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「そうですか。わかりました。ところで、その北山の湖への道はどう行けば良いのでしょう?」
「湖へは、北門から出て真っ直ぐ道なりに行けば着きますが……行くのですか?」
「ありがとうございます。えぇ、まぁ依頼は請けませんが、ユニコーンが見られたら幸運になれるらしいですから、覗きに行くくらいはしてみようかと」
笑って応えると、コナさんはなんだか心配そうな顔になった。
「無理に請けようとはしないで下さいね。最近はグレートクロゴリラが増えたそうですし、近辺で新種の魔獣も目撃されたそうですから」
……うん。そこはちゃんと気をつけますよ。
「では、明日の10刻頃にまた伺いますので、よろしくお願いします」
「承りました。ご依頼、ありがとうございます」
受付を離れて腕時計を確認すれば、既に26刻になっていた。
夜食には少し遅くなってしまったが、宿屋は酒場も兼ねているところが多いし、オヤジのところもその1つだ。
今から頼んでもオヤジも嫌な顔はしないだろう。
宿屋に戻ると、そこそこの人数が酒を嗜んでいた。
オヤジに晩飯を頼んでカウンターに座ると、周りの話し声が漏れ聞こえてくるが、そこまで騒がしい雰囲気でもない。ここは酒場としても優良らしいな。
いくつか提示された晩飯メニューの中から選んだのはウルフソルパとティガリッジ。
一口食べてみるとどちらも美味しい。
ここは棘花の情報通り当たりだったね。
「そういや、聞いたか?」
「ん?」
食べ進めていると、近くのテーブルに座る冒険者らしい男2人の声が耳に飛び込んできた。
「危険魔獣の1つが狩られたんだってよ。なんでも金板100枚の報奨だって話だ」
「金板100枚?! あの地龍か?」
そういえば危険魔獣の木板に6年くらい貼ってあったものにそんなの居たような……人間に狩れるものなんだ、あれ。
「しかもよ、普通そんなの狩るならチーム50は要るだろ? それが、狩ったのはたった1つのチームらしいぞ」
「はぁ? そりゃお前、偽情報つかまされたろ。なんだ、それとも俺のことからかってんのか?」
酒の席だし、オオボラ話も珍しくもないが、この話は妙に気になった。
地龍が狩られたのなら、その素材が売りに出されるんだろう。
私には今のところ必要はないけれど、龍の血を使ったポーションにはかなりの回復効果があるらしいし、肉はこの世のものとは思えないほどウマいらしいし、骨や牙は頑丈な武器になるらしいし、鱗は物理魔法どちらも抵抗が高い鎧や盾になるという。
普通のポーションなら気付け薬程度の効果しかないけど、龍のポーションは本当に回復するというから、興味はあるよね。
しかも、内臓系は病も治してしまうらしいし。
「いや、本当にそうなんだって。狩ったチームもわかってるぞ。“あの”銀の戦乙女だ」
「マジかよっ。それは……あるかもしれねぇな」
銀の戦乙女……って、ここ数年武闘大会で優勝してるSランクチームじゃないか。
しかも、圧倒的な強さを誇る銀の戦乙女の大将と副将には、別名がつけられているほど。
無敗のロイド。
悠然のサヤカ。
銀の戦乙女は、どんな相手であろうとも大将までたどり着けず、副将で終わるという。
名前だけは武闘大会への出場時点で判明するから、副将がロイド=フレイムタン、大将がサヤカ=ヴェルダードということは判っているのだが、彼らの住居は元の場所から引っ越したあとは非公開にされているし、あまり人前に出ないという噂で、素顔を見たことのある人間は少ないらしい。
武闘大会の舞台はそこそこ遠いから、顔も見えづらいしね。
「それが本当なら今年も優勝は決まったようなもんだなぁ。今年もアイツらに賭けるのが無難か」
「まぁ脅威が少し減ったってのは喜ばしいこった。それに大穴が潜んでる可能性もあるし、わからんぞ?」
あ、この人たちサフネスに行くのかな?
武闘大会名物の優勝ダービーは一般人の楽しみにもなっていて、王都であるサフネスで開催されているという話を聞いたことがある。
その後も彼らの話に耳を傾けていたが、他には特に興味のひかれる話題はなかった。
「オジさん、ごちそうさま。ウマかった」
「おぅ、ありがとよ! バルンはさっさと寝な」
あはは、バルンか。やっぱり最初の印象って大事なんだなぁ。バルンって男の子への呼びかけだもの。女の子ならバレンって呼ばれる。
まぁ、晩飯のメニューを選んだ時に一緒に酒もどうだと言われたのを断ってるから、子ども扱いされても仕方ないか。




