9、観光
お盆休み4日目、体調が完全回復したので今日は逆に侑ちゃんにお礼を込めてお声掛けをする。
「侑様ー起きてらっしゃいますかー?」
朝、10時、私は買い物を済ませ、侑ちゃんの部屋へ。さすがに起きてるかなと思っていたのに侑ちゃんは寝ぼけ眼で扉を開けて部屋から出てきた。目があいていない。少し可笑しい。
「なんなーん伊織ちゃん…。もう元気なん?大丈夫?夜中はまだ顔熱かったのに。」
目を擦りながら侑ちゃんが私を見ている。夜中?えっこの人寝ずに看病を?信じられない。
「はい、ありがとうございます。完全復活です。今日はですね。おもてなしをさせていただこうかと思いまして!侑ちゃんが上京してきたのに観光も連れて行ってないなと思って。」
「あーまあそうね。でもぶり返さない?」
「大丈夫です!とにかく日頃の感謝を込めまして私の考えました観光へ参りましょう。11時出発です。」
「わお。今10時20分なんよ。」
「男の人の用意なんて着替えるだけでしょ。」
「わあ。それは偏見です!」
「すみません、謝ります。」
「よろしい。じゃあ用意します。」
「じゃあ11時にリビングに来て。あ、荷物は何も要らないです。ハンカチくらいあと携帯。」
「はーい。」
着替えて寝癖もなおしてきた侑ちゃんに首にかける携帯が入る位の大きさの黒いポーチを渡す。中にはお金が入っている。透明じゃないから侑ちゃんからしたら何かを首にかけられたなという心境だろう。今日の侑ちゃんの服は黒のリネンのセットアップ、上は半袖下は長ズボン。私もリネンの黒のセットアップ。半袖と長ズボン。
「ちょっと着替えてきて。またペアルックになっちゃうでしょ。」
「えー今日はこれが着たい気分なの。」
「私も!はあとにかく首のポーチなくさないでね。」
「首にかけてるのになくす?」
「はいはい。じゃあ行きますよ。伊織探検隊しゅっぱーつ!」
私はせめてと黒のバケットハットを被った。さすがに侑ちゃんは帽子は被ってない。よし。
「はーい。ついていきまーす。あれ探検?」
そうして2人で探検に出かけた。
「じゃあまずはここボーリングです。」
「ボーリング?」
「はい、じゃあ1ゲーム分を2人分払ってください。先払いなので。靴のレンタル料は含まれてます。」
「ボーリング?」
「早く首のから出して。」
「えっこれお金やったん。びっくりやわ。」
とブツブツブツブツ言いながらお金を2人分出してくれた。
「先に言っておこう。侑ちゃん私はボーリングが好きだがめちゃくちゃ下手くそだ。」
「なんの主張やねん。はははは。」
席に座りボールを撫でながら言うとものすごく笑われた。そして投げていくと1本目とラストだけがストライクで後は全てガーターだった。
「伊織ちゃん!嘘やろ!えっ!」
「侑ちゃんだって下手くそじゃん。」
「100点とったら充分やろ。」
「ふん。大人気ない人。」
「いやだー伊織ちゃん!置いて行かんといて。」
「さっ次に行きますよ!」
「急に冷たいやん。」
私は背後でそんな言葉を感じながら歩き始めた。
「はーいじゃあ次はお好み焼きでーす。」
「うわぁすごい観光っぽい!でも僕の地元でも食べられるかも!」
席に案内されてテーブル席に座る。向かい合って座りメニューを見ずに店員さんを呼んだ。
「すみません!」
「はい、お決まりですか?」
「ミックス焼き大を1つと名物焼きそば大を1つ。それとメロンソーダを2つお願いします。」
「かしこまりました。」
お姉さんがにっこりと注文を取って厨房に戻りすぐにメロンソーダを出してくれた。
「お好み焼きと焼きそばはもう少々お待ちください。」
「はい。じゃあ侑ちゃん乾杯。」
「乾杯。」
美味しい何故か知らないけどここのメロンソーダはいつ飲んでも美味しい。
そうこうしている内にお好み焼きも焼きそばも持って来てくれた。今日は焼きそばに目玉焼きが乗っている。
「うわぁ美味しそうやなぁ。」
「今日は私めが取り分けさせていただきますね。」
「ありがとう。」
鉄板の上で半分にしてから侑ちゃんの目の前に持っていく。焼きそばも適当に半分にしてその隣に置く。
侑ちゃんはお好み焼きを1口食べた。その顔がみるみるうちに変わる。目を見開いて私を見た。
「えっめちゃくちゃ美味しい。なんなんこの店ヤバない?最高やん!」
「ふふっでしょ?最高なの。よく薫ちゃんと来たの。叔父さんと3人でも来たことあるかな。」
「ああ、薫さんと。家から近いもんね。」
「うん、薫ちゃんには本当の子供みたいに可愛がってもらったし。もちろん今もね。本当にありがたい。」
「薫さん優しいもんね。」
会いたいなぁ。会社帰りに薫ちゃんと2人で飲んだりもしたし。
「さあ少し散歩しましょうか。お会計を侑ちゃんお願いしますね。」
「いや、伊織ちゃんのお金やからご馳走様。さっきもボーリング代もありがとう。」
「今日は侑ちゃんをおもてなしする会だから。」
そして店を出て少し歩く。ここから川沿いを下って30分位歩いて河川敷に座る。
「今日も暑いね。」
