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友達

エドモン・シャルロッドは公爵家の長男として生を受けてから、自分の家と生き方になんの疑念を抱いたことはなかった。


 何も不自由することのない暮らしに金を使った贅沢三昧。充実している女性関係、そして望んで苦労もせずなれた親衛隊隊員の地位に就いてもそれが変わることはなく、同僚からの冷たい態度も上官からの困った奴への扱い方も大して気にせず、自分への嫉妬だとおもっていた。


 ある出会いをするまでは。


 呪われ騎士。忌み嫌われ自身も出会うまでもなく嫌悪していた俺の存在が気になった。化け物の姿をしているというのに、非常事態でも自分と違ってすぐに動くことができた。そのうち、いくらか行動を共にして気づいたことがある。


 噂と違って非常に有能な騎士だったのだ。仕事はでき、部下からも信頼されていて上官からの評判もそこそこいい。自然と自分と比べるようになってしまった。どこが違う? どうして呪われ騎士と蔑まえながらもあそこまでやれるのだ? と。


 次第に気になり、エドモンの中である変化が生じた。あのような騎士になりたいと。


 しかし、誰かに打ち明け相談しようにも心を許しあえる同僚も、友と呼べる存在もいないことに気づいた。社交場に行っみたが、誰も相手にしてくれない。


 周囲からの冷ややかな態度も合わせて気になったが、いくら考えても分からない。それだけでなく、自分が傲慢で嫌な奴としてしか見られていないのでは? と遅ればせて自覚し、そして悩んだ。


 そして悩んだ末にエリク・ディアンヌ自身と行動を共にすればいいとおもったのだ。そうすれば騎士として良い部分を参考にして吸収できる。


「それで・・・・・・・・友達だと?」

「そのとおりだ」

「じゃあ・・・・・・・いつだったか食事に誘って奢ってくれたのは?」

「そうすれば心を許してくれるとおもった」

「じゃあ、占い師の手配書を作って探していたのは?」

「そうすれば、お前が感謝してそれで友達になれるとおもった」


 だが、それではいけないと気づかされた。今までと同じ行動、なにかあれば金や物で釣るという、自分のこれまでの生き方と一緒だと。


「あの使用人の娘・・・・・・・・・・シャルといったか。あいつに指摘されてわかったのだ」


 シャルの名前が出て、ギクリとした。だが、こちらの様子を怪しむこともなくエドモンの話は続く。食事のとき、同席していたシャルの指摘は、産まれて初めて愕然とする出来事だった。自分の欠点をこれでもか! と真っ正面から鋭く言ったのだ。


 ただ交流を持ち、良い部分を吸収するだけではダメだ。もっと根本的ところから改善しなければ意味がない。


 そのため、今は孤児院への寄付、ボランティア活動をしながら模索中だと自嘲気味に小さく笑った。


「本当にそれだけなのか? そんなことのために、俺と関わりを?」

「お前からすれば、そんなことだろうとおもうだろうが、こちらとしては大真面目なことだった」

「そうか。なら、占い師のことは、どうして知っているんだ?」

「小耳に挟んだのだ。いつだったか隊舎を尋ねたとき、団長とお前の邸の奴が話しているのをな。そして広まった噂でお前が休んでいるのは占い師という奴が関わっていることもわかった」


 団長と話していたのが誰なのかというのは少しだけ気になったが、エドモンに嘘をついている様子はない。


「そもそも、親衛隊であろうと騎士団だろうと。職務で知った情報を個人的に利用するのは禁止だ。手配書を作るというのもな」

「そんな!? 何故!?」


 ガーン! と大袈裟すぎるほど驚愕する。情報漏洩に繋がると告げると、知らなかったと小さく呟いた。


 知らなかったではすまされない。第一、騎士になるときに守らなければいけない大旗について説明もされるし、そういう誓約書にもサインはする。もしかしたら忘れているのかもしれないが。


「そもそもどうして騎士になったんだ」

「出世の箔をつけるためと、それと自分より身分が高い人との人脈を作りやすくするため。それとモテるためだ」


 恥ずかしげもなく、それどころか鼻を鳴らして誇らしげに胸を反らすエドモンに呆れてしまう。


「王女ともできればお近づきになりたかったのだが、それも諦めた。僕はきっと王女様を身分と宝石でしか判断していなかったのだろう。今ではどんなご尊顔をしているか朧気だ」

