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「ほらミレイちゃん、こっちの布なんてどう?」
「あら、私はこちらの方が似合うと思いますけれど。いかがです、ミレイさん」
「あははは……どちらも素敵ですね? ただちょぉっとお高いかなーなんて」
現在、エリーの服飾商店で何故か布を選んでおります。ミレイです。
サブリナさんが提案してくれた案は、効果覿面だった。
といっても、途中から少し路線が変わってしまったのだけど。
まず私たち3人は、こっそりと物車商店を出た。その後、門の方から歩いてくるように見せて自然に会話しながら堂々と歩く。まるで、友人同士のたわいない会話をしているように。
「……眠り鳥! お前何してたんだよ!」
案の定、ガンツに気付かれてしまったが、これも作戦のうち。レベッカさん、サブリナさん、頼みますよ!
なんて思いながら無視して歩いていれば、いきなりガンツに肩をつかまれた。地味に痛い。
仕方ないので、振り向いて冷たい視線をお見舞いしておく。
「誰かと思えば、ガンツではないですか。これから大切な用事がありますので、離していただけます?」
普段よりも絶対零度の視線を向ければ、ガンツは思わず怯んで肩の手をはなした。良かった。助かった。あとで浄化かけよう。
あと周りに野次馬も集まってきたから勘弁して欲しい。
「あら、ミレイちゃんに何か用? ってこないだの人じゃない」
「確か、天翔破岩の……私たち、お買い物の約束をしているので、邪魔しないでいただけます?」
流石に先約を優先する風潮のアースガイアで、しかも先輩Cランクチームのメンバーにそんなことを言われれば、ガンツも大人しくなるしか……ってなれば楽なんだけどね。そんな訳がなかった。
「すみませんが、コイツとこれから話さないといけないことがあるんです。用事は後にしていただけますか。コイツの人生にかかわる大切な話なので」
「あら、人生ってそんなに大切な話だったの? 聞いてないわよ、ミレイちゃん」
いや私の人生にってなんだよ。お前の都合じゃないのか。
「私には全く見当もつきませんが……」
本当にわからないので首をかしげれば、業を煮やしたのか、ガンツの声も荒くなってきた。
「これからコイツにはギルドカードを作らせて、結婚しなければならないので! 心細いでしょうから、できるだけ早く!」
一瞬、時が止まった。
えぇぇ?!
何の話か全くもってわからないし、迷惑以外の何ものでもないんだが?!
そもそも貴方と私には何の関係も……あ、一応近所の同い年という関係はあるのか。いや、今はそれは関係ないだろう。でも別に付き合ってる訳でもないし、親戚でもないし、私の中では友人ですらない。
何故いきなりそうなった?!
「……私は既にお断りしているはずですが?」
「いやお前、断った時もあれは勢いでつい断っただけだろ? 4つの時のことだし。俺のこと好きだろ? 俺もそうなんだから、俺と家族になるのが当然じゃねぇのか?」
一瞬、何を言われたのかわからず、頭が真っ白になってしまった。
待って待って。え、ごめん、気持ち悪い、無理無理無理。
「なにを、訳の、わからないことを……? 私は、あなたは、きらいです。とても」
なんとか声を絞りだし、それだけ伝えるのが精一杯だった。
なんだろう、この不思議生命体は。
流石にこの言葉で通じてくれたのだろうか。
ガンツは目に見えてショックを受けて、よろよろと後ずさり、頭を抱え込む。
「は? ……嘘だろ、お前には、もう俺しか居ないだろ」
「ねぇ、どうして、あなたはそこまでミレイちゃんにこだわるの?」
流石に見ていられなかったのか、レベッカさんが問いかけた。私も実はそれは気になっている。
あと野次馬の皆さん、ウンウン頷いているならもっと早くコイツ止めてくれませんかね。




