黒雪伝説・湯煙情緒 5
王子が寝室に戻ると、黒雪が紙の束を持ってベッドの上に立っていた。
「何をしてるんですか?」
「あら、もう寝るの? ちょっと待って
危ないから、部屋の向こうの端っこに行ってて。」
「はあ・・・」
王子が部屋の隅に行くと、黒雪姫はヘアバンドで目隠しをした。
そして持ってた紙束を宙に放り投げる。
その後、ベッドの上でバイーンバイーンと飛び始めた。
「???????」
王子があまりのわけわからなさに、動揺し始めた時
「そこだあああああああっっっ!」
と、黒雪がベッドの上から床へとダイヴした。
黒雪の持ってたキリが、床にグサーッと突き刺さる。
黒雪が目隠しを外し、キリに刺さった紙を拾い上げる。
「ふうむ・・・。」
「あの・・・・・・?」
王子が部屋の隅から声を掛けると
黒雪はようやく王子を思い出したようだ。
「あ、ごめんごめん、もういいわよ。
紙を拾うのを手伝って。」
せっせせっせと拾い集めた紙を見たら、どうやら地図のようだ。
「それで何をしてたんです?」
「うん、資源調査に行く地を決めてたの。」
「はあ?????」
「この前、他の誰かの意思が関係してそう、って言ってたでしょ?
それが本当なら、私たちがランダムに選んでも
そいつの行って欲しい場所に設定されるんじゃないか、と思ってね。」
「なるほど・・・。 それは一理ありますね。」
「でしょー?」
黒雪は嬉しそうに威張った。
王子が黒雪の笑顔にキュンときて
いとおしそうに頬にチュッチュチュッチュしながら訊く。
「で、どこになったんです?」
「ここ。」
「えーと・・・。」
王子は全体地図と見比べながら、穴の開いた場所を探した。
「ああ、国の南東の端ですね。
荒野の向こうはじですよ。
ここなら途中まで東国との道を行けるから
行き来もラクで・・・・・・・
・・・・・・・・・・。」
王子は部分地図の穴に改めて気付き、足元を見た。
「奥さま・・・、次からは他の選出法にしてください!
いくら貧乏国とは言え、一応、王子妃の寝室
このじゅうたん、高価なんですよっ。」
「でへへー。」
黒雪がベッドに潜り込む。
「『でへへ』 じゃありません!」
怒る王子だったが、すぐにデレデレし始めた。
「こういうのって、“新婚” ですよねえ。」
布団をめくると、黒雪は既にヨダレを垂らして寝ていた。
「・・・・・・・・
何で頭を使わない人って、寝付きが良いんでしょうね・・・。」
気にするな。 不眠症のヒガミだ。