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まだ終わって・・・・・・・・いない

「この、やかましい・・・・・・・!」

「耳が・・・・・・・!」

「殺せええええええええええええええええ!! 呪いを二つとも失敗していたとあっては魔術師の恥!! いや、お主達が殺さずとも我はいずれ殺される!! 最早生きていても仕方在るまい!! 殺せええええええええええええええええええええええええええええええええええ!! 我が生きて成してきたことは、なに一つ意味がなかったのじゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! 生きててなんの意味があるかああああああああああああああああああああああ!!」

「や・か・ま・しい~!!」

「ふぎゃ!!」


 鼓膜を破らんばかりの叫声を、エドモンが蹴飛ばして止めてくれた。


「いきなりうるさくなったとおもえばなんだお前は!!」

「やかましい~~~~~~!! これが騒がずにいられるかああああ!! ぬしらにはわからんじゃろうがああああ!! 魔術のなんたるかもわからんくせにいいいいいいいいいいいいいいいい!! 殺すなら殺せええええええええええええええええええええええええええええええ!!」


 だが、すぐに再開した。なおも暴行せんとするエドモンを止める。


「待て。殺すな」

「だがエリク! こいつは!」

「なんじゃい! 情けのつもりかああああ!! 同情などいるかあああああああああああああああああああああああ!!」

「せめて俺の呪いが解けるまではやめてくれ」

「この人でなしどもがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! よいわい! 今殺せえええ! どうせお主らが殺さんでも我は殺されるんじゃからなああああああああああああああああ!!」


「おい! いい加減にしろ!」

「待てエドモン! 第一、俺達以外に誰がお前を殺す・・・・・・と?」


 なにか、違和感を抱いた。


 狼狽ぶりは、尋常なものではない。もう助からないという投げやりな態度にみえる。追い詰められた容疑者、犯人がよくみせるものだ。


 だが、それだけではない。


 急激に、魔術師にナイフを向けているエドモンを見ていたら、魔術師の状態を聞いてから、彼女の状態をすべて加味した上で見ていたときから感じていた違和感が、殺されるという言い方で全てが引っかかった。


 喉元まで飛びでそうになっていながら引っかかっている。そんな気持ちの悪い違和感だ。


「殺される、とは誰にだ?」

「?」

「おい、そんなこと今どうでもいいだろう!?」

「いや、よくない。それにエドモンお前、その持ち方・・・・・・・・・・」

「? これがどうした? 親衛隊に入隊したとき、教わったやり方だ」

「!」


 そこで、急速にある出来事が、連続で思い起こされていく。


「なぁ、エドモン。魔術師は一体どこで見つけたと?」

「うん? それは――――――――」


 発見者が教えてくれたという場所を聞いて、更に違和感が、最早疑念と呼んで差し支えないほどに強まった。


「どうしたんだ?」

「・・・・・・・おい魔術師」

「うぬぅ? なんじゃい、毛むくじゃら! 我を無視しておきながら都合がいいのう!」

「お前、その傷どこで負った?」

「なに?」

「誰に斬られた? どこで?」

「・・・・・・・・・・・・・」


 気配が変わった。


「殺されるとは、誰にだ」

「・・・・・・・・・・・・・」

「俺を呪ったのは? お前個人の行動による結果か? それとも誰かの指示によるべきものか?」

「・・・・・・・・・・」

「あの呪いに罹っていた道具を渡したのは? なんのためだ」


 黙りこんでいるのが、逆に関連性があるのだというと明言だとはっきりわかった。それは、俺の予想を裏付けるには充分で。


 以前退けられ自分でも半ば納得していた考えが、急速に現実味を帯び始めたのだ。


「昨夜、どこにいた。ゴミ捨て場じゃないのか?」

「っ!」

「いや。それより以前から、そこに隠れていたんじゃないか? マリーに渡してからずっと」


 黙りこんでいながらも、僅かな動揺の気配、瞳の揺れで半ば確信する。


 この魔術師も、王女襲撃に関わっているのだと。


「おい、エリク・ディアンヌ。落ち着け。どうしたというのだいきなり」

「エドモン。さっき言ったことは撤回する。すぐにでもこいつを別の場所に移したほうがいい」

「なに?」

 

