さよなら3月 また来て昨日
一条:よいしょっ、よいしょっと……失礼します。
後輩:失礼します。
一条:あれ、先生、誰もいないね。
後輩:どうしましょうか? 職員室に運ぶように言われたんですけど……
一条:じゃあ、とりあえずこのへん置いておこうか。
後輩:そうですね。よいしょっと。
一条:ふっー、重かった。
後輩:すみません、一条先輩。
後輩:卒業式の準備なのに、それを卒業生に手伝ってもらっちゃって……
一条:いいよ。こうして生徒会の仕事を手伝えるのも今日で最後だし、良い思い出になったよ。
後輩:そう……ですか…………。
一条:ああ、そうだ、生徒会長。
後輩:……。
一条:生徒会長。
後輩:……。
一条:生徒会長ってば。
後輩:え? あ、そうでした。私が生徒会長でした。
一条:大丈夫?
後輩:すみません、いまだに慣れなくて……
後輩:私にとって生徒会長は、ずっと一条先輩だったから……
一条:ぼくはもう元生徒会長。そして明日からはもう元生徒。元高校生だよ。
後輩:……一条先輩。私本当に大丈夫でしょうか?
一条:え?
後輩:本当のこと言うと、もともと私、会長とかそういうガラじゃないんです!
後輩:それなのについ調子に乗って生徒会に入っていつの間にかこんな立場になって。
後輩:明日から一条先輩もいなくなって……本当にやっていけるんでしょうか?
一条:大丈夫! 一緒に頑張ってきた2年間、きみは立派に成長した!
一条:おかげで何も思い残すことなく、僕は学校を去っていけるよ。
後輩:……本当に、何も思い残すことなくですか?
一条:もちろん。
後輩:嘘です……!
一条:そんなことないって。
後輩:だって、先輩、本当は……!
桜井先生:あれ、二人ともどうしたの?
一条:さ、桜井先生っ!!
桜井先生:おはよう。
後輩:おはよう。
桜井先生:ん?
後輩:……ございます。桜井先生。
桜井先生:ん、よろしい。おはよう、生徒会長。
桜井先生:あ、一条君。今日卒業生代表の挨拶するんでしょ? 頑張ってね。
一条:は、は、はい! がっ、がんがり、ばんばり、ばんがりまっ、ばんばり……!
桜井先生:お、落ち着いて、もっと自信持って、ね。大丈夫。
桜井先生:あなたは3年間、立派に生徒会を勤め上げたんだから。私の自慢の生徒よ。
一条:あ、ありがとうございます!
桜井先生:昨日もありがとうね。タイムカプセル運ぶの手伝ってくれて。
一条:いえ、あれくらい!
桜井先生:そういえば、一条君はタイムカプセルに何入れたの?
一条:えっ、あっ、それは……!
桜井先生:私はねぇ、クラス写真とみんなからの寄せ書きを入れたの。
桜井先生:30年後に開けるときが楽しみだわー。
一条:ぼっ、僕は、手紙を……
桜井先生:へえ、30年後の自分への手紙?
一条:いや、その! なんといいますか……!
後輩:あの! じゃ、私たちそろそろ教室に戻りますんで。
桜井先生:あ、まって、生徒会長、ほら、えりが曲がってる。(えりを直してあげる)
後輩:え、あ、うん、ありがとう、ございます。
一条:……っ! んっ、んんっ!(急いでえりをあける。わざとらしく咳払い)
桜井先生:これでよし、と……ん? 一条君、どうしたの?
一条:あの、自分もえりが……。
桜井先生:えり?
一条:……あああ! 申し訳ありません!
一条:自分もえりを乱せば先生に直していただけるかもしれないと、ひわいなことを考えてしまいました!
桜井先生:ひわい!?
一条:反省文を書いてきます! 失礼しました!(退場)
桜井先生:いや、反省文なんて……まったく一条くんはあいかわらずねえ。
後輩:はい……
桜井先生:さてと。ちょっと一休みしようかな。あなたも牛乳飲む? 昨日買っておいたのが……
桜井先生:あれ? これ……クラス写真とみんなからの寄せ書き?
桜井先生:なんでこれが冷蔵庫の中に?
後輩:……あのっ!
桜井先生:え、どうしたの?
後輩:ちょっとだけここで待っててくれませんか?!
後輩:もう一度一条先輩を連れてきますから!
桜井先生:一条君を? なんで?
後輩:いいから!
桜井先生:まぁいいけど……。
不良:おーっす。
桜井先生:姫宮さん! なに、その不良みたいなかっこは!? 木刀まで持って……!
桜井先生:ああ、もう卒業式だっていうのに!
不良:うるせえなあ。これが私の正装なんだよ。
後輩:あ、姫宮先輩。もう大丈夫ですか?
不良:え、あ、うん。大丈夫だけど?
後輩:そうですか、良かったです。
後輩:じゃあ、先生! すぐ戻るから待っててくださいね!(退場)
桜井先生:あ、うん。……あなた生徒会長と何かあったの?
不良:いや、覚えてないけど……それよりよ、先生。
桜井先生:なに?
不良:あのー、まー、あれだ、三年間、私、いろいろ迷惑かけたと思うけどよ。
不良:あの、まあ……ありがとう、な。
桜井先生:……どうしたの、あらたまっちゃって。
不良:う、うるせえなっ。いいだろ、卒業式の日くらい!
桜井先生:そうね。じゃあ、私からも。素敵な三年間をどうもありがとう。
不良:お、おう。
桜井先生:また来年もよろしくね!
