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5、気分転換


お風呂に入ってこいと言われてゆっくりと過ごせるはずがなく、さっと済ませてリビングへ行くと侑ちゃんが何やらキッチンでゴソゴソとしているのが見えた。テレビの前の机にはポップコーンとホットドッグ、チキンナゲット、フライドポテトそれに私がこの前買ってきた冷凍のチュロスまで紙皿に乗っている。全ての料理が温かい。


「伊織ちゃん炭酸のジュースかオレンジジュースどっちにする?」


私に気付いた侑ちゃんが笑顔で聞いてくれた。さっきまでの緊張感はどこへ行ったのか。ていうか緊張していたのは私だけか。


「えっと侑ちゃんと同じの。」


「じゃあ炭酸ね。さあ準備できたし今日は夜通し映画見るの付き合ってもらうから。」


炭酸ジュースがなみなみと注がれた大きな紙コップを2つ持っている。私が呆気にとられていると侑ちゃんがテレビの前に座り机に飲み物を置いた。


「ほら隣座って。」


言われるがまま座るとクッションとタオルケットが用意されている。侑ちゃんが私の前に飲み物を動かしブルーレイをデッキに差し込んでいる。


「僕、夜ご飯まだやから1人で映画館ごっこしようと思っててん食べられるんやったら食べて。無理はせんとってな。」


「ありがとう。」


それでこんな本格的に。侑ちゃんってすごいなぁ。私ならきっと映画を見るだけだと思う。部屋を暗くして映画が始まった。

1本目はハラハラした場面の多いサスペンス映画で話が二転三転するのをドキドキしながら見ていた。侑ちゃんは表情を変えずにじっと映画を見て、時々モグモグとポテトやホットドッグを食べていた。

2本目は恋人と別れた女性が旅に出るという映画で全体を通してゆったりとした映画だった。音楽がゆったりとした気持ちにさせるのかもしれない。ケーキとアイスが食べたくなってきてチラッと侑ちゃんを見ると、頷き冷蔵庫からタルトを出しレンジで少しだけ温めてそこにバニラアイスを添えてくれた。なんと準備のいい人なのだろうか。

3本目は女性と女性の恋の始まりから終わりまでの映画で長い映画だったけど、とてものめり込んで見ていた。本来なら侑ちゃんと見るのが気まずいであろうシーンも気にならない位、2人の恋愛の行く末が気になった。そして最後のシーンで引くほど泣いた。よく侑ちゃんは何も言わなかったなと思う程、頭が痛くなって目が真っ赤になって瞼がはれるほど泣いた。

そしてスッキリした頭で答えが出た。藤間さんの事を好きな気持ちを消そうと。会えるだけで話せるだけで幸せと思えなくなっているのならもう潮時だ。これ以上の感情は破滅しかもたらさない。決定打は食事で何かを期待した事、これは許されない事だ。

そして全ての映画を見終えたのは朝の6時前だった。腫れた目を冷やす為の濡れたタオルを私に渡して侑ちゃんが隣に座りもうぬるくなっている炭酸ジュースを飲み干して言う。


「さあ行こうか。」


どこへ?私の心を見透かすように笑って言う。


「焼きたてのパン買いに行こ。」


「パン?」


こんなにお腹いっぱいなのに?侑ちゃんに至っては机の上にあった食べ物をほとんど1人で食べたはずなのに。


「そう、7時に開くから1時間散歩してパン屋さん行こ。」


「分かった。」


最後まで付き合うかと覚悟を決めて私は着替えに部屋に戻った。


パン屋さんは駅を越えた所にあって初めて来る場所だった。静かな住宅街の中にある小さなお店で中に入ると上品な老婦人が白いフリルのエプロンを着けて準備をしている所だった。私は焼き立てのクロワッサンと大きなチョコチップクッキーを、侑ちゃんはカレーパンとクリームパンを買って店を出た。

もう帰るのかと思っていたのに家とは逆の方向にずんずん進むので仕方なく侑ちゃんの後ろをついて行くと大きな公園に着いた。土曜日の朝だからか人は少ない、犬の散歩をしている人と静かに本を読んでいる人だけ。

噴水の前のベンチに侑ちゃんが座ったので私も隣に座ると持っていたトートバッグからポットを2本取り出して白い方を私に差し出す。


「僕はブラック、伊織ちゃんは豆乳の紅茶。」


「まめだなぁ。ありがとう。」


私はこの用意周到さがなんだかおかしくて笑ってしまう。眠いしお腹いっぱいだし本当に眠い。ポットを受け取り紅茶を一口、冷たくて美味しい。朝とはいえもう暑くなってきたので甘くて冷たい紅茶が体に染み渡る。クロワッサンを一口かじりまた紅茶を飲む。クロワッサンも美味しいがお腹いっぱいで胃が受け付けていかない。でも美味しい。


「伊織ちゃんありがとうね。」


「私も楽しかったからありがとう。」


「もう一個お願いがあるんやけど、聞いてくれへん?」


「お願い?」


「この暑い中、申し訳ないねんけど、アミューズメントパークについてコラム書かなあかんから付き合って。」


「アミューズメント?」


「お願い1人で遊園地は寂しすぎる。明日。」


「明日!随分と急だね。でもまあいいよ。」


どうせ暇だし。


「良かったー!ありがとうじゃあ明日7時に起きて。」


早いなぁ。


「あっその顔、ちゃんと起きてよ。ほんまに。」


「はいはい分かりました。」


「はいは1回!ほんまにもう。伊織ちゃんは!」


「ふふはいはい。」


「もう。」


「さあそろそろ帰ろう。さすがにふわぁー眠い。」


私は立ち上がって大きく伸びをして欠伸をする。侑ちゃんも真似して伸びをしている。


「そうね帰ろっか。映画一気に3本は肩こるな。失敗失敗。次からは2本までにしよ。」


そしてまたポットと残りのパンをトートバッグに入れている。


「そうだね。その方がいいね。」


私は適当に頷き歩き始めた。侑ちゃんが隣に来たので笑って言う。


「侑ちゃんしりとりする?」


侑ちゃんが少し顔を歪ませて、


「嫌や!伊織ちゃんのしりとり意味わからんもん。どこの言葉って聞いたら私が作った言葉とか言うし!」


「昔の事でしょ。もう言わないから!」


「えぇー。ほんまに?小学生になっても言ってたで。」


昔を思い出してやっぱり無理だという風に首をふる。


「侑ちゃんは酷いやつだなぁ。」


私がふざけて言うと、


「どっちがや!」


と鋭くつっこまれた。家に帰ると侑ちゃんも私も夕方までぐっすり眠った。


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