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第十八話:正面から堂々と


「先ず確認しておきたいのだけど。

 あのドローンっていうのは何を感知する仕掛けなの?」

 

 行動に移る前に、アウローラはイーリスに何やら確認をしていた。

 正面から堂々と行くという方針に、イーリスはマジで言ってるのかという顔だが。

 

「単純に光で物を映してるだけ? 熱や音は?

 重さや匂いには反応するのかしら?」

「あー……とりあえずは、光だな。あと熱源感知は付いてると思う。

 多分音も。この場合は単純に音を捉えてるってだけじゃない。

 センサー自体が特殊な音を発して、その反響で周囲を確認してるはずだ」

「なるほど。思ったより高性能なのね」

 

 イーリスの説明に、アウローラはふむふむと頷く。

 それから何かを一言二言、唇の中で転がすように呟いた。

 そして。

 

「はい、準備できたわ」

「は?」

 

 イーリスはまるで意味が分からなかったようだ。

 俺も分かっていなかったが、アウローラが言うならその通りなんだろう。

 それを証明するように、彼女はひょいっと表の通りへ向けて足を踏み出した。

 

「あ、ちょっと待……!」

「そんなに慌てなくても大丈夫よ。ほら」

 

 狼狽えるイーリスに対し、アウローラはクスクスと笑いながら頭上を指差す。

 相変わらず白い虫――ドローンが浮遊しているが、何の反応も示さない。

 まるでそこには誰もいないかのように。

 

「何をしたんだ?」

「魔法で私たちの事を、他が認識できないようにしただけよ」


 アウローラは笑いながら、さらっとトンデモナイことを言い出した。

 大丈夫そうなので、俺もとりあえず通りの方へ出てみる。

 イーリスは事態を呑み込めず、目を白黒させてしまっているが。

 

「認識できなく……?」

「そうよ?

 貴方たちは気付いてなかったでしょうけど、私はここに来てからずっと似たことをしてたから」

「そうなのか?」

「ええ。万が一もあるし。

 私が許可した場合か、私から能動的に干渉した場合以外にはね」

 

 悪戯が成功した子供のように、アウローラは可愛らしく笑う。

 半信半疑で恐る恐るといった感じだが、イーリスも俺達に続いて出て来た。

 本当に、ドローンを含めて誰もこっちに気付いてはいないようだ。

 

「なんつー無茶苦茶な……」

「今さらっちゃ今さらではあるな」

 

 呻くようなイーリスの言葉に、俺は軽く肩を竦めておいた。

 他からこちらが見えていないのなら、人波を歩くのは難しいのでは……と、思っていたのだが。

 アウローラは当然、それも対策しているらしい。

 誰にも見られず、誰にも感じ取られない状態にも関わらず、俺達はスルスルと通りを進んでいく。

 先を歩くアウローラは、チラチラとこっちの様子を見てくる。

 それに応えて親指を立ててみたら、また可愛らしく笑ってくれた。

 

「それで、先ずは何処へ向かえば良いのかしら?」

「あ、あぁ。『上』に行くための昇降機は都市管理局の管轄下にある。

 その場所は分かってるし、警備と監視さえ何とかなればオレの力で設備は動かせると思う」

「じゃあ、道案内も含めてお願いするわ。

 流石に私も、この時代の『機械』というのは直接は弄れないもの」

「分かってるよ。それはオレの仕事だ」

 

 魔法に対する困惑は、まだ残ってはいるようだったが。

 己の役目を改めて提示された事で、イーリスは力強く頷いた。

 此方の仕事はまだなので、今は警戒をしながら黙って後ろを付いて行く。

 アウローラの魔法で監視は避けている以上、念の為ではあるが……。

 

「――――」

 

 何か。

 何か、鋭い針の先で、軽く肌を突かれたような感覚。

 本当に一瞬。俺はそれを感じ取った方へと、弾かれるように視線を向ける。

 見えるのは疲れた人間の群れと、無機質な光に彩られた灰色の街並み。

 それから虫のように飛び回る『どろーん』とかいう絡繰りだけ。

 他には何もないし、誰もこっちを見てはいない。

 本当にそうか?

 

「? どうしたか、レックス」

「……いや」

 

 此方の様子がおかしいことに気付いたようで、イーリスが声を掛けてくる。

 俺は小さく首を横に振るだけに留めた。

 何かに見られた気はするが、今の時点では確証もない。

 アウローラの方も気付いた様子はなく、イーリス同様に不思議そうに俺の方を見るだけだ。

 俺の気のせいである可能性は十分にある。

 だがもし気のせいでないなら、なかなか厄介な話になりそうだ。

 

「先へ進もう。それでどうするのかは、俺には良く分からん。

 それ以外の事はこっちで警戒しておく。だからそっちは任せていいか?」

「ええ、勿論。荒っぽいのは貴方の仕事だものね?」

 