不良:……来年?
桜井先生:うん、来年。
不良:来年って、何が?
桜井先生:だから、あなた留年してもう1回3年生だから、よろしくって。
不良:はあああっ!? りゅ、留年!? あたし、留年したの!?
桜井先生:うん。知らなかったの?
不良:知らねえよ! 言えよ! 先に!
桜井先生:言ったよ。この課題出さなきゃ本当に留年だよ!って。
桜井先生:そしたらあなた『留年? ああ? 上等だ、コラ!』っていうから、
桜井先生:あー、上等なのかーって。
不良:上等じゃねえよ! お前、教師だろ!? だったら、生徒の、そういう、思春期特有の素直になれないギザギザハートをくみとってくれよ!
桜井先生:ギザギザハート?
不良:わかっちゃくれとは言わないが、そんなにあたしが悪いのか!?
桜井先生:チェッカーズ、好きなの?
不良:卒業できないって……! じゃあ、いったい、私は今日何しにきたんだよ!?
桜井先生:うん。だから先生も、この子今日いったい何しに来たんだろうって不思議だった。
不良:なあ、なんとかならないのか!?
桜井先生:そう言われても……試験も追試も補習もさぼって、課題も出してくれなかったし。
不良:か、課題……あ、ああ、あれね、やってある、やってあるよ、おう。
桜井先生:そうなの?
不良:それ持ってきたら、卒業させてくれるか!?
桜井先生:うーん、まぁ……。
不良:わかった! すぐに持ってくる!
桜井先生:あー、行っちゃった……大丈夫かなあ?
不良:おう、先生!(別方向から入ってくる)
桜井先生:えええっ!? えっ、なんで!?
桜井先生:あなたさっきあっちに走っていったのに、なんでこっちから入ってくるの!?
不良:それは、えーと……説明がややこしいんだよ。
桜井先生:はあ?
不良:くそ、あいつ、まだ来てないのか……?
桜井先生:なに? 誰か探してるの?
不良:ちょっと校内探してくる。
不良:あのさ、ここに変なやつが来たら、足止めしといてくれる?
桜井先生:変なやつ? って、どんな?
不良:みりゃわかる。絶対みりゃわかるから。じゃあなっ。(退場)
桜井先生:いや、ちょっと。そんなこといわれても。
未来警察:ほわわわわーんっ(ワープ音。自由にそれっぽくどうぞ)
未来警察:とうっ! 本部へ報告! 無事2021年に到着しました!
桜井先生:……変なやつだぁ。
未来警察:現地人発見。接触をはかります。
未来警察:すみません、私は怪しい者じゃありません。
桜井先生:え、あ、はい。
未来警察:探し物をしているんですが。
桜井先生:はい。
未来警察:銀色の箱のタイムカプセル。ありますよね?
桜井先生:ああ、あれ。
未来警察:どこにありますか?
桜井先生:あれなら昨日埋めて土の中ですけど。
未来警察:ええええっ!? も、もう埋めちゃったんですか!?
桜井先生:はい。
未来警察:そんな馬鹿な! 今日は2021年3月17日ですよね!?
桜井先生:いえ、今日は3月18日ですよ。
未来警察:なっ!!! いっ、一日間違えたあ~!
未来警察:こうしちゃいられない!
桜井先生:ま、まって! どこいくんですか?
未来警察:タイムカプセル、掘り返してきます!
桜井先生:だめですよ! あれは30年後に生徒たちと掘り返すんですから!
未来警察:その30年後に、大変なことになってるんですよ!
桜井先生:え?
未来警察:あっ!
桜井先生:どういうことですか?
未来警察:い、言えません、これ以上は!
未来警察:過去の人間に未来の情報を与えてはいけない!
未来警察:タイムスリップ三原則 第一条にそう記されてるんです!
桜井先生:タイムスリップ……?
未来警察:……ああああっ! 未来の情報を与えてしまった……!
桜井先生:ちょっと、あの、どういうことですか?
未来警察:もう隠しきれません……
未来警察:実は……私は……未来警察のものなんです!
桜井先生:……はあ?
未来警察:タイムマシンで過去にとび、時間をまたいだ犯罪を防ぐ!
未来警察:それが未来警察です!
桜井先生:何をバカな……。
未来警察:本当です! 三十年後の未来から来たんですよ!
桜井先生:じゃあ……三十年後の総理大臣の名前は?
未来警察:ピコ太郎。(ネタ改変可)
桜井先生:うそおっ!?
未来警察:本当です! アイハブ自民党ーアイハブ民進党ーオウッみんみん党!
未来警察:って、政党を統合しちゃったんですよ!
桜井先生:いやいやいや、無理でしょう!
未来警察:どうしたら信じてくれるんですか。
桜井先生:もっとちゃんとした証拠を見せてくださいよ。
未来警察:証拠……あ、じゃあこれ! 未来警察手帳です。
桜井先生:いや、未来警察手帳っていわれても……。
未来警察:これすごいんですよ! 29世紀までの全ての犯罪者の指紋データが入力されてるんです!
未来警察:ためしにここに指を置いてください。
桜井先生:こうですか?
未来警察:……出ました。職業、高校教師。前科一犯。
桜井先生:ええ? 私前科なんてありませんよ!?
未来警察:犯行日2021年3月18日。
未来警察:卒業式が終わり、打ち上げの飲み会で隠し芸として皿回しを披露。
未来警察:失敗して飛んでいった皿が校長のおでこに突き刺さり、殺人未遂として逮捕された。
桜井先生:さ、皿回しのことは誰にも秘密で練習してきたのに、なぜそれを……!
