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14、誕生日


「おい、伊織大丈夫か?」


まずいぼーっとし過ぎたか。湊が私の顔を心配そうに覗き込んでいる。私は空気を変えるために2人にプレゼントを渡す。


「何これ?」


「なんだこれは?」


「ミスト付き扇風機。」


「「はあ?」」


「酷い!お土産ちゃんと買ってきたのに!」


「ああ、ありがとう。」


湊はまじまじと見回しながらお礼を言う。葵は、


「いらねーよ。水の出る扇風機なんてよ。」


と机に置きっぱなしにしている。


「ちょっとちゃんと持って帰ってよ。」


「葵、せっかく買ってきてくれたんだからさ。」


「本当に湊は伊織に甘いな。」


ブツブツ言いながらちゃんと鞄にしまってくれたのでほっと胸を撫で下ろす。


「ほらこれもお土産」


と買っておいたチョコも出す。


「なんだよちゃんとあるじゃないか!」


「お、これはお菓子か?」


さっきとはうってかわって2人共嬉しそうに受け取る。なんか腹立つなぁ。


「まあ喜んでくれたのならよし。」


「俺か!」


「そうだ。」


「真似すんな。」


「はいはい。」


微笑ましそうに湊がこちらを見ている。さすが父親になる人は落ち着きが違うな。


「そういや俺、高田さんとデート行くんだ。」


急に葵がなんでもない事みたいに話すので2人で総ツッコミしてしまう。


「いつの間に?!」


私はびっくりして大きな声をあげる。


「葵があの品管の高田さんと?!」


湊は力が抜けたのかビールをガタンと机に置いてしまった。


「2人してうるさいね。しかも2回目だし。」


「えーいつの間に!!」


「あの後、高田さんがお礼をしに来てくれてその時、連絡先を聞いてその後、1度目のデートに行った。」


「葵はこうと決めたら早いな、いつも。」


「おい、湊!手が早いみたいに言うな。」


「早いだろ。実際。」


「まあとにかく聞いてくれよ1回目のデートの話を。」


「聞こうか。」


「そうね。」


「もっと前のめりで聞けよ!とにかくお礼をしてくれてその流れで俺が相談にのりましょうか。って言ったんだよ。だからお昼に待ち合わせてちょっとオシャレなレストランを予約してお昼ご飯を食べたんだけどさ、高田さんって本当に面白くてさ。なんか会話が楽しいの。今までの女の子はあんまり話が合わなくて話しても楽しくなかったんだけど高田さん本当に楽しいの。」


「そうだな、高田さんもそうだけど品管の2人は話してみると知識が豊富で2人共色んな事をしてきた人だから面白いんだよな。」


「賢い感じはするけどかしこまってなくて若干素っ気なさそうに見えてさっぱりしてるただコミュニケーション能力が高いかと言われれば最初はとっつきにくくて人に誤解されやすいという印象。」


「面接じゃねーぞ。伊織は分析をやめろ。」


「はい。」


「それで色々話してランチは終わったんだけどこれで終わりにしたくなくなっちゃって、向こうは帰るつもりだったけど、だから今度は俺の話を聞いてくれませんかってカフェに移動したんだけどさ。その日車で迎えに行って運転してたんだけどカフェに移動する時、俺にずっと運転してもらうのが悪いって思ったからか、あーその運転ずっとすみません…代わりましょうかって。俺、初めてだった代わりましょうかって言われたの。」


