第5話「落ちこぼれの学院復帰」
そして旅に出てから一年が経ち、俺は再び魔法学院へ戻ってきた。
二年からかと思いきやレーネ教授の根回しによって二年を飛ばしてそのまま三年生として復帰し、今日は復帰して初登校日。
授業自体が始まってもう数日が経っている。
多少授業内容について行けるか不安に思ったがレーネ教授が言うには大丈夫らしい。
ほんとに信じて良い物やら。
複雑な気持ちで教室のドアを開ける。
すると教室内の全員がこちらを見る。
その後は少しざわつき始めた。
「あいつ誰だ?」
「転入生?この時期にか?」
「そうなると大分すごい腕なんじゃ」
「少しかっこよくない?」
「でもうちらのクラスに空いてる席なんてないし間違えているのかも」
「声をかけるチャンスかな?」
と教室のあちこちで俺の話をされている。
それを放っておいて自分の席に向かう。
隣の席にはクリスティーナが座っている。
今も偉そうな態度は変わらないようだ。
自分の席に座ろうとするとクリスティーナが口を開いた。
「あなた、何処の馬の骨かも知りませんが他人の席に勝手に座るのはどうなのかしら?常識というのを知らないのかしら?」
相変わらずの上から目線だ。
「じゃあ言わせてもらおう、自分の席に座って何が悪い?」
それを聞いたクリスティーナは少し驚く。
「ふんっ、そんな嘘を言えば信じるとでも?ま、授業が始まればわかることですわ」
クリスティーナがそう言うとチャイムが鳴り一時間目が開始した。
扉を開けて教師が入ってくる。
入ってきたのはレーネ教授だ。
入ってくるなりいきなりニヤニヤとしている。
明らかに何か考えているに違いない。
「では授業を始める。今日は実技だ」
生徒は全員静かに聞いているが、俺の存在に突っ込まないのかと言わんばかりに変な雰囲気が漂い始める。
それも気にせずに授業を進めるレーネ教授。
授業内容は使い魔の召喚だった。
それはもう特訓で行ったから俺には関係なかった。
「君たちはまだ使い魔を召喚していないと聞いた、ある一人を覗いては、な?」
そう言っては俺の方を見るレーネ教授。
「ではルイス、前で実演してくれたえ」
俺の名前を聞いて周りが驚く。
「い、今なんて言った?」
「聞き間違いじゃなければルイスってレーネ教授は呼んだよな?」
「あいつなわけないだろ、あの落ちこぼれは学院から消えてるし」
またもや俺の話をちらほらし始めた。
クリスティーナにおいてはじっと俺の顔を見ている。
それらを無視してレーネ教授の下へ向かう。
全員からの視線を受ける中、教壇に立った俺は魔法陣を描く。
するとそこに一人の少女が現れた。
「このように使い魔の召喚に一度成功すれば何度も呼び出すことはできる」
淡々と当たり前のように授業を進めるレーネ教授に生徒はついて行けていなかった。
するとしびれを切らしたクリスティーナが立ち上がる。
「あのレーネ教授、彼は何者なんですか?いきなり現れて当然のように魔法を使われては何も理解できません」
「ふむ、一つずつ答えよう。まず、今魔法を使ってもらったのはこの術式が正しいことを証明するため、そして彼はイレギュラーなことを成し遂げた。人型の使い魔を召喚したのだからな。そして二つ目、こいつはお前らが見下しているルイス=ラストラスだ」
一瞬教室が静かになり、その後は驚きの声に包まれた。
しばらくは色んなことを聞かれたりした。
今までこのAクラスにいなかった人たちだ。
聞かれたことに適当に答えている間も貴族の奴らからは白い目で見られている。
クリスティーナは未だに疑いの目を向けてきている。
すると人をかき分けてくる一人の女性がいた。
エミリアだ。
「随分と容姿が変わったようね。それに力も身につけたようね」
「あ、あぁ、おかげさまで」