未来警察:信じてもらえましたか。
桜井先生:し、信じます……!
桜井先生:ん? えっ、じゃあ、タイムカプセルで30年後大変なことになるのも本当!?
未来警察:はい。私はそれを未然に防ぎにきたんです。
桜井先生:一体30年後、何が……。
未来警察:30年後、カプセルを開いた瞬間、中から毒ガスが発生。
未来警察:その場にいた百人以上が失神する大参事となったのです。
桜井先生:毒ガス!? なんで、そんな……。
未来警察:誰かがタイムカプセルの中に、牛乳とパンを入れていたみたいです。
桜井先生:牛乳とパン!? 誰がそんな馬鹿な物を…………ああああーっ!
未来警察:ど、どうしました!?
桜井先生:まさか……この冷蔵庫の中のクラス写真と寄せ書きって……!
未来警察:どうしたんですか?
桜井先生:あのー……その、タイムカプセルに入ってたパンの種類って……?
未来警察:え? えーと、あれはたしか、セブンイレブンの、ダブル……ダブル……
桜井先生:セブンイレブンの、ホイップ・アンド・カスタード ダブルクリームパン?
未来警察:ああ、それですそれです……えっ?
桜井先生:すみません……犯人、私です……!
未来警察:手を挙げろー! この時間犯罪者め!
桜井先生:ち、違うんです! 昨日、朝食を冷蔵庫に入れるとき間違えたみたいで!
未来警察:言い訳は未来裁判所で聞きます!
桜井先生:未来裁判所!?
桜井先生:待って! とにかく、どうにかしてきますから!(退場)
未来警察:あ、こら! 待ちなさーいっ!(退場)
未来警察:
一条:ちょっ、生徒会長! そんな、ひっぱらないで!
後輩:桜井先生ー! 一条先輩連れてきました!
後輩:……いない。待っててって言ったのに。
一条:生徒会長! なんなんだ一体?
後輩:一条先輩。黙ってようと思ったけど、やっぱり我慢できません!
一条:な、なに?
後輩:さっき言いましたよね。この学校に思い残すことは何もないって。
一条:ああ、なにもないよ。
後輩:嘘です! 本当は言いたいことがあるんじゃないですか?
一条:言いたいこと?
後輩:だから、その……本当は先輩は先生のことを……その……
後輩:あーもう! なんではっきり言わないんですか!
一条:いや、こっちのセリフなんだけど。
後輩:だから……! 一条先輩は……! 桜井先生のことが……!
不良:おーい、一条!
一条:姫宮くん。
不良:なあ! 私もうあんたたちに、課題手伝ってほしいって頼んだか?
一条:課題? なんの?
不良:それやんなきゃ卒業できないっていう課題だよ!
後輩:昨日の課題って、そんなのだったんですか!?
一条:ぼくは手伝わないよ。そういうのは自分の力でやらないと。
不良:わかってるって! まだ私今日おまえらに頼んでないんだな!?
一条:頼んでませんけど。
不良:ってことは、ええと、ここで会ってあいつが来るから……
不良:もうすぐだな、よし!
一条:ちょっと! そこ先生がたの休憩室だよ! 勝手に入ったらダメでしょう!
一条:おーい! 早く出てきなさい!
一条:まったくきみは昔からいつもいつも……!
不良:おーい、一条!(別方向から駆け込んでくる)
一条:うわあ! えっ、いま、ここに入ったのに、なんでっ!?
不良:ちょうどいいとこにいた! 頼みがある!
一条:なんですか?
不良:課題手伝ってくれ!
一条:……だから、さっき断ったじゃないか。
不良:さっき?
一条:そういうのは自分の力でやらないと。
不良:頼むよ! お前、センター試験で全国一位だったんだろ!?
一条:まぁ、一応。
不良:だったら、宿題やってくれるロボットとかすぐに作れるんじゃねえか?
一条:きみはセンター試験をなんだと思ってるんだ。
不良:頼むよ! 時間がねえんだよ!
不良:これが終わらねえと、留年してもう一年学校になっちまう!
一条:……もう一年……?
不良:ああ、だから、な!
一条:もう一年……そうか、その手が……。
後輩:姫宮先輩。私で良ければまたお手伝いしますけど。
不良:お前2年だろ? 3年の勉強わかるか?
後輩:自信はないですけど、昨日もお手伝いできたじゃないですか。
不良:昨日?
後輩:で、わからないところは?
不良:いや、わからないっていうか……実は、全部1ページもやってねえんだよ。
後輩:ええっ? だって一日あったのに……あ、昨日やったとこも消してある!
不良:だから昨日って何の話だよ?
一条:よし! 決めた!
後輩:え?
一条:決めた……! 僕も留年してもう一年学校にいるよ!
後輩:えええ!? どうしたんですか、急に?
一条:いや、ずっと考えていたんだ……
一条:卒業式だというけれど、なにを卒業、するのだろう。
後輩:チェッカーズ好きなんですか?
一条:こんな気持ちで卒業してもしょうがない! 卒業は、やめる!
不良:じゃあ卒業証書はどうするんだ?
一条:きみにあげます!
不良:やったあああ、ラッキー!
後輩:いやいやいや! そうじゃないでしょう! お願いだから落ち着いてください!
一条:いや、いいんだ、決めたんだ!
