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10、品管の2人


5日目はそれぞれ部屋でゆっくり過ごし、6日目はいつもの掃除を終え2人でピザをとりまた映画を見て最終日の7日目は共用スペースの買い物に2人で出かけて私のお盆休みは終わった。侑ちゃんのおかげでとても充実したお盆休みだった。

休み明けの会社では何ひとつ変わった事は無かった。藤間さんが誰かに侑ちゃんの事をわざわざ言うとは思えなかったけど少し警戒した自分がいた。藤間さんは私が配ったお菓子に一言。


「水野さんは偉いね。僕はすっかり忘れてたよ。」


と言いながらお菓子を鞄にしまっていた。

その後も少し事務室内の人の動向を窺いながら仕事をしていた時だった。意外な人に呼び出された。


「すいません水野さん、ちょっといいですか?」


「あっはい。」


名前を呼ばれたので慌てて立ち上がり声の主を見ると衛生服を着た女性。品管の高田さんだ。事務室の扉の前に立っている。すらっとしていて背が高く脚が長い。猫目でキリッとした顔立ちで綺麗系の女性だ。廊下で話したいとの事で事務室の外へ行き2階への階段近くで話すことにした


「えっと何かご用ですか?」


とりあえず話しかけたはいいものの、品管の2人は品質管理室からあまり出てこず交流がない。というか2階の製造と品管に所属する人達とは殆ど交流がない。


「あの、無理なら良いんですけど。お昼休み品管の部屋に来ていただけますか?とはいえ水野さんは中には入る事が出来ないので会議室を借りたいらしいです。棚橋さんが水野さんと私の3人で話したいって。」


少し野暮ったいメガネをあげて言う。その奥の少しつった猫目は私を見ているようで違う所…髪だ。私は事務職なので肩までの髪をおろして軽く巻いているが高田さんは違う。いつも綺麗な黒髪を結い上げてバレッタでとめている。邪魔な髪の毛が帽子からはみ出たりしないようになのだろうけどいつ見ても綺麗だなと思う。品管の人も製造の人も女性はきっちりまとめ髪なので美しい。


「ええ構いません。会議室も借りておきます。」


「ではお昼休みにお願いします。」


そして高田さんはそのまま2階に上がって行った。じゃあ3階の会議室を借りておくか。



「すみません、話が見えないのですが……。」


「高田が男性を紹介してもらうってこの土曜日に会うんだけどついて行ってほしいの。あとついでに髪と服も見てやってくれない?その日は子供を連れて動物園に出かけるからさどうしても一緒に行ってあげられないの。」


「「何故?」」


私と高田さんが声を揃えて棚橋さんを見る。棚橋さんは1人だけ楽しそうにお弁当を食べながら話している。高田さんも聞かされていなかったようだ。棚橋さんは背が少し低く高田さんと並ぶと20cmは違う気がする。はっきりとした顔立ちで目がくっきりして口も大きくハキハキとした女性だ。ハンサムショートの髪がとても似合っている。


「まず高田は元が良いのに手を抜き過ぎ。別に男ウケは狙わなくていいからオシャレはしててほしいの綺麗なんだからさ。それに高田は心底男を見る目がない。」


「おい、先輩。」


確かに高田さんはとても綺麗だけど。何故私?


「だから彼氏とあんなに楽しそうに笑ってる水野さんなら男を見る目があるんじゃないかなって。彼氏が君を笑顔にするって事でしょう。なっ高田。」


彼氏……。こっちだったか。


「彼氏?それは藤間さんからですか?」


「藤間?違うよ。見たんだよプロレスを見に行った帰りに。ねっ高田。」


「はい。」


「プロレス?」


高田さんがまたメガネをあげながら言う。


「ええ、あれはこの前の金曜日でしたね。」


侑ちゃんと観光した日か。酔ってた時を見たんだろうな。


「ああ…その…とにかく…これは黙っておくかわりにといった感じでしょうか?」


「えっ、いやいやそんなつもりはないよ。言われたくないなら黙っておく。この話を断っても黙ってるよ。私も高田も。」


私は汚い大人になってしまった。この2人がそんな後暗い事をすると決め付けてしまった。


「ええ、私も。黙ってます。確かに服は決めてもらえれば楽ですね。」


「すみません。勝手に思い込んでしまって。私でよければ引き受けさせていただきます。なんの助けにもならないかもしれませんが。」


「うわぁー良かったね高田。水野さんと水野さんの彼氏が来てくれるなら問題が起こっても大丈夫だし。」


「水野さんの「彼氏?」」


「もちろんだよ。高田の友達来ないんでしょ。もしもその男が悪い男で可愛い2人の女の子だけじゃ太刀打ち出来なかったらどうするの!」


「でも水野さんにそこまでしていただくのはちょっと…。」


「あー、えっと聞いてみても良いですか?彼が良いって言ったら連れて行きます。それでも宜しいですか?」


「勿論、ありがとう。」


棚橋さんはずっと楽しそうに笑っている。対照的に高田さんは少し浮かない顔をしている。


「棚橋さん本当にここまでしていただいてもいいんでしょうか?迷惑では?」


私がメールを打っている間、高田さんが棚橋さんにコソコソと聞いている。


「そんな事言って本当はものすごく不安なんでしょ。彼女からオシャレを教えてもらって、男も見てもらいな。」


「はあ、まあ分かりました。」


侑ちゃん今度の土曜日空いてる?