 こちらの意図を汲んでくれたのか。

 そこまでは分からないが、アウローラは笑みと共に応える。

 視線の主が誰だかは知らないが、目的は恐らく俺だろう。

 アウローラの魔法が掛かっている状態でも『見える』のなら、まぁ強敵だ。

 襲ってくるなら俺が対処をすれば良いし、二人には目の前の事に集中して貰おう。

 少なくとも、今すぐ仕掛けてくる気配はないようだが。

 

「さ、時間をかける意味も無いし。手早く先へ進みましょうか?」

 

 アウローラの言葉は、これから起こる事の宣言そのものだった。

 警備も監視も意味がないのなら、これほど楽な話もない。

 そこにイーリスの力もあり、機械とかそういうのも好きに弄れるのだから。

 ぶっちゃけ、苦労する要素は殆どないはずだ。

 

「……で、ホントになさそうだな」

 

 そうして、とりあえず警戒は続行しつつ後ろを付いてくだけの存在が俺です。

 イーリスの案内で、何やらひと際でっかい建物に到着した。

 かなりデカい塔のような其処は、入り口らしき場所も武装した《牙》が複数に守られていた。

 幾つか『どろーん』も飛んでいて、そいつらにも銃がくっ付いている徹底ぶりだ。

 まぁアウローラの魔法で認識されないので、全部横を通り過ぎたんだが。

 人の出入りはあったので、俺達はそれに便乗するだけで内部に侵入を果たした。

 

「どんどん行きましょうか」

 

 アウローラさんが楽しそうで何よりです。

 そして言葉以上に行動は雄弁で、かつ容赦もない。

 何やら建物の中には、『どろーん』以外にも『かめら』というものがあるらしい。

 曰く『機械の目』であり、それらがそこら中に設置されて中の様子を監視しているとか。

 使い魔でも、そんな大量に置くなら相応に魔法使いの人手が必要だろう。

 それもなしに見張りを広範囲に配置できるとは、技術の進歩という奴は恐ろしい。

 

「……よし、これでしばらくは誤魔化せるな」

 

 イーリスが何か弄ったおかげで、その眼も誤魔化せるのだった。

 ここら辺でようやく、俺にも仕事が少し回って来た。

 とはいっても難しいことでもない。

 ただイーリスが選んだ『えらそうな奴』を、物陰にちょっと引き摺り込むだけだ。

 そうしてから、即座にアウローラがそいつの頭を掴んで。

 

「今からお前は、私の言葉に従いなさい。

 けれどお前には、私達の存在は正しく認識できない。

 良いわね? 私の声を聞いたなら、お前は私の望む通りに動くだけ」

「ハイ、ご主人様(マスター)。貴女の仰せの侭ニ」

 

 これである。

 目を覗き込み、一言二言命ずるだけで終わり。

 これも魔法なんだろうが、本当にとんでもないな。

 横で見ていたイーリスも、若干腰が引けている。

 この建物の『えらそうな奴』を奴隷にしたことで、進行速度は更に早まる。

 

「昇降機の使用許可と、後は定期便? だったかしら。

 そっちの方にも入り込めるよう今手を回させてるから、特に問題ないわね」

「これ後で色々発覚したら、何人ぐらい《辺獄》に落とされるんだろうなぁ……」

「落とされるが比喩なのか物理的なのかで、ワンチャン生存できるか変わりそうだな」

 

 忠実な『えらそうな奴』が机に向かって作業をしている横で、そんなほのぼのとした会話に興じる。

 今やっている作業を終えれば、上層へ向かう手はずもある程度整うらしい。

 その辺は良く分かっていないので、とりあえず俺は付いて行くだけだが。

 

一人残らず殺す(ゼロゾーン)が標語の都市管理局を、まさか殆ど素通りとはなぁ……」

「ガチの正面突破だったらもう少し苦労しそうだったな」

「そこで『もう少し』とか表現すんものどうかと思うけどな……」

 

 何故かイーリスはげんなりした様子だった。

 いや実際、この建物の中には例の《牙》とかいうのもかなりの数で常駐している。

 そいつらをいっぺんに相手にするとなると、まぁ前回よりは絶対に大変だろう。

 それは事実なので、特に間違ったことは言っていないはずだ。

 

「ま、そんなの馬鹿正直に相手するだけ損だし、こっちはスマートに行きましょう?」

 

 超人的な魔法の腕前によるゴリ押しを、『スマート』と表現するのが正しいかは意見が分かれそうだ。

 こっちとしては色々楽なので感謝の言葉しかない。

 そうして許可だの何だのの作業を終えたら、『えらそうな奴』は晴れてお役御免だ。

 アウローラがまたその目を覗き込むと、直ぐに意識を失った。

 こちらが操っていた間の記憶とか、そういうのを纏めて消去したらしい。

 

「起きたらさぞ混乱するでしょうけど、それも良い時間稼ぎになるでしょう」

 

 実に悪い笑みからのこの発言である。

 

「機械の記録に関しても、オレが手を加えたから直ぐバレることはないだろ。

 全然関係ないデータも弄っておいたから、精々踊ってて貰おうぜ」

「上出来よ。褒めて上げるわ」

 

