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さぁ、ここから『私』の人生をはじめよう。
「お入りなさい」
机に座ったまま出迎えてくれたハインツさんは、なんだか疲れた表情をして書類に埋もれていた。
普段から優男の印象を受ける垂れた鳶色の瞳も、今日はなんだか更に覇気がない。
……まぁ、普段の業務に加えて爆発魔なんてものまで来たと予想されるから、それも当然なのかもしれないけれど。
「ミレイちゃん、わざわざ来てくれたんですね。すみません。あぁ、アンナはもう戻って良いですよ」
「はい。では、失礼いたします」
対照的にキビキビとしたアンナさんがなんだか格好良く見えたけれど、うん、普段とのギャップのせいかな。
出来る女ってこんな感じなんだろうか。憧れる。
一礼して立ち去ったのを見送ると、ハインツさんは私に長椅子にかけるようにと勧めてきた。
そこに私が腰かけるとハインツさんも席を立ち、低いテーブルを挟んだ反対側のソファーに移動する。
「……一晩で、そこまで落ち着きましたか。流石、ラナエとマリーナさんの子ですね」
ぼそり、と呟くように溢れた声は、だが確かに私の耳が拾っていた。私は思わずわずかに口角を上げて、眉尻を下げた。
「もう大丈夫です。なので、出来れば、どうしてあんなことになったのか、知りたいです」
おそらく詳しいことまでは話してはくれないのだろうが、少しでも情報があるならば、知っておきたい。
「そうですか、では……そうですね、何から話しましょうか。まず、爆発魔のことからで良いですか?」
私はそれにただ頷いた。
ハインツさんが話しやすい順番で話してくれれば問題はない。
時間はまだ、あるのだから。
「そもそも爆発魔自体、多くはないことはわかりますね?」
それにも頷く。
爆発魔はまず家人を殺して家を荒らし、金銭を奪った後に、家そのものを吹き飛ばすという野盗の一種。
しかしそんなことをする人はまれだ。
アースガイアにはそもそも優しい人が多いというのもあるが、世界の情勢として、そのような事をするよりも魔獣を狩ったりした方が稼げるからだ。
なので野盗となるのは、同族殺しや盗み、それ自体を快楽とするようなモノだけ。
人間は、魔獣を狩って減らしてくれる人間を尊重する。それを減らしてしまうような殺人行為は、基本的に赦されない。
同様に、横領などの悪事も同じような理由で赦されてはいない。
魔獣を狩ってもらうため、そして安全を確保するために使われるかもしれなかった個々の財産を不当に奪うこととなるからだ。
「数年前、フリージアで問題となっていた爆発魔が居ました。それがここ最近、サフネス、マギと移動していたようなのです。しかしここ2ヶ月ほどは大人しいものだったので、死んだのでは、とまで言われていたのですが……時期を見るに、おそらくそれがこちらに流れて来たのだと思います」
なるほど、都会からの流れ者、か。
母がやられてしまったのは、本当に運が悪かったのだろう。
フリージアから来たなら、うちが狙われる心当たりは……ないだろう。たぶん。
たまたま、うちが狙われてしまっただけ。
「おめおめと、あなたがたの家を爆破されてしまった……本当に、申し訳なく思っています」
「いや、謝らないでください。ハインツさんは、悪くないですから」
シュンと更に気落ちした様子で、彼は私に向かって頭を下げた。
しかし、悪いのは爆発魔だろう。
それを止められなかったから、という責任があるなら、まず私が一番の責任を負わなければおかしいことになる。
こんなことなら、よそ者は全部解析してやれば良かったかもしれない。もう遅いけれど。