一条:きみも言ってたじゃないか。ぼくがいなくなるのは不安だって。
一条:大丈夫。もう一年いて、いつでも生徒会手伝いに行くよ。
後輩:…………なんですか、それ。
後輩:私は……私は、一年のとき、どんな時でも前を向いて進んでいく先輩の姿を見て、生徒会に入ったんですよ!?
後輩:こんな私でも変われるかもしれないって。
後輩:先輩みたいになりたいって、それで生徒会に入ったんです!
後輩:それなのに先輩がそんなこと言うんですか?
後輩:もう一年だなんて……ただ……
後輩:ただ桜井先生と一緒にいたいだけで!
一条:……え?
後輩:だから……! 一条先輩は……! 桜井先生のことが好きなんでしょう!?
一条:は……は……はああああー!? な、なーにを証拠に、はああー!?
後輩:ごめんなさい……この手紙、読んだんです。
一条:あああああああ! これ、昨日タイムカプセルに入れた……!
一条:なんで君が!?
後輩:ごめんなさい、昨日こっそり……。
一条:ななななな中身読んだの!?
後輩:読みました……。
一条:読んだのっ!?
後輩:ごめんなさい。
一条:読んだのっ!!?
後輩:ごめんなさい!!
一条:……読んだのぉ…………。
後輩:先輩! 手紙を勝手に読んだことは謝ります!
後輩:でも私は! 先輩に後悔してほしくなくて!
後輩:こんな手紙を書くってことは伝えたい気持ちがあるんですよね!?
後輩:それを黙ったまま学校を去って、本当にいいんですか!?
一条:……そうだな。僕が間違ってたよ。
後輩:先輩……。
一条:んんっ!(手紙をやぶく)
後輩:あああ! なんで手紙やぶいちゃうんですか!?
一条:この気持ちは! 今伝えるべきじゃないし! 三十年後に伝えるべきでもない!
一条:ずっと僕の心に秘めておくべきものだ。
一条:いやー、きみが手紙をとりだしておいてくれて助かったよ。
一条:あやうく三十年後恥をかくところだった。ありがとう。
後輩:……先輩のバカッ!(ぱぁん!とビンタ)
一条:いったぁっ!(倒れて気絶)
後輩:もう知りません!(退場)
不良:ええー……? あいつ、すげぇ良いビンタしてるな……!
不良:い、一条、大丈夫か、おい!
不良:一条ー! 起きろー! 私の課題! 手伝ってくれよ、おい!
不良:あああ、もう! どうすりゃいいんだよ!
不良:卒業式まであと1時間もないのに、終わるわけねえよ……!
未来警察:はあー困ったなー。犯人には逃げられるし、三原則は破っちゃうし……。
未来警察:あーもう私のバカ。なんで来る日付間違えちゃったんだろう。
未来警察:こんな失敗とりかえしが……ん? いや、とりかえしはつくよ!
未来警察:タイムマシンがあるんだから!
未来警察:えーと、設定、行き先を昨日にあわせて……。
不良:何やってんだ、お前?
未来警察:わああ! い、いつのまに!
不良:ここの生徒じゃねえよな? 何やってんだ?
未来警察:い、言えません!
未来警察:過去の人間に未来の情報を与えてはいけない!
未来警察:タイムスリップ三原則 第一条にそう記されてるんです!
不良:タイムスリップ……?
未来警察:……ああああっ! 未来の情報を与えてしまった……!
不良:どういうことだ?
未来警察:もう隠しきれません……実は……私は、未来警察のものなんです!
不良:はあ?
未来警察:タイムマシンで過去にとび、時間をまたいだ犯罪を防ぐ、それが未来警察です!
不良:何をバカな……。
未来警察:本当です! 三十年後の未来から来たんですよ!
不良:じゃあ……ワンピースの最終回どうなった?
未来警察:ああ。あれまだ続いてますよ。
不良:うそおっ!? 三十年後だぞ!?
未来警察:一回終わったんですけど、今は続編のツーピースっていうのをやってます。
不良:いやいやいや、ないだろ!
未来警察:どうしたら信じてくれるんですか!
不良:もっとちゃんとした証拠を見せてみろよ。
未来警察:証拠……あ、じゃあこれ見てください! 未来警察手帳。
不良:未来警察手帳って言われてもな。
未来警察:これすごいんですよ、ここに指を置いてみて。
不良:こうか?
未来警察:出ました。職業、伝説のスーパー……え?
未来警察:ちょっ、ちょっと待ってください。
未来警察:あなた、もしかして……姫宮レイさん?
不良:おう。
未来警察:あああっ! すごい! 本物だあ!
不良:え?
未来警察:あ、握手してもらっていいですか? 私、大ファンなんです!
不良:お、おう。え、私ってそんなに有名?
未来警察:そりゃもう! 日本人なら誰でも知ってますよ!
不良:へ、へえ~。まぁいろんな学校にケンカ売って、けっこう伝説残してきたしな、へへ。
未来警察:サインもらってもいいですか?
不良:おう、いいぞ。
未来警察:今日の日付も書いてもらえますか?
不良:おう。
未来警察:あと、名前の上に、伝説のスーパーアイドルって入れて下さい。
不良:……なんで?
未来警察:なんでって?
不良:お前、誰かと間違えてないか?
未来警察:間違えてませんよ。姫宮レイさんでしょ?
未来警察:18歳でデビューしてあっという間に大人気!
未来警察:20年連続紅白出場をなしとげた、あの伝説のアイドル!
不良:はあ?
未来警察:……あれ。今日って何日でしたっけ?
不良:3月18日だけど?
未来警察:ああああああ! まだデビュー前だった……!