 自分でもなにを言っているのだろうとおもう。


 だが、悠長にしていることはできない。魔術師は、俺個人の問題ではない。王女襲撃に係わっているのではないかと考えてしまったのだ。


「どうして俺を直に狙えた? 俺の命を狙っていたんだとしたら、どうしてこいつの道具が俺の元へきた?」

「それは・・・・・・・お前の使用人に渡せたからだろう?」

「なら、その使用人が俺の邸で働いている使用人であるとわかった?」

「・・・・・・・・・」

「俺が噂になっていることは知っている。だが、だからといってそこでどういう使用人がいるかまでは噂にならないだろう。自分から話すか、事前に調べないかぎり」


 騎士団の人間ならば、いや今回の事件に係わっている騎士なら何度か俺の邸に来ているし、マリーは何度か隊舎に来ているから俺の使用人だと知っていてもおかしくない。


「・・・・・・・だからといってもだ。こいつが王女襲撃と大臣に係わっているとは早計すぎないか?」

「ああ。だが、大臣と襲撃犯が殺されていたのはゴミ捨て場だ。こいつもその近くで見つかったのだろう?」

「・・・・・・・・・・」

「そして、二人の死因は短剣によるものだ。こいつの傷も、昨晩二人が揉めた現場にいたから付いたのだ。犯行に使われた凶器と傷を一緒に調べれば、わかる」

「こいつも、大臣の仲間だったっていうのか? お前を二度呪ったのも、最初から大臣の差し金だったと? なら、騎士団に引き渡したほうが」

「いや。騎士団はだめだ」

「何故?」


 そう。それがこの話の核心に繋がる。


「お前、この握り方親衛隊で教わったと言ってたよな? 俺の騎士団でもそうだ」

「それがどうしたというのだ?」

「大臣と刺客の、短剣の握り方も、同じだった」

「え?」


 いつも見慣れていたものだったから、つい見落としてしまっていたのだろう。きっと他の隊員達も。そして、二人の死体を見て感じたふとした違和感は、握り方にあった。


 さっきエドモンが言ったように、剣の握り方は騎士になってすぐに教わる。決して忘れないよう間違えないように、徹底的に体に刻み込まれるレベルで。


 だが、どうして大臣と刺客がその握り方をしていたのか。騎士団に入った者しか習わないはずの剣の握り方をだ。


 死んだ大臣と刺客に、自分がしている握り方をさせたとしか考えられない。俺やエドモンと同じようにふとしたときにしてしまうように徹底的に体へと刻み込まれているんだから。


「で、では、き、騎士団に大臣の仲間が、まだいると!?」

「ああ。それか黒幕、首謀者だ。こいつも口封じに殺されそうになったのを逃げて捕まったと考えていい」


 そうだと考えれば、附に落ちる。大臣がいつまで経っても発見できなかったとしても納得できる。騎士が手引きし、匿っていたのだ。


「だ、だが・・・・・・・」

「おい! どうなんだ! 今エリクが言ったことは本当なのか!?」


 蒼白になった顔面を、魔術師に向け直す。彼女はバツが悪そうに口をもにょもにょと曲げ伸ばし、目線を明後日のほうに。目は口ほどに物を言う、と格言があるが本当だ。今の魔術師の反応が雄弁に語っているのだ。


 王女襲撃に係わっているとすれば、一騎士を呪ったという個人的な問題に留まらない。より激しい尋問をされ、厳しい刑罰が加わるだろう。


 それだけではない。黒幕がまだいるのだとすれば、生きていれば命を狙われる。真実を黙ってここにいれば、命は保証されている。


「だ、だが。どうしてお前を呪うなんて回りくどいことをした? もしも王女を狙っていたならお前でなくとも・・・・・・・」

「俺でも王女でも、どちらでもよかったのかもしれん。万が一王女が呪われればそれで殺せる。だが、俺にかかったとしても護衛の隙をつくれるし、王女の居場所がバレたとおもわせて、どこかに移動させるときに襲う。そういう手段だとしてもおかしくはない」


