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改装工事中。  作者: 鳩浦 雪兎
予感と、現実と。
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4

 村にたどり着くなり、その場で解散となった。

 参加者は把握されているので、麻袋の返還や薬草の換金などは後日でも良い、と言われた。

 落ち着いたら、依頼の報酬を受け取りに行くように、とだけ注意を受けて。


 こんな状況だからだろう。

 子供たちにはそれぞれの家族や保護者が迎えに来ていた。


 解散となった瞬間、全員がそれぞれに走り出していた。

 ……私も、走り出したかった。けれど。走り出して受け止めてくれる相手が、そこには居なくて。

 代わりに私に近づいてきたのは、何故かハインツさんで。


「ミレイちゃん……」

 ハインツさんも、どう声をかけて良いのか、わからないんだろう。

 だって、ギルドマスターのハインツさんは知ってるはずなんだ。


「ねぇ、ハインツさん……うちの方にさ、煙が見えるんだ……なんか、焼いてるのかな。そうか、母さん、そういえば、ケーキを焼いていたから、それの煙なのかな? うちで待っててくれてるのかな?」


 わかってる。わかってるよ。

 うちの方から立ちのぼるあの黒い煙は、ケーキを焼くなんて可愛らしいものじゃないことくらい。

 けれど。

 けれど、もしかしたら。

 解析能力も、間違うことがあるのかもしれない。


「……君の家は、もう、ないんだ。ないんだよ……」

 そう言って、ハインツさんは、ぎゅっと私を抱きしめた。


 現実は、無情で。

 探索能力も、解析能力も。この時ばかりは、恨めしかった。

 行かなくても、わかってしまった。


 家の方から上がる、黒々とした煙。

 母さんの身体だったものは、救護院に、いいや。

 教会の方に、運ばれていて。


「ねぇ、かあさんと、とうさんと、にいさんは、どこ?」


 それでも。

 信じたくなかった。

 まるで幼い子供のように、すがるように。


 何故、父と兄はここに迎えに来てくれないのか。

 依頼の途中だから?

 ……違う。


「ねぇ、ハインツさん。みんなは、どこ……?」


 信じたくなんて、なかった。

 でも、村に居るはずのない父と、兄は、何故かもう、教会に反応があって。


 探索には、見馴れた灰色で表示されていて。


 灰色は、私が倒した魔獣の反応と同じで。

 それは、つまり。


 ──それから、どうしたのだか、自分でも良くわからない。

 わかるのは、気がついたら私は墓場に居て、目の前に家族の名前のかかれた白い石があった、ということだけ。


 ねぇ、ケーキ、楽しみにしてたんだよ。

 いつもはケチな母さんも、今日だけは、あったかい暖炉に火を(とも)してくれてさ。居間でちょっとだけ贅沢な時間を過ごすはずじゃなかったの?


 なんで、こうなったんだろう。

 私がはやく世界を見たいと願ったから?

 今日、西の森に行かなければ良かった?

 最初から能力を話していたら、何かが出来た?


 まるで泡沫(うたかた)のように、いろんなものが、浮かんでは消え、浮かんでは消え。


 世界が黄昏に染まり始める頃には、もう、涙も、かれていた。


 その姿をずっと、ずっと。

 ハインツさんは何も言わずに、見守ってくれていた。


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