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おりてきたもの

 

 彼女はひとつ咳をして背筋を伸ばした。その仕草が彼女の本気モードという事を俺はよく知っている。なので俺も背筋を伸ばし彼女の鋭い眼光を受け止める。

「なあ、かかくん」

「なんですか? れーこさん」

「えっと、そろそろ。本名、教えてくれないか?」

「え? 本名ですか?」

「後は職業とか年収とか身の回りの事を少々……」

 最後の方が少し聞き取りづらかったが、あれ? これってまさか。

「れーこさん。俺と付き合っているって誰かに言ったりしてます?」

 れーこさんは俺の言葉に小さく頷いた。頷いた。頷いた!?

「ちょ、っと待ってください。俺、れーこさんとそう言う関係になりたくて」

「わたしはっ! 私は、なりたいの! かかくんが、い、いいの……」

 うつむき加減で上目遣い。いつものクールなれーこさんからは考えられない仕草だ。

「でも、俺ってそんなに」

「そんなに? 趣味が合って、気が合って、話くて楽しくて、頼りになる。そんな人。それがかかくん。あなたなの」

 買いかぶり過ぎだ。俺はそんな高尚な男じゃない。

 そんな言葉が喉の奥へと上がってきたがぐっと抑えて飲み込んだ。

 

 その日はそこで解散となった。

 れーこさんはスッキリとした顔で俺の分まで代金を支払い出ていった。

 テーブルに残った冷め切ったココアを少しづつすすって俺はつぶやく。

「俺もれーこさんの本名とか知りたいです。って素直に言えないとか小心者だなあ俺」

 恋愛関係になるという事は今までの関係を壊す事になる。そんな大仕事は俺には無理だ。今のまま。そうだ、今のままのぬるま湯でいい。れーこさんと今の関係を、対等な関係を続けてゆきたい。

「でも」

 聞いちゃったしなあ。次はどんな顔をして会えばいいのか。

 5年も毎月顔を合わせていてれーこさんにとって俺は飼い犬みたいなものなのだろうか。だから自分のモノにしたい? ああ、何の効果だろうか長い時を経て彼女の中で俺の理想像が膨れ上がっていってしまったのだろう。

 れーこさんからなんて思ってもみなかった。俺の中だけでもやもやと終わる話だと思っていた。

 何かで読んだ気がする。男と女の友情はどうのって話。

 しかし、意識するときついな。

 れーこさんは俺の事が好き。俺もれーこさんが好き。

「とりあえず、恋愛関係の本を読むか」

 冷たくなったココアを胃に流し込み俺は店を出た。

 しばらくして腹が下った。先延ばしにした天罰の様に。

 


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