不良:なんだ、てめえ、からかってんのか!?
未来警察:か、からかってませんよ! あなたは本当に今年アイドルデビューするんです!
不良:ばかばかしい、このあたしがアイドル? やるわけねーだろ、そんなもん。
未来警察:え? アイドル、なりたくないんですか?
不良:当たり前だろ。
未来警察:おかしいなぁ……?
未来警察:インタビューでは、子どものころからずっと憧れてたって言ってたのに。
不良:な、なぁんで、あたしが……。
未来警察:ずっと歌やダンスの練習してたって。
不良:なわけねえだろ。
未来警察:でも人前で歌うのは恥ずかしいから、
未来警察:お客さん役はミミピョンっていうウサギのぬいぐるみだけだったって。
不良:て、てめえ……! なんで……!
不良:なんで、ミミピョンのこと知ってるんだ……!
未来警察:信じてもらえましたか?
不良:これは絶対誰も知らないはず……
不良:えええっ、じゃあたし本当にアイドルに!? な、なれるの!?
未来警察:がんばってくださいね! ……て、こうしちゃいられない。早く行かないと。
不良:ちょっとまて! もう少し詳しく聞かせろ!
未来警察:なんですか、急いでるんですよ! 早く昨日に戻らないと!
不良:昨日に戻る? どうやって。
未来警察:タイムマシンです。そっちの部屋にありますよ。
不良:え? うわっ! なんだこれ! なんか空間がウネウネしてる!
未来警察:昨日とつながってるんです。飛び込めば昨日にいけますよ。
不良:ちょっと待て……昨日に戻れば、卒業式まで丸一日時間ができるってことだよな。
未来警察:まぁ、そうですね。
不良:そうすりゃ課題を終わらせることもできるってことだよな!
未来警察:課題?
不良:ちょっと借りるぞ、これ!
未来警察:ちょ、だめですよ! タイムスリップ三原則 第二条!
未来警察:過去の人間にタイムマシンを使わせてはいけない!
不良:てめえ、さっき第一条やぶったばっかだろ!
未来警察:ぐ……それを言われると……。
不良:頼むよ! 何でもするから!
未来警察:う、うーん…………
未来警察:あ! じゃあ、来週……あ、30年後の来週ですけど。
未来警察:笑っていいともにゲスト出演するときテレホンショッキングのお友達紹介で、私を呼んでください!
不良:笑っていいともはもう終わっただろ。
未来警察:復活するんですよ。2038年に。
不良:あ、そうなの?
未来警察:はい。2035年にクローン技術が確立されて、いまはタモリのクローンが司会をやってます。
不良:まじで!? ま、まあいいや。わかった。呼んでやる!
未来警察:やったー! 一度出てみたかったんですよねー!
不良:じゃあ行ってくる!
不良:ほわわわわーんっ(ワープ音。自由にそれっぽくどうぞ)
未来警察:いってらっしゃーい!
未来警察:おー。楽しみだなぁ……ちょっと練習しておこう。
未来警察:んんっ。明日きてくれるかな? いいともー! ん、ちがうな。いいともー!
不良:何やってんだ、お前?(休憩室から出てくる)
未来警察:うわあっ!? あれ!? だって今さっき……昨日に行かなかったんですか?
不良:いったよ。で課題頑張ってそうこうするうちに24時間たって、もうすぐお前がくるから待ってたんだ。
未来警察:あ、ああ、そういうことですか。で、課題は?
不良:半分しか終わらなかった。だから頼む! もう一周させてくれ!
未来警察:ええ!? いや、それはさすがに無理ですよ! 一回でもまずいのに!
未来警察:もういいじゃないですか。どうせアイドルになるんだから。
未来警察:高校は中退してアイドルデビューしましょうよ。
不良:ええ~。そんな選択肢あるかぁ?
一条:いたたたっ……えーと、ぼくは……?
不良:おお、目が覚めたか、一条。ちょっと聞きたいんだけどさ。
一条:なんですか。
不良:あたしが高校中退してアイドルデビューするっていう選択肢、どう思う?
一条:……姫宮くん。ヤケになってはいけない。もっとちゃんと人生を考えて!
不良:考えてるよ! ああ、もう! とにかく私は何が何でも卒業するんだ!
不良:うりゃあ!
不良:ほわわわわーんっ(ワープ音。自由にそれっぽくどうぞ)
未来警察:あー! ちょっと待ってください!
未来警察:ああ、もう困ったな。もし本部にばれたら……。
一条:あの人は何をやってるんですか?
未来警察:さ、さあ~?
一条:それであなたは?
未来警察:ああ私はみら……! みらぃ……いや、みら、ミラノ! ミラノから来ました!
一条:ああ、留学生でしたか。ボンジョルノ。
未来警察:ぼんじょるのー。
一条:はじめまして。一条トオルです。
未来警察:はじめまして。一条カオルです。
一条:あ、名字同じですね!
未来警察:そうですね! すごい偶然……一条トオルーッ!?
一条:は、はい。
未来警察:あ……あなた、血液型は……!?
一条:Aです。
未来警察:誕生日は……!?
一条:5月5日です。
未来警察:年齢は……!?
一条:18歳です。
未来警察:くしゃみしてみてください。
一条:へっ……へっ……へっぷるぱぶっ。
未来警察:うわああ! ま、間違いないっ! あなた、私の、おと……お、おとぉさ……!
一条:どうしました?
未来警察:お、おと、おとぉなしくしろい!
一条:はい?
