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そう言って目を丸くした彼女は宿屋のおかみのシアンさんである。
シアンさんとはいつも井戸端会議ならぬカウンター端会議をする仲なので、かなりの仲良しだと自負しております。
「おばちゃん、お願いがあるんだ。今日実は薬草体験に行くことになってね?」
「なるほど、お昼ご飯かい? 良いよ、カンパニュラで良けりゃ銅板6枚で作ってやろうじゃないか」
やだおばちゃん話がわかる。
まぁウェリル村にも食堂とかがないわけじゃないが、私はここのご飯が好きなのでもっぱら外食はここで済ますことが多いのだ。ほとんど外食なぞしないけど、特別なときとかね。
この宿屋、というか宿屋は基本的に飯屋兼業で、夜はお酒も出してくれるところが多い。
この世界では一般的に5歳未満は年端のいかぬ子供扱い、5歳以上16歳未満が少年少女、16歳から18歳未満が大人への準備期間という中間期と呼ばれるものがあり、満18歳から大人と見なされはするものの、成年定義がないから一応私もお酒は飲める。異世界の神秘である。
ただ前世からの業なのか、ザルな私は高いお酒より安上がりなジュース!なので、あまり口にしない。
一度で良いから、可愛らしく「酔っぱらっちゃったぁ、えへへ」とか言ってみたい。ごめんなさい嘘です。想像の私がやったら不気味だった。
食事も味は基本、地球とあまり変わらない。名前がちょっと違ったり、原材料の作り方が違ったりするだけかな?
地方によって、特殊食材はあるけどね。ちなみに緑茶はないけど紅茶はある。なんで紅茶があって緑茶はないのだ。理由は知ってるが解せぬ。
薬草体験、と言えばこの村では有名なので、昼ごはんも自前で用意せねばならないことも周知されている。なので、多くを言わなくても通じるのだ。
「……銅板4枚」
「バカ言うんじゃないよ。これでもまけてるんだよ、ミレイちゃんだから」
……ちっ、値切れないか。
まぁ本来ならば宿屋価格で銅板8枚ってところだろう。地球ならコンビニとかで2切れ200円ほどだろうが、こちらは量もしっかり入ってるのでお高いのだ。
しかし商人を志す者としては値切りたくなるのが心情ってものなのだよ。
「……なら、器なしで銅板4枚と銅貨8枚にまけてくれない? 器ならあるからさ。あといつものクローナも頼むから、それで銅板9枚と銅貨8枚でどう?」
そう言ってほっ君から取り出した鉄のドカベンを見せてみた。
良いよねこれ。便利だし、鉄だけで作れるし。材料の鉄は小さい頃から地中からチマチマ集めていたので、ほっ君の中にはまだ50タムほど残っている。このあたりの土壌は鉄分が豊富に含まれていて、近くには廃鉱なんかもあるくらいなんだよ。
難点は少し重たいことくらいかな。横10セル、縦15セル、深さ5セルくらいのふたつきで1タムちょいあるんだよねこれ。切実にアルミニウムみたいな軽い金属を求む。
あ、ドカベンを木で作るって発想は端から頭にないです。
「……かなわないねぇ。まぁ良いだろ。ちょっと待ってな」
なおも食い下がる私に根負けしたのか、それとも器なしが魅力だったか。おばちゃんは値切り交渉に応じてくれました。
器返却なら銅板1枚バックだもんね。
本来が銅板8枚で器返却なら銅板7枚のところ、洗い物の手間を考えたら銅貨2枚分くらいの値切りなら良いって判断してくれたみたい。
正規の値段よりも220円分安く昼飯ゲットだぜ。なんとか手持ちで足りて良かったよ。
ちなみに頼んだクローナはここで飲む用だ。
集合時間まで、ここでおばちゃんと話でもして時間を潰そうかなってね。
クローナは一杯で銅板5枚だから値切れなかったら飲み物は水になるところだった。危ない。




