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今日は賢人くんたちに頼まれた、町おこしイベントのリハーサルの日だ。


「そんなに緊張するなよ。リハーサルっつっても、仲間内で遊ぶだけだから気楽にな」


と賢人くんは言ってくれた。


転校先の学校は髪色が派手な人が多く、服装や女子のメイクも派手で、馴染めそうになくて不安だったけれど、賢人くんたちがよく声をかけてくれる。


僕の家族に関する変な噂が流れたときには、また転校を余儀なくされるかと思ったけれど、まだ大丈夫だ。

結局どこへ逃げてもその手の噂が追いかけてくるのだから、いつかは逃げることをやめて留まりたい。


そう思って、今回の鬼の役も引き受けた。

これはただのゲームだ。何てことはない。

隠れているみんなを見つけ出して、偽物の包丁を振りかざして「見ぃーつけた」と言えばいいだけ。

だけど偽物だとどうも気分が乗らないなと、こっそり持参した本物の包丁に持ち替えた。

鬼のスタート地点は、廃校一階の生徒玄関。木製の小さな靴箱が並んでいる。


右手に包丁、左手に懐中電灯。

大きく息を吸って、ゲームタイトルをコールした。


「かーくれんぼしーましょ、見ぃーつけたら殺すよー、うっしっし」


気分が乗ってきた。ワクワクしてくる。鬼はやっぱりこうでなくっちゃ。

昔よくした兄弟たちとのかくれんぼを思い出した。兄弟たちは隠れるのが上手かった。彼らはどうかな?


古びた校舎に土足で上がり、まずは職員室の並びから覗いていく。

職員室、校長室、保健室。もーういーかい?と問いかけながら、懐中電灯で室内をぐるりと照らした。


保健室には『紫音くん』と『雪菜さん』がいた。

ドアを閉めもせず、ライトモードにしたスマホを傍らに置いて、二人寄り添いベッドに腰かけていた。


見ぃーつけた。


「おつ、壱くん。はえーなぁ」


『紫音くん』は余裕の笑みを見せた。

オシャレな名前に合わせたような髪色の『紫音くん』は、軽薄で嘘つきだった弟の二朗に似ている。

すぐバレるような嘘をその場しのぎでついては逃げて隠れてしまうので、いつも代わりに壱が叱られた。


振りかざした包丁を『紫音くん』に突き立てると首の付け根に刺さった。引き抜くと血がぶしゅーっと噴き出した。

悲鳴を上げた『雪菜さん』が、芋虫のような動きで保健室の低いベッドからずり落ちた。逃げようとしたが腰が抜けてしまったようだ。


「こっ、こ来ないでっ、ごめんなさい、ごめんなさい! 何でもするからあぁ!」


好きな男のためにせっかくいつも以上に気合いを入れたメイクが台無しだ。みっともなく泣いて謝っている。

謝る必要なんてないのに。


妹の六つ美を思い出した。あいつは許されるためならひどい大人たちにも媚びて、何でもすると安請合いした。

そのくせ肝心なところではいつも逃げて、後処理は壱任せ。


ジタバタと悪あがきする女を蹴り飛ばした。顔面をサッカーボールのように何度も何度も蹴りつけると、紫色になってぐったりとした。


さあて、あと何人だ?

隠れているのは男4人女4人の8人だ。2人は見つけた。あと6人か。


「モモ。見ろよ、月が綺麗だぞ」


賢人が空を見上げて言った。

私たちは立ち入り禁止の屋上へ来ている。

校舎の中は暗くて不気味だと怖がる私に、じゃあ上へ出ようと賢人が連れて来てくれた。

かくれんぼなのに全然隠れていないけれど、屋上へ来て良かったと思う。

賢人の言う通り、大きな月が出ていてその光で明るい。


「そろそろ来るかな。けどここは立ち入り禁止だから、やって来ないかもな。壱くん、半泣きで探し回ってそうだよなあ。あと30分待って来なかったら、下りるか」


賢人はポケットからスマホを出して時刻を確認し、まったく話の流れにそぐわない言葉を口にした。


「ところで俺ら付き合っちゃう?」

「えっ」

「モモのこと前からいいなと思ってたんだよね。カノジョいたから言えなかったけど、この前別れた」

「えっ、あの読モのカノジョと?」

「そそ。見た目タイプだったけど、付き合ってみたらなんか違うなって」


どうしよう、予期せぬ告白に困った。

賢人はかっこいいし学校の人気者だ。付き合えたら鼻が高い。だけど自己中心的なところがあるし、意地悪な面もある。

今日のことだって。

別にわざわざ壱くんを引き入れて、鬼役にキャスティングしなくても良かったのに。


「見ぃーつけたぁ」


壱くんの声がして、振り返った。

いいタイミングで来てくれたとほっとしたのも束の間、その姿を見てぎょっとした。


暗闇からぬっと現れた壱くんが、月明かりに照らし出された。

真っ赤だった。包丁を持つ手が真っ赤、まるで返り血を浴びたかのようにTシャツも……そしてもう片手に持っていたのは……人間の……頭部


ひっと息を飲んだ。


「ま、茉優」


壱くんが鷲掴みにしている髪の毛の色は薄いピンク色。モモとお揃いにしてみたよって笑ってた、あの可愛らしい茉優が、生首に。


「は? 壱くん何それ、意味分かんねーんだけど! なに殺しちゃってんの、ハハッ、殺人鬼じゃん」


賢人が上ずった大きな声で笑い飛ばし、私を背後へ押しやり、ファイティングポーズを構えた。

賢人はキックボクシングを習っている。中学生のときに大学生3人を1人でボコボコにしたという武勇伝持ちだ。


それに賢人のほうが壱くんよりずっと体格がいい。

壱くんは凶器を持っているけれど小柄だし、体育も苦手そうだし、喧嘩慣れもしてないはず。

冷静に立ち向かえば、賢人に勝算がありそうだ。お願い賢人、勝って。ここで守ってくれたら絶対惚れる。もちろん付き合うから!


「見つけたーら、殺すよー、うっしっし!」


ゆらぁと揺れながら壱くんは歌い、ひゅっと身を屈めると賢人の先制攻撃を交わした。交わすと同時に繰り出した包丁が、賢人の脇腹をとらえた。ぽたたっと血が飛んだ。



「お前……誰だよ……壱くんじゃなくね……」


地面へ這いつくばってどくどくと血を流している賢人が言った。

壱くんじゃない殺人鬼は、賢人の髪を引っ掴んで首を上に向かせた。


「見つかっちゃった。俺は清五、君たちが噂していた一家惨殺の殺人鬼だよ。ずっと壱の中に隠れてたんだ。見つけてくれたから殺すねー」


賢人の首に当てられた刃がすっと横に引かれた。ぴゅーっと噴水のように血が噴き出す光景を、私は歯をガタガタ鳴らしながら見ていた。

恐怖で声が出ず、一歩も動けないままだった。太股を生暖かい液体が伝っていく。

誰か、助けて……助け……

スマホを手にしたが、指先が震えておぼつかない。


「見ぃーつけたっ」


殺したばかりの死体を踏み越えてやって来る。綺麗な月明かりの下、鬼はにたぁりと嬉しそうに笑った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] シンプルイズベスト! まっすぐな作りの良作ですね。
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