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宿屋に戻ると、時刻はちょうど7刻だった。
シアンおばちゃんは予告通りに朝食を用意してくれていたようで、すぐに朝食を出してくれた。
レベッカさんとサブリナさんとともに朝食をいただいていると、ジョージさんたち男性陣も参加してきた。
朝からたくさん食べすぎて少し苦しいけど、幸せな苦しさだな、これは。
朝食後、男性陣も準備は終わっている、ということで、商工ギルドのハインツさんに挨拶をしに行くことになった。その前に、おばちゃんたちにも挨拶しとかないと。
「シアンおばちゃん、ヒューズおじさん、2日間、お世話になりました」
「もう行くのかい……寂しくなるね」
そう言ってもらえるのは嬉しいし、ここはとても居心地が良いけれど、グズグズしていてはいつまでたっても旅立てない。
それに、夢だったんだ。行商は。
「早めに出ないと危険も増えるし。親戚も遠くだけど待ってるからさ。あんまり待たせたら悪いだろうし、ヤキモキさせちゃうでしょ?」
待ってる人なんて居ないけれど、いや、もしかしたら、お客さまは待ってるのかもしれないのかな?
そうなれば良いとは思っているけれど。
「そうだねぇ……この商売、見送るのは慣れてたはずなんだけどね。どうも年をとるといけないねぇ……」
くしゃっと顔をゆがめて、おばちゃんは笑った。
ちょっとだけその笑顔が泣きそうな顔に見えたのは、間違いではないと思う。
「ありがとう、おばちゃん。それからおじさんも。きっとまた、ここに食べに来るよ」
約束は、出来ないけれど。
私はただ、曖昧に笑うのが精一杯だった。
「うん。何も今生の別れって訳でもないしね。行っておいで! また、ご飯を食べに帰っておいで」
帰っておいで、と言われて、ここがたぶん故郷ってやつなんだな、とそう思った。
商工ギルドでシルビアさんに尋ねると、ハインツさんは既に出勤していた。
ギルドマスター室に居るので、勝手に上がって構わない、と言われた。
驚いたが、ハインツさんの指示だと言う。もしも私が来たら誰と居てもすぐ通すように、と。
私だけならそういうこともあったけど、棘花のメンバーも居るのに。
ハインツさんから見た彼らは信頼に足るチームってことなのかな。
「失礼します。ミレイ=シュライクです」
「どうぞ。鍵はかかっていませんから」
ノックをして名乗るとすぐに返答があった。
中に入ると、ハインツさんは何やら書類を処理している。朝から大量の書類に囲まれているハインツさんを見ると、ギルドマスターにだけはなりたくないな、と思う。
「ハインツさん、お世話になりました」
順当に挨拶を交わし、旅立ちの報告を済ませた。これが最後になるかもしれないと思うと、やっぱり寂しいものがある。
「ミレイさん、寂しくはなりますが……気をつけて行くのですよ。これも大切にしますね。皆さん、護衛は頼みましたよ」
私も大事な贈り物を渡すことが出来た。
といっても、素直に受け取ってくれる訳がないので、中身は私が細工したペンダントなのだがすぐに見られるのは恥ずかしいので今夜家で見て欲しいと伝えてある。苦肉の策である。
「はい。色々とありがとうございました。またウェリルに来れる機会があれば、帰ってきます」
「えぇ。いつでも歓迎しますよ。行ってらっしゃい」
送り出してくれたハインツさんの柔らかな笑顔は、いつもの笑顔とは少しだけ違う気がした。