未来警察:な、なんでもありません! ど、どうしよう……!
未来警察:タイムトラベル三原則 第三条。過去の時代で自分の先祖と接触してはいけない!
未来警察:私、今日だけで三原則全部やぶっちゃったよ……
未来警察:……ん?(手を見る)
未来警察:うわああああ! 手が! 手が! 体のはしっこから消えかけている!
未来警察:これ、あれだ、あの、親が未来からきた子供を好きになってそのせいで未来が変わって子供が生まれなくなるっていう、あの、車の映画のやつだ!
一条:大丈夫ですか?
未来警察:うわああ! 触らないでください!
未来警察:ダメ! 見ないで! 私を好きにならないで! あなたとは付き合えません!
一条:いや、そんな話、してませんけど。
未来警察:結婚して下さい!
一条:え、どっち!?
未来警察:いや、私とじゃなくて! 将来的に誰かしらと必ず結婚は、してください!
一条:そ、それはまぁ……。
未来警察:そして必ず、こづくりしてください!
一条:……ミラノでは初対面でこういう話をするんですか?
未来警察:えええと、あなたはいま恋人はいますか?
一条:いませんけど。
未来警察:じゃあ恋愛で悩んでいることは?
一条:初対面からぐいぐい来ますね!
未来警察:お母さんの旧姓は確か……そうだ! 桜井!
未来警察:桜井っていう名前の高校教師とはもう出会ってますか?
一条:な……! なんでそこで桜井先生の名前が……。
未来警察:もう出会ってるんですね? いいですか。あなたはその人と将来結ばれます!
一条:……なにをばかな。
未来警察:本当なんです、信じてください!
一条:生徒会長から聞いたんですか? もういいんです。
一条:この気持ちは告白するつもりなんてない。僕の心に秘めておきます。
未来警察:なんでですか!
一条:だって告白してこっぴどく、ふられたりしたら……もう僕ショックで死にますよ。
未来警察:そのときは私も死にますよ!
一条:なんで!?
未来警察:わかりました! じゃ告白はしなくてもいいです!
未来警察:せめて子作りだけでもしてください!
一条:何言ってるんですか、あなたは!?
後輩:先輩。
一条:生徒会長……。
後輩:私もその人と同じ意見です。
一条:ええっ? 告白なしで、子作りだけしろって?
後輩:違います! そうじゃなくて、気持ちはしっかりと伝えるべきです。
一条:でも……。
後輩:本当は伝えたかったんでしょう!? だから手紙を書いたんでしょう!?
後輩:でも渡すことができなくて、それでタイムカプセルに入れたんでしょう!?
後輩:けど、それで本当にいいんですか?
後輩:先輩の今の気持ちが、伝わるのが三十年後で本当にいいんですか?
未来警察:そうだそうだ!
後輩:パン泥棒は黙っててくださいっ。
未来警察:ぱ、パン泥棒……?
後輩:桜井先生言ってました。
後輩:未来がどうなるかなんてわからない。
後輩:だからこそ今を必死に生きるんだって!
一条:今を……!
不良:未来警察ー! もう一回貸してくれ!
未来警察:姫宮さん!? えーと……何週目の姫宮さん?
不良:三周目だよ!
未来警察:まだ課題終わってないんですか?
不良:終わんなかったらもう一周すればいいやって思うと気合い入らなくてよ!
不良:昨日は一日遊園地で遊んでた!
未来警察:バカじゃないですか!?
不良:つーわけで、もう一回貸してくれ!
未来警察:いやですよ! っていうか、そんなんじゃ、何回貸したところで同じですよ!
不良:んじゃもう、めんどくせーから昨日じゃなくて一年くらい前に戻してくれよ!
未来警察:一年頑張るんならおとなしく留年すればいいじゃないですか!
桜井先生:おまわりさん! タイムカプセル掘り返してきたんですけど!
未来警察:おお!
桜井先生:でも中に牛乳とパンなんて入ってませんでしたよ!?
未来警察:ええっ!? そんな馬鹿な!
一条:先生!
桜井先生:なに?
一条:先生……好きです! 三年前からずっと! ずっと好きでした!
桜井先生:…………えええーっ!?
一条:桜井先生! ぼくと……ぼくと……!
未来警察:子作り。
一条:子作りしてくだ……ちがう! 結婚してください!
桜井先生:………………えぇ……?
一条:ずっと、ずっと好きだったんです!
桜井先生:わ……私も好きよー。うちのクラスの子たちは良い子ばかりでみんな大好きっ。
一条:先生、そういうことじゃなくて……。
桜井先生:ああ、あと他の先生方とかもね、あとは家族とかー。
一条:先生、あの……。
桜井先生:あ、そうだ! そろそろ卒業式じゃない? ほら、早く準備しないと……。
後輩:逃げないでよ、先生!
桜井先生:……っ!
後輩:一条先輩は、ちゃんと向かい合ったんだよ!?
後輩:だったら、先生もちゃんと向かい合ってよ!
桜井先生:…………そうね。
桜井先生:……一条君っ。……私は…………!
桜井先生:
0:(時間経過。卒業式)
0:
後輩:卒業生、答辞 三年 一条トオル。
一条:はい!
一条:2021年3月18日。一条トオル。
一条:今日、私は桜井先生に対し、ひわいな妄想をしてしまいました。
一条:申し訳ありません。
一条:……ああっ!? これ原稿じゃなくて反省文だ!
一条:あ、いや、違うんです、そうじゃなくて! あれっ、原稿ない?
一条:ええっと……あの……!