侑ちゃんに拭かれる前に汗を拭く。侑ちゃんも自分の汗を拭いている。
「伊織ちゃん体調は大丈夫?」
「大丈夫よ、ありがとう。さあそろそろ行こうか。」
私は立ち上がり侑ちゃんの前に手を出した。侑ちゃんが素直に手を掴んでくれたので引っ張って立ち上がらせる。
「ありがとう伊織ちゃん。」
そして同じ道を川沿いに引き返して少し駅の方へ歩く。お好み焼き屋さんを出て1時間30分位経っただろうか第3の目的地に着いた。
「さあここです。」
「銭湯?」
私は自分のカバンからスーパーの袋を出して侑ちゃんに渡す。中にはバスタオルとシャンプー、コンディショナー、ボディソープが入っている。後、朝に買いに行った男性用の服も入っている。黒の大きめのTシャツと黒のシェフパンツ、白い靴下に男性用の下着類、普通の黒のトランクスと半袖の白の綿の肌着。
「そう!さあ番台さんにお金払って。きっかり1時間後にまたここで。」
と銭湯の入口を指さす。侑ちゃんは笑ってお金を払いながら、
「了解。」
と入っていった。そういえばと思い出し暖簾をくぐる侑ちゃんの背中に中で何か飲んじゃ駄目だよ!と叫んだ。侑ちゃんが振り返り頷いたので私も安心して中に入った。
私はまず化粧を落として顔を洗う自分だけ洗顔を持ってきているのは侑ちゃんには内緒。もう化粧はせずに日焼け止めだけ塗るつもりでいる。とにかく頭を洗い体を洗いゆっくりと体を温める。その後、サウナへ。久しぶり過ぎて長くは居られなかったけど何度か水風呂と往復しているともうすぐ40分位経っているのでもう一度体を洗ってお風呂に入り。お風呂場を出て脱衣所へ。私も新しい服に着替える。サラッとした生地のワンピースだけで靴もサンダルに変える。髪を乾かし日焼け止め塗って外に出ると先に侑ちゃんが待っていた。
「ごめんね待った?」
「ううん、僕もさっき出たとこ。服ありがとうね。さっぱりしたわ。」
よかったちゃんと似合っている。できるだけシンプルな服装にしたので大丈夫だとは思っていたけど服を贈るの初めてだったので心配だった。ポーチも首に下げてるし。
「いいえどういたしまして。じゃあ着替えかして持っておくから。」
「大丈夫よ。僕持っとく。」
「早くかして。侑ちゃんの持ち物は首のそれだけ。」
私の圧力に負けて侑ちゃんが袋を渡してくれた。
「じゃあ侑ちゃん行きましょうか!」
「あれ終わりじゃないの?」
「まさか!侑ちゃん喉渇いてない?」
「渇いてるけど…まさか。」
「そう!行くよ!」
「生2つと、タレのもも2本と、塩のハツ1本と砂肝ポン酢、揚げだし豆腐とだし巻き玉子。」
「はい、ありがとうございます!生2つはすぐにお持ちしますね!」
ハキハキとした女性の店員さんが颯爽と店内を駆け回っている。17時の開店と同時に入ったのですぐに座れたが、お盆休みだからかいつもより人が多い。
「とりあえず私のおすすめは頼んだけど。ここはメニューにのってる料理全部美味しいよ。」
「へ〜確かに全部美味しそうやなぁ。うわぁチキン南蛮美味しそう!」
「美味しいよ!生持ってきてくれた時に頼も。」
「はい、生お待ち!ごゆっくりどうぞ!」
「ありがとう、チキン南蛮追加でお願いします。」
「はい、ありがとうございます!」
「じゃあ今日2度目の乾杯を。乾杯!」
「乾杯!」
ぷはぁーうめぇー。渇いた体に染み渡るなぁ。
「飲むの久しぶりやわぁ。たまに飲むのも美味いなぁ。」
「でしょう。ちなみにこれで観光は終わり。だから好きなだけ飲んで食べて!ここから家まで10分ないから。」
「近いなぁ。じゃあお言葉に甘えて。」
とビールを飲み干した。そういえばタッチパネルで注文できるって言ってたな。
「ああ、これか。侑ちゃんビールおかわり?」
「うん、ありがとう。」
タッチパネルでビールを頼む。
「じゃんじゃん飲んで。」
「はーーーーースッキリした。」
「伊織ちゃんご馳走様でした。めちゃくちゃ楽しかったわ。」
「よかった。私もとっても楽しかった。」
「さあ帰ろうか伊織ちゃん。」
「うん、帰ろう。」
「伊織ちゃんフラフラしてるけど大丈夫?」
「大丈夫よ。なんか今日気持ちよーく酔ってるの。侑ちゃんのおかげだね。」
「おいおいそっちは道路やで!ちょっともう腕掴んどいて!前見て歩き!」
「あははは。ありがとう侑ちゃん。」
私は侑ちゃんの腕を掴んで歩き出した。今日は本当に気持ちよく酔っている。ふわふわして気持ちがいい。
「ねえあの道のとこに居るのって。」
「ああ、人事の女の子の水野さんですね。」
「よね?あんなに笑う子なのね。楽しそう。」
「本当ですね。酔ってるのかもしれないですけどめちゃくちゃいい笑顔ですね。横のは彼氏ですかね?」
「そうかもね。イケメンだしあの子なかなかやるわね。」
「帰ります?」
「そうね旦那待ってるし。」
「じゃあここで解散しますか。」
「そうねじゃあまた会社で。気を付けてね高田。」
「はい棚橋さんも気を付けて帰ってください。今日、すごい荷物ですから。」
「高田もだけどね。じゃ。」
「はい、お疲れ様です。」