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部屋に鍵をかけて、階段をおりる。
そこにはまだ誰も居なかった。
おじさんは宿の裏手、そしておばちゃんはカウンターの奥に居るのはわかったので、おそらく朝の準備をしているのだろう。
邪魔をするのは気がひけたが、いつまでも声をかけずにいるわけにもいかない。
「おばちゃん、おはよう!」
いつものように。なるべく元気な声で挨拶をすると、奥からおばちゃんが駆け足で近づいてくるのがわかった。
そんなに急がなくても良いのに。
「おはよう、ミレイちゃん。……ご飯は食べれそうかい?」
「うん。ただ、今はお金が全くないんだ。どうしよう?」
軽く肩をすくめて見せると、おばちゃんも少しは安心したのだろうか。軽く笑顔になり、いつもの豪快さが戻ったように思う。
「それなら心配いらないよ。ハインツさんが言ってたんだけどね、ミレイちゃんには後で渡すけれど、預かってるお金があるからってさ」
「預かってる? 誰から?」
お金を預けておくのは基本的には母であるから、他の誰かに託すことはないと思うのだけれど。
「あー……まぁ、ラナエさんからになるのかね。なんでも、ラナエさんとパリス君に渡すはずだった依頼の報酬は、ミレイちゃんに渡すことになるそうだよ。それをとりあえずでハインツさんが預かってるから、ここで過ごすくらいなら何も心配いらないってさ。昼頃には顔を見せるから、その時に渡すって言ってたよ」
少しだけバツの悪そうな顔をしたが、おそらく昨日の今日ということで気を遣ってくれているのだろうな。
しかし、父さんたちの報酬ならグレートクロゴリラの討伐報酬だろうから、一体は倒していたのかな。そしたら金貨2枚は確実だから、しばらくは困ることはないだろう。
本来なら直接武術ギルドから貰うべきなのだろうけど、そこは気を利かせてくれたのかな。そんなものあるなんて気づいてもいなかったし。
「そっか。なら、ご飯食べたらギルドに行ってみるよ。早めにお金持っておきたいしね」
「そうかい……? ここで待っていても良いんだよ?」
たぶん、昨日の私の様子から心配してくれてるのだろうな。
そう言ってくれるのはありがたいけど、出来るだけ早く行動したいから。
「無一文って、落ち着かなくて。大丈夫だよ、おばちゃん。これでも雇われギルド員の娘だからね。いつかこんな日があるかもって覚悟くらいはしてたから」
……まぁ、このあたりでそんなことになるとは思ってなかった、ってのは本音。
それに、覚悟があったからって、その瞬間にすぐ受け入れられるって訳でもないけどね。
冒険者やギルド員の子供であれば、いつ親が死んでもおかしくはない。
なので、心のどこかでは、皆、覚悟はしてる。
だからかな。私も、ウジウジとはしなくて済んだのかもしれない。
「まぁ、一気にひとりになるとは思わなかったけどね」
苦笑しつつそう続ければ、おばちゃんもなんだか微妙な顔になってしまった。
いけないいけない。
「それより、お腹すいた。おばちゃん、ちょっと豪勢に、ファルタン作ってよ。クローナもつけてさ」
「あいよ。つけるのはソルパでなくて良いのかい?」
「あー。どっちもにしようかなっ。それくらいなら大丈夫でしょ」
捕らぬ狸の皮算用だけど、今日1日くらい、贅沢したってバチは当たらないはずだ。
その思考が見透かされているのか、おばちゃんは少し苦笑しつつも請け負ってくれた。
「わかったよ、とびきりウマイやつを作ってやるから、ちょっと待ってな。クローナは先に持ってきて良いのかい?」
「うん。冷ますから。お願いします」
猫舌なんだよ。悪いか。




