛隊の皆様も」

「い、いえ! 恐縮であります! じきにエリクも隊を率いてやってくるでしょう。もう安心です!」

「っ、エリク様が・・・・・・・・・」

「え、ええ。我が心の友、エリク・ディアンヌです。追々到着するでしょう」


 場違いながらも、不意に胸がときめいてしまった。また彼に会える、とたしかに実感して。そしてシャルロットはようやく助かったのだと安堵感が。


「っっっ! ぐ、あ、ぐうう・・・・・・!」

「王女殿下?」


 同時に、耐えがたいほどの苦痛が襲ってきた。


 とてもではないが立っていられないほどの眩暈、全身の痛み、骨の髄まで焼き尽くすような熱さ。そうでありながら旋毛から足の先までつんと冷えこんでいく心地。


「しゃ、シャルロット様!? どうなされたので!?」


 目の前で体をくの字に曲げ、地面に倒れ伏したシャルロットにエドモンも親衛隊も困惑するばかりだった。


 消失しかけている意識が、必死にこちらに呼びかけているエドモンのぼやけた表情と遠くで輪唱しているような声が、何故だか不快さを伴ってくる。


(わ、わたくし、い、一体・・・・・・・)


 明らかに、尋常なことではない。嘔吐してしまいそうなほどの吐き気が、喉元までせり上がってくる。今までで一番辛い、発作的な苦しみだ。


 立て続けに乾いた銃声と馬の嘶き、そしてどよめきがおこる。なにが起きているのか、億劫になりながらも首をそちらのほうへ曲げて目でたしかめようとする。だがそれさえも酷く困難で、体勢が崩れて視点が崩れていく。


 そんな彼女を置き去りに、目まぐるしく周囲は変化していく。滑車から外された荷駄が親衛隊に突っこんでいき、そこから馬が二頭走り迫ってくる。


 いや、馬ではない。上にはオーランとジャンヌが乗り操っている。エドモンと他の親衛隊を吹き散らし、目にも止まらぬ早さでシャルロットを抱え上げてしまう。


「お、王女殿下! 王女殿下!」


 隙をつき、親衛隊に掴みかかり斬りかかり銃を打ち鳴らし闘争を仕掛けおどろおどろしい戦闘が繰り広げられる。シャルロットを載せた二頭は、そのまま喧噪から外れていき、どこかへと走り去っていってしまった。

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