一条:(大きく深呼吸)
一条:……三年間、いろんなことがありました。笑ったこと。泣いたこと。
一条:楽しすぎて、前に進まずこのまま学校に残りたいなんて思ってしまったりもしました。
一条:でも今、本当に、何一つ心残りなく、卒業することができます!
一条:それは先生と、
一条:ぼくを元気づけて、ぼくの背中を押してくれたみんなのおかげです。
一条:桜井先生。
一条:生徒会長。
一条:姫宮くん。
一条:ミラノから来た留学生。
一条:本当に……本当にありがとうございましたっ!
一条:
0:(みんなで拍手をする)
0:
未来警察:うええええっ!(泣く)
不良:おい、しっかりしろよ! なんで卒業生でもないお前が一番泣いてるんだよ!?
未来警察:うう、一条さんが桜井先生にふられたぁあ……!
不良:だからなんでお前が一番悲しんでるんだよ?
不良:一条もすっきりしたみたいだし、これでいいだろ。
未来警察:もうだめだぁ……私の存在が消えてしまう……。
不良:なんで。
未来警察:だって私は……一条さんと、桜井先生の、未来の子供なんです!
不良:うそ、あの二人結婚するの!? だって、さっき……。
未来警察:はい。告白が失敗したことによって、未来が変わりました。
未来警察:ほら、私の体もだんだんと……ある!? えっ!? 手が戻ってる?
不良:どうしたんだ?
未来警察:消えかけていた体が戻ってるんですよ! でも、なんで……?
未来警察:あの二人が結ばれなければ、私が生まれてくるはずないのに……。
不良:本当にお前の両親ってあの二人なのか?
未来警察:はい。お母さんの旧姓桜井だし、職業は高校教師だし。
未来警察:それにお父さんが高校生の時に二人は出会ったって言ってました。
不良:信じらんねえなあ、本当かよ。
未来警察:本当です。だって桜井って名前の先生、他にいないですよね?
不良:まぁ、先生の中にはいないけど。
未来警察:うーん……ま、いっか! とにかく消えなかったんだから、それで万事OKです!
不良:だな。私も留年回避できて万事OKだ。
未来警察:あ、課題終わったんですか?
不良:おう。お前が泣いてる間に二十周くらいしたよ。
未来警察:どんだけかかってるんですか。
不良:お前もなんか昨日にいく用事があったんじゃないのか?
未来警察:ああ、そうでした! 毒ガス事件を未然に阻止しないと! じゃさようなら!
不良:おう、いろいろありがとな!
未来警察:忘れないでくださいよ、来週の約束。
不良:忘れねえよ、三十年後の約束。
未来警察:それじゃ!
未来警察:ほわわわわーんっ(ワープ音。自由にそれっぽくどうぞ)
不良:……アイドル、か。
桜井先生:姫宮さん。
不良:おお先生! ほら、課題! な、全部やってあるだろ!?
桜井先生:あら、本当。
不良:で、な、これで卒業……。
桜井先生:うーん、そうね……わかった。じゃあギリギリセーフね!
不良:よっしゃああああ! 間一髪助かったー!
桜井先生:でも卒業して進路は決めてあるの?
不良:あっ……うん、その、決めたというか、言われたことがあって……。
桜井先生:なに?
不良:その……アイドルになろうと思うんだ。
桜井先生:アイドル。
不良:あああ違うぞ! 子どものころからちょっとだけ思っててさ!
不良:そしたらさっきのやつが私がアイドルになるって、
不良:いや別に信じたわけじゃないけどさ! とりあえず、一回ちょこっとだけやって、もしそれでだめなら、いや、ダメに決まってんだけどさ、
不良:そのー、ああもう、笑うなよ!
桜井先生:笑わないってば。
不良:え。
桜井先生:アイドルかー。いいんじゃない?
不良:な……バカにしないのか?
桜井先生:先生が生徒の夢をバカにしたりしないって。
不良:で、でも、元ヤンの私が、アイドルなんて……。
桜井先生:大丈夫。今テレビで笑ってるアイドルだって、どうせ黒い過去があるから。
不良:めったなこと言うなよおい!
桜井先生:頑張ってね。
不良:……おう! じゃあな!(退場)
後輩:桜井先生。
桜井先生:ああ、生徒会長。お疲れ様。おかげで良い卒業式になったわ。
後輩:そうですね……
桜井先生:……あなたはいいの?
後輩:何が?
桜井先生:一条君に好きって告白しなくて。
後輩:なっ! し、知ってたの!?
桜井先生:そりゃー、もう。かわいい妹のことは何でもわかります。
後輩:……普段は学校の中ではけじめをつけるようにっていうくせに。
後輩:こういうときだけお姉ちゃんぶるんだから。
桜井先生:で、告白しないの?
後輩:……今は、まだいい。
後輩:もっと頑張って、もっと成長して、もっと自信が持てたら、そのときちゃんと言う。
後輩:それまで……頑張る。前を向いて、一歩ずつ。
後輩:これが、その、最初の一歩。はい。(プリントを渡す)
桜井先生:これは?
後輩:昨日のプリント。中身は変わってないけど……でもやっと提出する勇気が持てた。
桜井先生:……わかった。
後輩:じゃあ、私、一条先輩探してくるから! また後でね、お姉ちゃん!(駆け出す)
桜井先生:学校では、桜井先生でしょー?
後輩:はーい!