うん、大丈夫やけど。


会社の人に男性を紹介してもらうのについて来てって言われて。侑ちゃんさえ良ければ一緒に来てくれない?


ええよ。


あっさりだね。ありがとうじゃあお願いします。


はーい。


「いいそうです。」


「助かるぅー!じゃあお願いね。」


「水野さんすみません。お願いします。」




「侑ちゃんジャケット着るの?」


土曜日の午後2時30分に高田さんとホテルのカフェで待ち合わせでそのままそこで3時に男性が来て紹介してもらうらしいので朝から準備しているのだが。私はパジャマにしているべろべろのワンピースを着たまま侑ちゃんに言う。侑ちゃんは自分の服装を見て私に聞く。


「えっだってホテルでしょ?正装せな追い出されへん?いやでも夏やしワイシャツでもええんかな?」


侑ちゃんはジャケットを脱いで鏡を見ている。薄い水色の長袖のワイシャツを着て茶色のベルトに薄いグレーのスラックスを履いている。玄関には濃い茶色の革靴が出してある。


「えっ本当に?いやでもえっ。」


昨日、会社帰りに買った高田さんの服を思い出したけどすらっとした体型を活かして胸元から上がレース生地で透けている薄い黄色のノースリーブのパンツドレスに同じ色のペタンコのパンプス、アクセサリーは持ってないしいらないと言ってたのでいつも着けている細めのベルトの腕時計。フォーマル過ぎないか?そうだ!結婚式があるからそれでも着られる服が良いって言われたんだった。髪も美容院でアップスタイルにしてもらうって言ってた。


「よかった、高田さんはフォーマルだわ。ちゃんと。」


「じゃあ伊織ちゃんはどうするん?」


「あー会社に着て行ってる服でいいや。」


「そうね、オフィスカジュアルってやつね。ていうか長袖のワイシャツの袖折ってたら追い出される?」


「えっ!!まさか!……まさかね?」


「怖いおらんとこ…。」


「じゃあ一旦、着替えてくる…。侑ちゃんはそれでいいんじゃないかな?清潔感あるし似合ってるよ。」


「ありがとう。じゃあ汚したらあれやから僕も一旦、着替えるわ。」


「うん。」


そして私も部屋に戻り服を選ぶ。白のノースリーブでVネックのカットソーに下はクリーニングしてまだ着てない水色のマーメイドスカートこれでいいかな。カフェですしね。1粒ダイヤのネックレスとピアス。靴は濃い茶色のローファータイプのパンプス。鞄は靴の色と合わせて小さめの革のショルダーバッグ。


「侑ちゃんこれで良いかな?」


「いいんちゃう。フォーマルやし。」


「ありがとう。」


「じゃあ車まわすわ。」


「本当にありがとう。ガソリン代払う。」


「ええよ。払わんで。」


「でも。」


「いいからいいから。」


じゃあカフェの代金払おう。元々ついてきてもらってるし。


「ありがとう。お願いします。」


「はい。」


安全運転でホテルに着いた。カフェで合流した高田さんはとても綺麗で侑ちゃんと挨拶を交わしていた。侑ちゃんが急にニコニコしだしたのに少しだけイラッとした。高田さんが化粧室に行くのを見計らって侑ちゃんを小突く。


「いたっ。なんなん伊織ちゃん。」


「綺麗だからってデレデレしちゃって。」


「伊織ちゃんの会社の人やから愛想良くしたんでしょうが。もう可愛いね。やめてそんな事言うの。」


嬉しそうに侑ちゃんが私の頬を指で突く。


「どうして喜んでるの?」


不思議な人だ。


「いいの、いいの。僕だけ分かってたらいいのよ。」


「変なの。あっ帰ってきた。よしじゃあ今から高田さんとは他人のふりだから。近くの机に座るけど高田さんの方は見ないでね。」


「はーい。」


高田さんに目配せすると頷き先に高田さんがカフェに入った。私と侑ちゃんは後を追うように入り奇跡的に近くの席に座る事ができた。私の後ろに高田さんが居る。


「よかった、近くに座れましたね。」


「はい、じゃあ後は待つだけですね。」


「ええ、リラックスしてください。私達がついてます。」


「はい。」


「おおー伊織。奇遇だなこんなところで!」


そこに笑顔で現れたのはこの前、散々彼女にフラれたと泣いてお酒を浴びるように飲んでいた葵だった。

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