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リリィさんはごそごそとカウンターの下を探ると、そこから一冊の本を取り出した。
「はい、これ、お古で悪いのだけれど。遅くなってしまったけれど、誕生日プレゼントにあげるわ」
「え、もらえませんよ? そんな高いもの」
見るとそれは、『魔獣生息全集』だった。
確かに今の私にはとてもありがたいものではあるけれど、これ一冊で金貨1枚はするはずだ。紙は高いものではないけれど、全部手書きで製本も手作業なので、アースガイアの書物は高いのです。
「お古だって言ったでしょ? 私は武術ギルドの職員だもの。職員は更新される度に新しいものがタダで一冊貰えるのよ。それは一昨年のものだけど、今のとほとんど変わっていないから、問題なく使えると思うわ」
武術ギルドの職員になったらタダで貰えるのか……うらやましい。
確かに、それなら古くなったものは売るくらいしかないだろう。
それでも売ったら銀板5枚にはなるはずだ。それをくれるなんて。
本当に、この姉妹は、優しすぎる。
「ありがとうございます……大切にしますね」
「そうしてくれると嬉しいわ。そのままじゃ、ホコリをかぶってるだけだったもの」
ふふっと、まるで音符でもつくような綺麗な笑みを、リリィさんは見せてくれた。
きっと、こういうものを準備してくれるはずの家族を亡くした私への、餞別なのだろう。
嬉しくて、申し訳なくて、泣きそうだ。
「じゃ、失礼します」
「えぇ。これから頑張ってね。一応、危険魔獣とかのお知らせは見てから行くのをオススメするわ」
激励してくれたリリィさんに一礼すると、私は忠告通りに木板を確認し、武術ギルドを後にした。
ありがとうございます。リリィさん。
この本は、大切にしますから。
準備としてまず、物車商店に向かうことにした。
何はともあれ、まずは馬車から。大きな買い物は先に済ませておきたい。
棘花の面々から、いつもは徒歩で借り馬車を使っているから、荷台にスペースがあるなら道中で狩った獲物を載せさせて欲しいと言われているので、もちろん了承済み。
ちなみに彼らの荷物はいつもどうしているのかと尋ねると、アイテムボックスがあるそうだ。流石だね。
物車商店へと入ると、受付にはいつものルディさんが座って何やら書き物をしていた。
ここにはルディさんの他に馬などの世話係の従業員が4人居て、借り馬車もある。
ここの店主はルディさんの旦那さんなのだが、いつも仕入れなどで不在がちのためその姿を村人が目にすることはほとんどなく、そのせいで村の子供の七不思議に数えられている。
ちなみに私は何度か深夜に出かけるところを見かけたこともあり、大人たちはもちろん彼の姿は知っているのだが。
「すみません、馬と馬車が欲しいのですが」
「はい、いらっしゃいませ。馬車は新品の仕立てをご希望ですか?」
子供に対しても物腰柔らかなルディさんは、密かに村の子供たちのアイドルでもある。
「いえ、すぐに欲しいので、新品でも中古でも構いませんが、出来たものを見させてください」
私がそう言うと、ルディさんはにっこりと笑って私を馬車置き場に案内してくれた。
馬車などは大きいので、裏の倉庫に保管されている。
なお馬は更に裏手に、専用の飼育舎がある。田舎だからね。土地だけは沢山あるんだ。