後輩:
未来警察:時を戻して、これは物語の一日前。
未来警察:2021年3月17日。卒業式前日のこと。
未来警察:
桜井先生:はー忙しい忙しいっ。
桜井先生:あとは、プログラムの確認と、受付の準備と、あと朝食食べて、タイムカプセル準備して……!
桜井先生:あーそうだ、私まだ入れてなかった!
桜井先生:えーと……よし、クラス写真と寄せ書きにしましょう。
桜井先生:じゃあこれは冷蔵庫に入れて、朝食はとりあえずタイムカプセルに入れて。
桜井先生:あっ、そうだ、音響のほうも確認しておかないと。あー忙しい忙しい(退場)
不良:ほわわわわーんっ(ワープ音。自由にそれっぽくどうぞ)
不良:よっと! おおっ、着いた……のか? 全然かわんねえなあ。本当に昨日に戻ってるのか?
不良:ああ! 昨日埋めたはずのタイムカプセル!
不良:うわ、じゃあここ本当に昨日かよ。
後輩:おはようございます。
不良:おう、生徒会長! ちょうどよかった。ここ教えてくれない?
後輩:え? え? これ三年生の課題ですよね。私二年生なんですけど。
不良:お手伝いしますって、さっき言ってたじゃねえか!
後輩:さっき?
不良:あー、さっき、じゃなくて、明日?
不良:ああ、もういいから! みてくれ!
後輩:そういわれても……えっと……ああ。ここに補助線ですよ。そしたら、ほら。
不良:お? おーおーおーなるほどなー。助かった、ありがと! じゃあな!(退場)
後輩:あ、はい……え? あの人卒業式前日に何やってるんだろう?
未来警察:ほわわわわーんっ(ワープ音。自由にそれっぽくどうぞ)
未来警察:とう! 本部へ連絡! 今度こそ2021年3月17日に到着しました!
後輩:えっ、えっ!? あの……。
未来警察:ご安心ください! 私はあやしいものではありません!
後輩:いや、どう見ても、あやしい……。
未来警察:あー! タイムカプセル発見! 捜索開始!
未来警察:確保ー! パンと牛乳を確保しました!
未来警察:ただちに分解作業に入ります! んぐんぐぐっ!(もぐもぐパンを食べ始める)
後輩:ちょっ、ちょっと! それ勝手に食べちゃだめでしょう!?
未来警察:もご! もっごもごお!(さようなら!)
未来警察:ほわわわわーんっ(ワープ音。自由にそれっぽくどうぞ)
後輩:ちょっと待ちなさ……!
後輩:ええっ、誰もいない!? 確かにさっきこの部屋に……
後輩:どうしよう? この箱からパンを盗んでったみたいだけど……
後輩:あっ、これ……一条先輩の手紙……!
後輩:『桜井先生へ 一条トオル』
後輩:一条先輩……やっぱりお姉ちゃんのことを……先輩。
桜井先生:おはよう。
後輩:うわあっ! お、おはよう、お姉ちゃん。
桜井先生:お姉ちゃんじゃないでしょ。学校では桜井先生。でしょ、生徒会長。
後輩:あ、そうだね、じゃなくて、そうでした。
桜井先生:そうそう。あなたまだ進路希望のプリント出してないらしいじゃない。
桜井先生:山田先生から、せかしといてくれって言われたよ?
後輩:あ、ああ、あれ……一応、書いてはあるの。
桜井先生:なんだ、じゃあ、先生に渡しておくから。
後輩:うん……じゃあ、これ……。(プリントを渡す)
桜井先生:どれどれ? 将来の希望……高校教師。
桜井先生:へー、あなたも先生になりたかったんだ?
後輩:う、うん……お姉ちゃんみたいな先生にあこがれて……。
桜井先生:わー、それは嬉しいなー。
後輩:ま、まって、返して! やっぱりやめる!(プリント取り返す)
桜井先生:なんで?
後輩:だって私には無理だもん。
桜井先生:そんなことないでしょ。
後輩:でも私人見知りするし、引っ込み思案だし、
後輩:生徒会長だって一条先輩がいなくなって、
後輩:これからちゃんとできるかわからないし……。
桜井先生:大丈夫。未来なんて、誰にもわからないんだから。
後輩:……うん。もうちょっと考えさせて。
桜井先生:わかった。……ところで、その手に持ってるのはなに?
後輩:え?
桜井先生:手紙?
後輩:あああ、こ、これは、何でもないの!
桜井先生:そう? ま、いいや。さてと……(カプセル閉じようとする)
後輩:あああまってまって! た、タイムカプセルのふた、とじちゃうの?
桜井先生:うん、あとは埋めるだけだし。よっと。(とじる)
桜井先生:いやー、次にこれが開かれるのは30年後かー。
後輩:あぅぅ…………。
桜井先生:どうしたの?
後輩:い、いや、別に……
後輩:ちょっと、30年後、これを開けるとき、どうなっちゃうのかなって……。
桜井先生:そうね……30年後、みんなどうなってるんだろう。
桜井先生:どんな人生を歩んで、どんな大人になってるんだろう。
桜井先生:私も、想像もつかない……。
後輩:いや、そういう話じゃないんだけど……。
桜井先生:未来は誰にもわからない……。
桜井先生:でもね、わからないからこそ、人生は面白いの。
桜井先生:わからないからこそ、今を必死に生きるの。
後輩:……今を……。
後輩:……うん。私、がんばってみる。
桜井先生:うん、がんばってね。
後輩:じゃあまたね、お姉ちゃん!(駆け出す)
桜井先生:学校では、桜井先生でしょー?
後輩:はーい!
後輩:
0:(閉幕)