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その言葉に、レベッカさんの瞳が不安そうに揺れたのが見えた。
「そうなの。……でもこの花は、危険よ?」
うん、知ってる。
ミリーの花の花粉には強い麻痺作用があり、吸い込んだり触れてしまえば半刻は動けなくなるほど。
だから、レベッカさんも花々とは一定の距離を保っている訳だし、西の森にはグレートクロゴリラをはじめとした魔獣は近づかないのだ。
近づくことが出来るのは、共生関係にある虫の魔獣……魔虫である、ブラックビーだけだ。今は幸いブラックビーの姿はない。
「えぇと。まぁでも吸い込まなければ良い訳ですし。しっかりローブで口と鼻を覆って息をとめて行くので平気ですよ。これもありますしね」
さっとリュック経由でほっ君から取り出したのは水筒。
「ただの水を撒いても効果はないわよ?」
「あはは、これ、ヒールウォーターなんですよ。私、水属性の魔法が使えるんです」
と言っても中身はただのヒールウォーターで、もちろんこれに麻痺治しなんて効能はない。
が、これをあたりに撒くことで空中に漂っている花粉を抑え、更にそこには花粉は寄りつかなくなる。
不思議なことだが、花粉も触れると地面に落ちるしかないことがわかるのだろうか。
「手前の数本を採集したら、すぐに戻りますから。ダメ、ですか?」
実際にそれらをしなくても、正直浄化能力を使えば花粉にまとまりつかれることはない。それはわかっている。
けれど、まぁ、パフォーマンスとしては必要なんですよね。面倒だけれども。
しばし難しい顔をしていたレベッカさんであったが、もとより止めるつもりはなかったのだろう。
止める気ならそもそも、ここに案内はしてくれない。
だって、この依頼が出される前に、調査が入っているはずだから。つまり、ここにミリーの花があることなんて、わかっていたはずだからね。
軽くため息をつくと、渋々といった体で許可してくれた。
「ちゃんと準備までしてたのね……わかりました。採取の仕方は調べてきたの?」
「もちろんです」
そう言うと、今度はリュックから取り出した皮袋をひとつ、左手にしっかりと用意した。
右手には水筒、左手には皮袋。
ただの花を採るのとは訳が違う。
ミリーの花も、言ってしまえば薬草の一つなのだ。




