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そして、受付についた私が請けると言った依頼の内容を聞くなり……レイルさんがぽかーんと口をあけて私を見た。
「……ちょちょちょちょっと、ミレイちゃん?!」
思わず呼び方が戻ってしまうくらいの衝撃だったのか。なんかすまん。
「はーい?」
「やっぱりショックだったのね……そうよね、いきなりだもの。気付いてあげられなくてごめんなさい...…」
いやいや、レイルさん、そんな気づかい不要ですよ。ちゃんと正気ですよ。
「いやちゃんと達成前提で魔生石も持ってますよ? 大丈夫ですよ?」
「達成前提って、あなたもしかしてそれって」
「あ、はい。昔父が取ってきた記念品で、母がいつも私に持たせてくれてたんですよね。何かあった時には、これを売るようにって」
そう言って、ガサガサと肩にかけていたリュックをあさりだす。保有空間から直接出すのは変だしね。
その間、レイルさんは何だかつらそうな表情をしていた。
そりゃそうだよね。ほぼ遺品みたいなもんだ。でも、私は確信している。
父さんなら絶対に「ミレイの役に立てるなら名前くらいなんでもないよっ!」とかサムズアップしながら輝かしい笑顔で言ってくれることを。
生きるためであるなら出所などいくらでも偽るさ!
「あぁ、コレですね」
取り出したのは、先ほどの3セルのものが1つ入った小さな皮袋。その口ひもをほどいてから、レイルさんに中身を見せた。
「ちょ、ちょっと待って!」
中身を見て、とたんに慌てだすレイルさん。
「これ、本当に売るつもり?」
「はい」
きっぱりと言い放つと、レイルさんの目が困惑に揺らめいた。
「質が悪ければ最低価格での買い取りになってしまうけれど……いいのね?」
レイルさんの問いかけに、後ろに居てくれるレベッカさんとサブリナさんは反応を示さない。
手放すも置いておくも本人の判断、なんて思われてるのかもしれないね。
「はい。父も母も、ウェリルで売ることに異論はないと思います」
少しだけ力なく微笑んで答えれば、レイルさんも納得してくれたようだった。
「わかったわ。2階の鑑定部屋の前で待っていてもらえる? 場所は0号室。ここはギルドが鑑定に使う部屋だから、賃料はいらないわ」
そう言ったレイルさんの顔は、少しだけ悲壮感を漂わせていた。
……すまん、レイルさん。
実際そんな曰く付きのものじゃあないんだ。
「あ、その前に、依頼もしたいんですが」
立ち上がりかけたレイルさんに待ったをかける。そっちも大事だけど、まず依頼をしておかないと。
「依頼? 1つの依頼につき手数料銀貨2枚かかるけどいいかしら?」
「はい。実は、『ウォームエア』の魔法を魔生石に込める依頼を出したいんです」
そう告げると、レイルさんの顔が怪訝そうな表情へと変わっていく。
「『ウォームエア』? あぁ、まだ持たせてもらっていなかったのね……。いくつ必要なの? 石はこちらで用意する?」
どうやらまだ持たせてもらっていなかったので家の焼失とともになくなってしまったのだと勝手に納得してくれたらしい。
実際は山越えのためでもあるのだけれど、今が秋の始めで本当に良かった。
「いえ、石の準備はこちらでします」
ちらっと上に目を向けておけば、それだけでレイルさんはハインツさんが準備する、と考えてくれたようで、すぐに納得してくれた。
ギルドで用意出来る魔生石はあるだろうけど、質がイマイチのものも混じっているだろうし、私の持ってる大きな魔生石の方が圧倒的に純度は高い。
なんせ私が12年かけて拾い集めたクズ魔生石を、ひとつにまとめたんだから。




