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改装工事中。  作者: 鳩浦 雪兎
澄んだ空気の朝に。
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7

 少しだけ声を落とし、カウンターに顔を寄せる。

「実は今日、うちの父と兄が緊急依頼を請けて出かけたんですよね。内容を知ることは可能ですか?」

「ラナエさんとパリスさんね。えぇ、お二人の依頼については、守秘(しゅひ)依頼でないから、教えられないことはないけれど……」


 守秘依頼、とは文字通り依頼主の都合で依頼主が誰であるか、もしくは依頼の内容そのものを他者に教えられない依頼のことだ。

 アースガイアでは基本的には依頼内容は開示され、また依頼主についても同様に開示される。

 それが嫌な依頼主は、依頼をするときにギルドに守秘で、と言付ければ守秘依頼となる。

 なお理由は訊かれるけれど、名前が公表されるのは恥ずかしいから、とかの理由でもしっかり守秘依頼にしてくれます。

 守秘依頼でないと依頼主の名前も訊いたら教えてくれるんだよね。

 緊急依頼についてはだいたいが特殊ギルド員への依頼もしくは冒険者への指名依頼となるから、内容まで守秘にしようと思えば出来てしまうんですよ。


 少しためらった雰囲気のレイルさんだったが、守秘でない以上、情報を求められれば開示せねばならない。それをわかっているので、渋々ながらも話してくれた。

「あんまりミレイちゃんには聞かせたくないのだけれどね。村の北や東の方の山にグレートクロゴリラが出没するのは知っているでしょう?」

「あー。はい。群れないけれど、一体一体がBランクで危険って」


 魔獣のランクは人間のものとは違い、一般的なCランクの冒険者が一体を倒すための必要人数がランクの目安となっている。

 Bランク魔獣となると、一体に対してCランク以上の冒険者がチーム四人がかりで狩るような魔獣だ。

 それをソロ討伐出来るのはおそらくAランク以上の冒険者くらいなものだろう。


「それがどうやら、山を降りてきてしまったみたいなの。場所はバラバラなのだけれど、街道近くに2頭確認されたから、それの調査と討伐をお願いしたのよ」

 なるほど、まぁそれなら父さんと兄さんでも可能だろうな。

 グレートクロゴリラは名前がゴリラのくせに群れることのない魔獣だから、戦闘になっても一体ずつだろうし。

 冒険者は調査とか苦手だもんね。ギルド員の、それも戦闘が出来る特殊ギルド員に依頼が行くのは当然だな。


「ありがとうございます。今日は私けっこう早起きしたはずなんですけど、もう家に居なかったから、どんな依頼だったのかなって気になっちゃって」

「そっか。それなら、夕方には帰ってくると思うわ。体験依頼が終わった頃には、きっと二人とも家で待ってるわよ。あっ」

 何かを思い出したように両手を顔の前で合わせると、彼女はそのまま満面の笑みを浮かべた。


「遅くなってごめんなさい、ミレイちゃん今日お誕生日よね? おめでとう!」

「え、あ、ありがとうございます」

 まさか、レイルさんが覚えてくれてるとは思わなかった。

 驚く私に、レイルさんは苦笑しつつも机の下から何かの袋を取り出した。

「昨日ね、ラナエさんとパリスさんが渋々依頼を請けてくれた時に言ってたのよ。『ミレイの誕生日なのに討伐依頼だなんて』って。休みも取りたかったらしいけれど、マスターから許されなかったらしいわ」

 父さん、兄さん……恥ずかしいのでやめていただけませんか……。

 眉間を押さえてうなだれている私に、レイルさんは先ほど取り出した麻袋を差し出す。

「それでね、これ、良かったら誕生日プレゼント。おやつに食べて」

 袋を開けてみると、中にはお手製と思われるクッキーが入っている。

 わざわざ準備してくれたのだろうか……。

「わざわざありがとうございます……なんか本当にすみません」

「あら、良いのよ。ミレイちゃんが来なかったら、それリリィのお腹に入るだけだったしね」

 なんてウィンクするレイルさんは本当に素敵な女性だと思う。

 まぁ、実際のところ私が商工ギルドに顔を出さない日はほとんどない。

 それに料理が上手なレイルさんとは対称的に、リリィさんは料理がまったく出来ないらしいので毎日のご飯はレイルさんが作っているらしく、私が来なかった場合は本当にこれはリリィさんのおやつになったことだろう。

 つまり本日リリィさんはおやつ抜きか。ドンマイ。


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