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「今は少々事情があってマギに向かっているんです。それより、教えてください。アデルさんたちがそんなになるまで急いで来た理由を」
アデルさんは一瞬の逡巡のあと、諦めたようにため息をついた。
「……実は、ここから17ケル北に、危険魔獣が出た」
「危険魔獣?! 山から何か降りてきたッスか?」
ウェリル周辺ではそんなに強い魔獣は見かけない、というのが周知の事実。
ただ、開拓されている付近がそうだ、というだけで、未だに知らない魔獣は沢山生息しているはず。
その中のどれかが強い魔獣だった、なんてことも有り得ない話ではない。
「どこから来たのかはわからない。だが、その魔獣は、どうもグレートクロゴリラの特殊魔獣のようだった」
話を聞くと、見つけた時には魔獣同士で争っていたらしい。
普通はグレートクロゴリラの体毛は黒っぽい茶色なのだがその個体は真っ白だったそうで、しかもその魔獣は他のグレートクロゴリラに護られていたようだった、と。
「すでにプラチナウルフに倒されていたと見られる死体もいくつか転がっていたがな。今まで狩られたグレートクロゴリラにはオスしか存在していなかったが、もしかしたらあのメタロトはメスなのかもしれない」
なるほど、女王蜂ならぬ女王ゴリラ制度なのかも。
それらからあぶれたグレートクロゴリラたちが山を降りてきて、ウェリル周辺で目撃されていたのかな。辻褄は合いそうだ。
しかし、その争っていた相手がなんとプラチナウルフらしいという。
プラチナウルフはA級の魔獣にあたるが、主な棲息地はアグネチャートの東の森だったはずだ。この辺りにも居たなんて。
「遠目から見ただけだから、はっきりとしたことは言えないんだが、どうもあのプラチナウルフの方は子連れのようだったな。小さめのを2匹連れていた」
なるほど、こちらは群れを追われたハグレかな。子育てのために栄養豊富な森に降りてきたのだろうか。アグネチャートからはるばるやってきたなら道中で目撃されているはずだし、元々近場の山に居たと考えるのが自然だ。
グレートクロゴリラの特殊魔獣に、群れたグレートクロゴリラに、プラチナウルフ3体。それはアデルさんたちが全力で走るのも納得だ。
アデルさんたちは200ミーダ程度のところから確認したというが、幸い気づかれなかったらしい。戦闘に夢中だったのだろうか。
「お引き留めしてすみません。情報をありがとうございました」
「いや、良いんだ。こういった情報ははやく伝達するに限るし、マギに行くならそっちにも知らせておいてもらえないか。恐らく調査討伐隊が組まれることになるはずだ」
「わかった。私たちの方から報告しておこう」
危険特殊魔獣の報告は冒険者の義務でもあるから、当然のようにジョージさんは承知した。
「助かる。では私たちはウェリルに戻ることにする。ミレイちゃん、気をつけて行けよ」
鉄の盾と別れて、私たちは予定通りにまたマギへと向かっている。
先ほどよりも緊張感が増していたが、7ケル範囲にはその魔獣の気配はないままだった。
……統率していた特殊魔獣のグレートクロゴリラ、プラチナウルフ。
あの日、父さんと兄さんは……偶然見つけてしまったのだろう。おそらく、特殊魔獣の方を。
撤退するにしても、魔獣の索敵範囲は広く、アデルさんたちのように他との戦闘中でもなければ普通は逃げられるような状況じゃない。
全ては、推測。だけど、この推測はおそらく合っているだろう。
魔獣を恨むことなんて出来ないし、するつもりもない。魔獣との戦いで散る、なんてこの世界に生きていれば良くある話。
だけど、こう願ってしまう私は弱いのかな。
はやく討伐されて欲しい、と。