 イーリスもイーリスでなかなか悪い奴である。

 そんな悪い淑女二人の後ろを、俺はちょこちょこ付いて行く。

 さぁ、ドンドン行こうか。

 

「おぉ……」

 

 迅速かつ大胆に。

 アウローラとイーリスのおかげで、都市管理局という場所を素早く抜けて。

 俺達が乗り込んだのは、「上」へ向かう為の昇降機とやらだ。

 遥か頭上の街にまで伸びた太くてデカい柱。

 その中に造られた部屋に入ると、その部屋ごと柱の中を移動していく。

 良くもまぁ、こんな仕組みを考えつくものだ。

 部屋には透明な窓も付いており、移動している間も外の様子を眺める事ができた。

 天と地、その両方に広がる街並みに人工の星々が煌いている。

 それを間から眺めるというのは、なかなか見ごたえのある景色だった。

 

「もう少し、落ち着いた状況で見たかったわね」

「だなぁ」

 

 傍らで同じものを眺めるアウローラに、俺は同意して頷く。

 昇降機が『上』に辿り着くまで、それほどの時間は掛からないらしい。

 窓の外を流れる景色は、そのまますぐに通り過ぎてしまうだろう。

 

「…………」

 

 一方、イーリスは無言のまま部屋の壁に背を預けていた。

 都市そのものを嫌う彼女にとって、この光景も不快なものでしかないか。

 イーリスの複雑な表情からは、単純な嫌悪以外の感情も見て取れた。

 

「……確か、上層生まれって言ってたな」

「あぁ」

「もう少しで、その生まれ故郷に行けそうだな」

「今さら未練なんかねェよ。……いや、それは嘘か」

 

 俺の言葉を冗談と笑い飛ばすが、イーリスは直ぐにそれを自分で否定した。

 

「未練は、あるんだと思う。

 けど、それがどういう類の感情なのかは、自分でも良くわからねェ」

「そうか」

「今さら下りるなんて言わンから、そこは安心しろよ。

 ……ただ、そうだな。上層に近付いてるって意識したら、ちょっとだけな」

 

 上手く言葉にできない感情に、イーリスは苦い笑みを浮かべた。

 傍らに寄り添うアウローラは何も言わなかった。

 イーリスの発言を咎める事も、笑うこともしなかった。

 彼女自身も、似たような覚えがあるのかもしれない。

 そもそも『自分』という物が欠けている今の俺では、その感覚を共有するのは難しいが。

 

「じゃあ、上層に付いたらイーリスの家に行ってみるか」

「は?」

「あ、場所覚えてないか? もしかして」

「い、いや、それは大丈夫だけど……」

 

 俺の思い付きにイーリスはかなり困惑した様子だ。

 アウローラの方は、むしろ楽しそうに乗っかって来てくれた。

 

「そうね、それも悪くないわね。どの道、上層とやらの情報も集める必要があるし。

 貴女の家なら勝手知ったるでしょう?

 手間も省けるかもしれないし、悪くないじゃない」

「いやお前は単に面白がってるだけだろ……!?」

「あら、いけなかった?」

 

 アウローラさんは自分にとても正直なんです。

 うむ、これは我ながら悪くない案ではないだろうか。

 

「まぁまぁ、どうするかは実際に上層へ着いたら考えても良いだろ」

「そうね。どうせイーリスには道案内して貰わないといけないし」

「ンなこと言って、オレの家に行くのほぼ決定事項なんじゃねェか?」

 

 その辺りの決定はアウローラさん次第なので、俺からはコメントし難い。

 ただまぁ覚悟はしておいた方が良いだろう。ウン。

 

「……あー、クソっ。まぁ実際、情報源にするってのは悪くないしな……」

「そうよ? そうやって自分に言い訳しておきなさいな」

「引っ叩きてェ……」

 

 賢いイーリスは力関係を理解しているので、そんな事はしないようだが。

 それは兎も角、話の流れではあるが腹を括ることはできたようだ。

 俺の方にビシっと人差し指を向けて。

 

「あくまで情報を得るのが目的だ。

 それ以外の他意はねェぞ、そこんところ分かってるよな??」

「おう、分かってる分かってる」

 

 実際ただの思い付きだし、俺もそれ以上とやかく言う気もない。

 イーリスもそれだけ言って満足したか、壁の方にそっぽ向いてしまった。

 顔が赤かったり舌打ちしたりとかは気にしないでおく。

 そうしている間に、窓の外の景色は過ぎて――。

 

「着いたな」

 

 僅かな振動と共に、部屋の上昇は止まる。

 合わせてゆっくりと扉が開いた。

 見えるのは無機質な通路。

 構造は下の建物と大きく変わらないようだ。

 此処までは順調そのものだが、この先もそうであるとは限らない。

 アウローラとイーリス、二人とそれぞれ視線を合わせて。

 最初に俺が扉の外へと足を踏み出した。


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