「素敵だね。」


「高田さん免許持ってるし確か車も持ってるな。」


「だからか、運転上手だった。」


「運転してもらったの?」


「ああ、なんか初めてだったから代わってもらおって思って、じゃあお願いしますって言ったら普通に代わってくれた。」


「高田さんめちゃくちゃ素敵ね。今まで私はあんまり関わりがなくて知らなかったけど。今回、話してみてずっと可愛いしずっと綺麗だったなぁ。」


「ああ、高田さんの用事について行くっていうやつか。」


湊は口がかたいので良いかと思い服装等で少し相談したのだ。葵も口はかたいけど表情に出るので言わなかった。


「お前らさ本当に2人だけの秘密にして俺を除け者するよね。」


「そんな事ないって。たまたまこれだけだから。」


「へーどうだか。とにかく高田さんが好きかも俺。」


「急だけど、まあ葵なら良いかな。」


「高田さんがどう出るかは分からないけどな。」


「そうね。」


「でもまぁ葵が高田さんを傷付ける事はないだろう。」


「そうか?俺の悪いところあったら言ってくれよ。ふられ続けてるんだからさ。」


「まあ……ね、湊。」


「ああ………。」


私と湊はヒソヒソと葵に聞こえないように話す。


「結構、今までの彼女が個性的だったよね。」


「ああ、性格が個性的だったな。」


「あんまり葵が悪いって思った事ないんだけど。私がおかしい?」


「いや…まあ…恋愛観はそれぞれだからな。」


「葵って女の子っていうか、彼女には優しさバグってるよね?きっと私があげたお土産も彼女からならデロデロになるでしょ?」


「ああ。あの優しさを会社でも見せたら佐藤さんも葵に優しくなるだろうな。」


「確かに、会社での悪い所ならたくさんあげられるわ。」


「ずっと聞こえてるぞ。馬鹿共。」


「「はい。」」


「とにかく、そういう事だから。協力してな。」


「「協力?」」


「そう温かく見守れって事。」


「そんな事なら勿論。」


「俺もそれなら協力する。」


「よし、じゃあ今から俺が抜け出しても怒らないな。友達の誕生日パーティーだけど許せよ。」


「葵は本当に、恋人至上主義だもんな。伊織がいいならいいぞ。」


「いいわよ、行っておいで。」


「ありがとう、じゃあ伊織、誕生日おめでとう、いい1年にしろよ!」


颯爽と葵は帰ってしまった。だからお酒も飲まず食べ物も頼まずに居たのか。


「さあ飲み直すか伊織?」


「あはは、ありがとう。あのね私も葵じゃないけど話があるの。」


「なんだか伊織のは怖いな。」


「大丈夫、えっとかいつまんで話すと私は藤間さんを諦めます。湊にはずっとズルズルと終わりのない話を聞いてもらっていて申し訳ないけど。今までありがとうね。」


「………まあ伊織がそう決めたのなら俺は葵のと同じで見守るよ。」


「ありがとう。後暗くて誰にも打ち明けられない感情だったからどんな時も湊が聞いてくれて本当に助けてもらったありがとう。」


「気にするな。伊織には桃子が色々あった時、助けてもらったからな。」


「桃ちゃんは凄いよ。色んな事乗り越えてお母さんになるんだから。心の病を患って克服した人だからとても強くて優しいお母さんになるよ。それに湊がついてるし私もいる。そういえば育休は取るの?」


「とりあえず産まれたら1ヶ月取ってその後はまた考える。桃子は最初から取らなくていいって言ったけど押し切った。無理しそうだし俺もできるだけ一緒に全部覚えたいし。」


「良いね。本当にかっこいい2人共。」


「ははは、ありがとう。なあ何か…いや…。」


「ふふっ今まで散々、聞いてくれたんだから聞く権利はあるし、聞かれた事には答えるつもり。」


「すまん、じゃあ前の同期会から何があって今そんなにスッキリした顔なれたんだ?」


「それは多分、一緒に住んでる幼馴染のおかげだと思う。私が道を踏み外しそうになって藤間さんを諦めるって決めてからずっと傍で支えてくれたから。本当に感謝。」


少しふざけて両手で拝む。


「というか好きなんだろ?」


少しふざけながら湊が言う。


「そうかも。」


またふざけて言う。湊は本当に。


「勘が鋭い。」


「伊織のその顔を見れば誰でも分かるよ。」


「うわぁ。」


「なんていうか嬉しそうなんだよ。」


「幸せそうじゃなくて?」


「それは勿論そうだけど、それ以上にその人を思い出すと嬉しそうに見える。」


「なんか恥ずかしい。」


「まあ照れるなって。」


その後も、侑ちゃんの事を根掘り葉掘り聞かれ1時間程経ったところで私が恥ずかしすぎてギブアップした。


「さあそろそろ帰る?もう2時間経つし。」


「別に飲み放題とかじゃないが…まあ今日はここで勘弁してやろう。」


「ありがとう。」


私が財布を出そうとすると湊が手で押さえてきた。


「今日は俺と葵の奢りだよ。あいつからもちゃんと貰ってる。」


「えっじゃあ、ありがとう。」


「ああ、気にするな。とにかく誕生日おめでとう、誰を好きになってもいいし好きな奴が居なくてもいいが幸せでいるんだぞ。」


「うん。」


居酒屋を出て家に帰ってくるまで今日は最高の誕生日だと思っていた。飲み会は早く終わり17時過ぎには家に着いた。最高の誕生日が玄関を開けると一瞬でガラガラと音を立てて壊れていくのを感じた。その瞬間までは最高の誕生日だった。


「お、おかえり!伊織ちゃん!」


「侑くん誰この女?」


気まずそうな侑ちゃんがふてぶてしい女の子に押し倒されている現場を見るまでは最高の誕生日だった。


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