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ハインツさんも、それは予想していたのだろう。
特に驚くでもなく、穏やかな表情のままだった。
「……そうですね。なら、宿屋に? それとも、結婚の覚悟を決めましたか」
あー、なるほど。今思えばそれもあってすんなりとギルドカードの更新を許してくれたのかもしれない。
「いえ、ちょっと遠いですけど、フリージアに親戚が居ますから、そちらを頼るつもりです。結婚はそもそも、相手は居ませんからね」
そう言うと流石に予想外だったのか、ハインツさんが目を丸くした。
でもこれ、まるっきりの嘘というわけでもない。
実はうちの母には兄弟がいたのだが、弟は幼い頃に病で亡くなっているものの、兄の方はフリージアで生きているらしいのである。
といっても、私自身に交流もなければ顔も知らない。私が産まれた時には、既に伯父はそちらで家庭もあり、ウェリルに来ることはなかったから。
ただ相当なシスコンであったらしく、毎年必ず母の誕生日には母宛てに手紙を出して来るので名前を知っていただけだ。
なお、伯父の属性は土なので、彼が爆発魔ということはあり得ない。はず。
「しかし、相手なら」
「居ません」
「いやでも噂では」
「居・ま・せ・ん! アレがしつこいだけです!」
なおも食い下がるハインツさんの言葉に被せ気味に否定した。
これから旅をして行商をしたいのに、好きでもない相手との結婚なんぞお断りだ。
「なるほど……しかし、それなら、長期の護衛が要りますね」
ようやく折れたハインツさんが、思案げに首をひねった。
確かに普通はそうなんですよね、一気にフリージアまで行くならば。
だがしかし、いずれはそこまで行くつもりではあるが、今すぐ強行軍で行くつもりではない。
「いえ、マギまで行けば、父の古い知り合いが居ます。その人に頼めば、マギからフリージアまでは連れて行ってくれるはずです」
これまたまるっきりの嘘ではないよ。父の元々の生まれはマギだし、そこで父は冒険者をやっていた。
まぁそのマギで母と出逢ってしまったから今は家族と絶縁してしまってウェリルに住んでいた、ということにもなったのだけれど……それはまた、いずれ。
とにかく、古い知り合いの一人や二人は絶対に居るはずだし、そもそも絶縁した家族はマギに住んでいる。
これまた名前しか知らない御方だけれどね。
「なので、マギまでは……馬車を買って、向かおうと思っています。将来的に行商をする予定なので、いずれ馬車は必要になりますから」
「なるほど、そこまでならラナエたちの報酬分でも足りそうですね。行商をする予定なら、いつかウェリルにも足を運んでくださいね」
マギまでの護衛なら2日程度だから、金貨1枚もあれば足りる。
ここでの出費は痛いけど、怪しまれないためには仕方ない。
ちなみに、暮らしていた家のあった場所には、値はつかないのだそうだ。
まぁそりゃそうか。住んでいる間は土地持ちの税金を支払わなければならないけれど、元々別に土地自体を購入したわけでもないし。家もないから、資産はないしね。
「そうなれるように頑張りますね。まだ未来はわかりませんから、気が早いですけどね」
それと一応、顔も知らない伯父には母がもう死んだことは知らせておくべきだろう。なので、手紙はかなりお高いが、出さざるを得ない。