 仮に三年前、俺を呪わせたのも黒幕だとすればわかる気がする。相当用意周到な奴だとすれば、回りくどい方法をとって自分への疑いを持たせない。


「そうなのか!?」

「ぐ、ぐううううう・・・・・・・・・・」


 エドモンが問いただせばするほど、魔術師は肩をすぼめさせ、小さくなっていく。そんな彼女が、やはり俺の推論が正しいと証明している証になる。


「喋るんだ。誰に命を狙われている? 誰がまだ隠れている?」

「な、なんじゃい・・・・・・・・・・急におそろしゅうなって・・・・・・・」


 おののきはじめた魔術師のことなど、気に懸ける余裕はない。先程までの穏当とした余裕なんてあるはずがない。


 何故なら、まだなにも解決していないのだ。


 ようやく終わった一連の騒動は、まだ続いている。そして今このときにもシャルを殺めようとしているかもしれない。それでも、今の俺を突き動かしているのは騎士としての使命感ではない。


 しごく個人的な、怒りともいえる感情。シャルの命を狙っている輩が、まだどこかにいる。そんな危険性があるとおもっただけで、冷静でいられなくなる。


「おい、エリク」

「あん!?」

「ひいっ。い、いや。少し落ち着いたほうがいいだろう。ま、まるで今にも食い殺されるとおもうぞ? それでは魔術師も言えんのではないか? なぁ、魔術師よ。司法取引って知ってるか?」

「?」

「なんだいきなりっ」

「いや。このままじゃあこいついつまで経っても喋らないだろう。司法取引とはな。取り調べをする側と受ける側の合意で成立する取引だ。ある事件について容疑の一部や軽い罪を認めて有罪の答弁をしたり、捜査に協力したりする見返りに、訴因を減らしたり、求刑を軽くしたりする。僕も父上もよく利用している」


 さらっととんでもないことを暴露したような気がするが、それが一体なんだとエドモンを見やるが、対する彼は得意げな面持ちで片目でのウインク。まるでこちらに任せろとでも言わんばかりのエドモンは肩を叩き、更に魔術師へと語りかける。


「つまりだ。こちらに有利な証言をしたり、正直に白状すれば、お前の罪も軽くなる、というわけだ」

「う、ぬううう・・・・・・・・・・」

「おい、いいのか? 勝手にそんなことを決めて。権限はないだろう」

「どうせ僕は罰則を受けている身。なら今更一つ二つも同じだ。これで王女襲撃の事件解決に役立てるなら安いものだ」


 魔術師は迷っている。このまま黙っているよりも取引に応じたほうがいいと考えているんだろう。


「まぁ、僕としては見返りとしてお前と友達になれるのではないか、とおもっているんだがね」


 一言余計だ、とおもいながらも荒ぶった感情がおさまり、つい吹出しそうになった。悪い奴ではないという認識が、更に強まった。


「それで? どうする魔術師? 騎士を二度呪った身として私刑を受けるか、それとも王女襲撃犯の仲間として厳しい取り調べを受けるか。ここで取引を応じるか」

「・・・・・・・・・・二度呪った?」


 渋面を形成してた魔術師が、そこで急にハッとなにかに気づいたような表情になった。顔をそのまま上げてジ・・・・・・・・・・と見つめてくる。


「のう。エリク・ディアンヌというたか?」

「・・・・・・・・・・ああ」

「お主、先程こう言うたの。真に一度解けたのか?」

「そうだ」

「そして、今一つのほうの呪いも、お主が罹ったのか? 別の誰かに罹ったのではなく?」

「そうだ」


 一体なんの関係があるのかと不承不承ながらに答えると魔術師はもう一度渋面を形成した。


「「うう~~~~~~~む・・・・・・・・・・もしや。そうかそうか。おい、そっちの男のほうよ。取引に応じてやってもよいぞ」

「本当か?」

「ああ。じゃが、確実に我は助かるという保証がなくては話せん。それに、我はすべてを知っているというわけではない。ただ依頼をされただけであるからの」

「それでもいいが、どうしたというのだ? 急に」

「なぁ~~~に。まだ死ねぬ理由ができたというだけじゃよ」


 ゾクリと背筋が寒くなった。


 まるで面白がっているような様子に、魔術師の本質が詰まっている。そう錯覚するような、不気味さしかない笑顔だった。

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