「・・・・・・・・・・じゃあ、シャルについては本当に気づかなかったのか?」

「?」

「いや・・・・・・・もういい」


 とにもかくにも、エドモンは王女襲撃に関わる事件には無関係だ。長年の騎士としての勘からそう判断し、一体なんだったんだという無駄な疲労感が濃くなり、溜息を吐いてしまう。


「それで、どうだ?」

「どうだ、ってなにがだ?」

「友になる、ということだ」

「・・・・・・・・・・そもそも友とはなってくれと言われてなるものではないし。いつの間にかなっているものだとしかいえないし」


 自分自身、少なからず驚いている。まさかエドモンがこの俺をそのように見ているなど、小恥ずかしくて痒みすら生じる。


 そもそも、こちらとしてはエドモンは関わりたくはない人物だったのだ。他の者が彼を見ていたように尊大で傲慢な奴に過ぎないと。


「今、どこに住んでいる?」

「実家だが・・・・・・・」

「隊舎に住んだことはなかったのか? それか一人暮らしを経験したり」

「・・・・・・・・・・・ないな」

「なら、一度経験してみるのはどうだ。それだけでだいぶ変わるとおもう。それとボランティアの活動にももっと本腰を入れるとか。そうすれば周囲からの見方も自ずと変わりはするだろう」


 だが、根は悪い奴ではないんじゃないか。こちらの言うことに一つ一つ真剣に頷く殊勝な態度を見ていると、そうおもえて仕方が無い。


「そうか、やってみよう。ありがとう」

「いや。こちらも色々と世話になったことだし。じゃあ最後に確認するが、本当に大臣との件は関係ないんだな?」

「ああ。ない。大臣が反乱なんて企てたせいで余計にこちらも疑われたと父も僕も憤慨していたくらいなんだ」

「昨晩はどこでなにをしていた?」

「家にいた。邸の周りを見張られていて収穫祭にもいけなかったのだ。どうして昨晩なのだ?」

「いや、なんでもない。わかった」


 エドモン達は白だと、このとき確信した。


 もし協力者であったなら、もう少し動揺の色を見せるが、今の彼にはそれがないし、見張りを掻い潜り外に出れるとはおもえない。


 それに、もし協力者であるならこちらに疑念を持たれるような不自然な接触の仕方はしないだろう。自分から王女を知っていると公言していたのに使用人に扮していているシャルに、近くに寄るような真似は。


 結局のところ、今後の捜査に力を入れるしかないということだろう。


「なぁ、エリク・ディアンヌよ。結局のところ友になるというのはダメということか?」


 恥じらう乙女のようにモジモジしているエドモンに、明言するのに迷った。お近づきになりたいとは決して言えない人物だったし、それにまた以前のように厄介事に巻きこまれる可能性がある。

 

「考えておく」


 曖昧な返事だが、それでもエドモンは嬉しいのかぱあぁぁ、と表情を輝かせ、「そうか。そうかそうか・・・・・・・・」と上機嫌になった。


 しかし、わざわざ俺のような奴の友達になろうだなんて、変わっている。


「なんだったらお近づきの印に良い女性を紹介しようか? どうだ?」

「いや、いい。遠慮しておく」


 女性、というワードでこちらはこちらで大変なのだということを思い出してしまった。再会してしまったエレオノーラと、差し迫っているシャルとの別れについて。


(って、今更エレオノーラとどうこうなるつもりなど。彼女は修道女だし男女の恋愛からは離れているだろう)


 シャルにしても、同様のことがいえるのだというところまで思いだし、結論づけて、わざわざ大変になることなんてないのだ・・・・・・・と取り越し苦労だと言い聞かせ、しかし払拭できないモヤモヤに苛まれる。


「ところで、エリク・ディアンヌよ。お前はどこまで乗っていく?」


 そう言われて、適当な人気の無い場所で下ろしてくれるよう頼んだ。もしだったら直行してもよいと言われたが、それはそれでまた面倒になりそうなので丁重に断る。


「そうか。もしだったら我が家の夕食に招待したかったし、捕らえた占い師も拝見してほしかったんだが」

「いや。遠慮させてもらう。こっちはこっちで忙し――――――――――――今なんと言った?」


 何気なかったのでつい聞き逃しそうになってしまった気になり、つい尋ねた。


「ん? だから夕食、と」

「その後だ」


 エドモンは訝しがりながらも、やはり同じことを告げる。


「占い師を捕まえているので、見てもらいたい、と?」


 やはり、とても重要なことだった。


 おもわず怯えさせてしまうほど、絶叫した。

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