黒雪伝説・湯煙情緒 13
あーあ、せっかくご機嫌が直ったところだったのに・・・。
さすがの王子も、魔王の空気の読めなさに落胆を禁じえなかった。
どうやって奥さまのご機嫌を取ろうか
隠し持っていたチョコレートを出そうか
いや、あれは遭難した時用に温存しとくべきか
王子がグルグルと思考している横で、黒雪が服を脱ぎ始めた。
「お、奥さま、何をやってるんですか!」
黒雪の外したボタンを、慌てて上からはめ直しながら王子が怒る。
「何って、温泉に入るのよ。
一番風呂に入るのは、見つけた者の特権でしょう。」
「だからと言って、こんな屋外で裸にならないでください!」
黒雪が、王子の止める手を振り払った。
「あのね、王族ってのは自分じゃケツも洗わないの。
風呂も何もすべて、召使いがしてくれるの。
生まれた時から今までずーっとそうだったから
人前でオールヌードになる事なんか、屁でもないのよ。」
ええ、そんなあー、と、あ然とする王子を置いて
さっさとお湯に入った黒雪がうなった。
「ううーん、良いお湯加減ーーー。
魔王、やっぱ、ちっとは気を遣ってたようだわ。」
そして、とまどっている王子を呼ぶ。
「あなたも早く入ったら?
さっきの音、多分城や国境まで聞こえてるはずよ。
その内、人が集まって来るんじゃない?」
「え・・・。」
まだ、グズグズする王子に、黒雪が改心の一撃を繰り出す。
「ふたりだけで露天風呂、新婚旅行気分よねーーー?」
仲良く入浴しながら、ふたりの思いはまったく別だった。
ここから国境は、すぐの距離でしたね。
この温泉を中心に娯楽施設を建てれば、東国から観光客を呼べますね。
温泉か・・・。
イオウって確か、火薬の材料だったわよね。
荒野は乾燥してるから、硝石が見つかるかも。
この近所に火薬工場を建てて、爆薬作り放題よ!
「これからどうします?」
「城の者が来るのを待って、私たちは引き上げましょう。
今回はこんなもので上出来じゃない?」
ニッコリ笑う黒雪の頬に、王子がキスをする。
「そうですね。
じゃあ、思い出作りをしましょう。」
「冬に間に合うようにね。」
「王族も色々と大変ですね。」
ふたり、おでこをくっつけて、クスクスと笑った。
終わり