パトカー少女誕生!
東京都内の警察署。人も車も殆ど通らない深夜に、怪しい風貌の人物が近づいてくる。
「中々良さそうな子ね」
黒いローブと三角に尖った帽子。不敵に笑う少女の姿はまさに「魔女」と言えるものだった。その少女はポケットから銀色の塊を取り出すと、それを警察署に停められているパトカーのボンネットに置いた。
「貴方はこれで自由。自分の意思で何をしてもいいのよ」
少女はそう言い残してどこかへ立ち去っていく。しばらくすると、銀色の塊は突然蠢き、パトカーのボンネットへ溶けていった。
次の朝、二人の警察官が出勤してきた。噂話をしながら駐車場を歩いている。
「最近変な噂を聞いてさ。駐車場に停まってる車とか漁港の漁船が突然消えて、代わりに女の子が現れるんだとさ」
「俺も聞いた。しかもその女の子は自分が車とか船だって言い出すんだろ?奇妙だよな」
これからパトロールに出るので、パトカーのドアに鍵を差し込もうとしたその瞬間だった。パトカーの車体がメキメキと音を立てて軋み始める。
「何だ!?」
車体はまるで粘土をこねているかのように歪み、蠢く。この異様な光景は周囲の警察官たちも目の当たりにしており、視線を集める。そのうち車体は小さく縮んでいき、一つの形に収まっていく。それはまるで人間のようであった。
「これ、もしかして噂のアレじゃないのか?」
動きが収まると、そこには一人の少女が立っていた。少女は周囲を見回すと沢山の警察官に囲まれていることに気付き、気まずそうに挨拶した。
「お、おはようございます」
少女は警察署の中へ連れられ、椅子に座らさせられた。警察官が目の前に置かれたもう一つの椅子に座ると、質問を始めた。
「君は一体何なんだ?」
「えぇと、パトカー……ですね」
警察官は溜息をつく。例の噂は世間に広まっているとはいえ、パトカーが女の子に変身したなどと上に報告できる勇気はない。
「何か証明できそうなものは?」
そう言われると少女は少し考えた後、目から激しい光を放ってみたり、体のどこかからサイレンをけたたましく鳴らしてみたりした。しかし室内ということもあって警察官から制止され、少女は落ち込んだ。
「何か決定的なのがあればいいんだがな。パトカーから人になったみたいに、今度は人からパトカーになるとか」
それを聞くと少女の顔は晴れた。
「それならできますよ!」
「もっと早く言って!?」
駐車場に戻ると、少女は体からメキメキと音を立て、体の大きさが増し、みるみるうちに元のパトカーに戻っていった。
「とはいえ、なんで自分でもこうなったかは解らないんです。いつの間にかこんなことになってしまって」
今度はパトカーの姿のまま喋ったので、警察官たちは頭を抱えた。
「とりあえずパトカーちゃんって呼び続けるのはアレだし……なんかこういう呼び名が良いとかある?」
「じゃあパトロールカーということで、『ロール』なんてどうでしょうか?」
「うん。それがいいかもな。いい名前だ」
ロールはヘッドライトを点滅させて喜んだ。




