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村にたどり着くなり、その場で解散となった。
参加者は把握されているので、麻袋の返還や薬草の換金などは後日でも良い、と言われた。
落ち着いたら、依頼の報酬を受け取りに行くように、とだけ注意を受けて。
こんな状況だからだろう。
子供たちにはそれぞれの家族や保護者が迎えに来ていた。
解散となった瞬間、全員がそれぞれに走り出していた。
……私も、走り出したかった。けれど。走り出して受け止めてくれる相手が、そこには居なくて。
代わりに私に近づいてきたのは、何故かハインツさんで。
「ミレイちゃん……」
ハインツさんも、どう声をかけて良いのか、わからないんだろう。
だって、ギルドマスターのハインツさんは知ってるはずなんだ。
「ねぇ、ハインツさん……うちの方にさ、煙が見えるんだ……なんか、焼いてるのかな。そうか、母さん、そういえば、ケーキを焼いていたから、それの煙なのかな? うちで待っててくれてるのかな?」
わかってる。わかってるよ。
うちの方から立ちのぼるあの黒い煙は、ケーキを焼くなんて可愛らしいものじゃないことくらい。
けれど。
けれど、もしかしたら。
解析能力も、間違うことがあるのかもしれない。
「……君の家は、もう、ないんだ。ないんだよ……」
そう言って、ハインツさんは、ぎゅっと私を抱きしめた。
現実は、無情で。
探索能力も、解析能力も。この時ばかりは、恨めしかった。
行かなくても、わかってしまった。
家の方から上がる、黒々とした煙。
母さんの身体だったものは、救護院に、いいや。
教会の方に、運ばれていて。
「ねぇ、かあさんと、とうさんと、にいさんは、どこ?」
それでも。
信じたくなかった。
まるで幼い子供のように、すがるように。
何故、父と兄はここに迎えに来てくれないのか。
依頼の途中だから?
……違う。
「ねぇ、ハインツさん。みんなは、どこ……?」
信じたくなんて、なかった。
でも、村に居るはずのない父と、兄は、何故かもう、教会に反応があって。
探索には、見馴れた灰色で表示されていて。
灰色は、私が倒した魔獣の反応と同じで。
それは、つまり。
──それから、どうしたのだか、自分でも良くわからない。
わかるのは、気がついたら私は墓場に居て、目の前に家族の名前のかかれた白い石があった、ということだけ。
ねぇ、ケーキ、楽しみにしてたんだよ。
いつもはケチな母さんも、今日だけは、あったかい暖炉に火を灯してくれてさ。居間でちょっとだけ贅沢な時間を過ごすはずじゃなかったの?
なんで、こうなったんだろう。
私がはやく世界を見たいと願ったから?
今日、西の森に行かなければ良かった?
最初から能力を話していたら、何かが出来た?
まるで泡沫のように、いろんなものが、浮かんでは消え、浮かんでは消え。
世界が黄昏に染まり始める頃には、もう、涙も、かれていた。
その姿をずっと、ずっと。
ハインツさんは何も言わずに、見守ってくれていた。