「私にはできなかったことだわ」
「・・・・・・?」
少し暗い表情になるエミリア理由を尋ねようとしたが授業開始のチャイムが鳴ってしまい、聞くことができなかった。
それからも聞くタイミングがなく、日々が過ぎてしまった。
その後の授業内容はレーネ教授に教わったことばかりだったので試験などは簡単に通過することができた。
成績も魔法学、魔法具学どちらの成績もエミリアには劣るものの並ぶほどまでに至ってしまった。
おかげでより白い目で見られたり喧嘩を売られたりする。
あのクリスティーナでさえ負けた事が悔しいのか勝負を挑んでくるようになった。
一度七星の一位と二位のやつが勧誘のようなものをしに来たがきっぱり断った。
目の敵にしているやつもいるとか。
成績上位者になったおかげで自分の部屋も割り振られた。
元々Aクラスの人間には割り振られていたのだが成績によって広さなどが違うらしいそれも噂で聞いた話だ。
俺の部屋は工房のようにしていてミーアにはそこにいてもらっている。
俺の作った魔法具をいつも興味津々に眺めていたりする。
その姿を見るとどうしても子供のように見えてしまう。
とそんなことを考えていると正面からクリスティーナが歩いてきた。
「やっと見つけました!さぁ!私と試合をしてください!」
いつもこれだ。
会うたびに試合を申し込んでくる。
正直相手をするのが疲れる。
「いい加減諦めろ。俺は無意味な試合はしない」
「む、無意味ですって!?私たちの上下関係をはっきりさせるために必要です!」
「関係ないな。俺には必要ない。必要というならばお前が上で良いだろう」
「納得がいきません!」
はぁ、これだから疲れる。
言い出したら聞かない。
まるでアリスみたいだ。
するとクリスティーナの後ろに人影が複数人現れる。
「君が噂のルイス=ラストラスみたいだね」
クールな雰囲気を纏っている男が言う。
声を聞いた瞬間にクリスティーナは俺の後ろに素早く隠れる。
こいつは現在の七星の一人で女子に大人気の男だ。
その隣にはごつい体をしたやつもいる。
やつも七星の一人、確か二つ名が付いていて《怪力の剣豪》などと呼ばれている。
「七星の二人が何か用か?」
「なに、最近出しゃばっているやつがいると聞いたもんでな」
剣豪が答えた。
明らかに敵意むき出しといった状態だ。
「ほう?それは誰だろうな?お前じゃないのか?」
クリスティーナは俺の後ろで縮こまっていて何も言わない。
そしてクールな男が代わりに口を開く。
「まさか、七星にすら選ばれなかった彼女のわけないでしょう。あなたのことですよ、ルイス=ラストラス」
急に真顔になって名前を呼ぶ。
今回はどうやら勧誘ではなさそうだな。
「それで目的は?」
「簡単なことです。この学院で目立つ行為をやめて頂くだけですから」
「何もしていないがな?」
「存在自体が邪魔、と言った方がよろしいですか?」
「ほう?嫌だと言ったら?力ずくでねじ伏せるか?」
「そうかもしれませんね」
「まぁいい、好きにしろ」
こういう奴らは放っておくに限る。
それを聞いてクリスティーナが驚いた表情をしている。
険しい表情をした剣豪が今度は口を開く。
「力に自信があるようだが、我らを七星と知ってのことか?」
「相手が誰であろうと降りかかる火の粉を払うまでだ。なんなら七星全員でかかってきても良いが?」
「調子に乗るのも大概に・・・・・・!」
怒りかけた剣豪を身長の低い眼鏡をかけた少年が手で止める。
「ルイス=ラストラス、ラストラス家の落ちこぼれ、魔法が使えないことで有名だった君がなぜそこまでになったのか。気になるね」
このいかにもガリ勉のようだがいかにも子供っぽいがこれも七星の一人だ。
七星一人一人の名前も覚えていないけどな。
二つ名があればわかりやすい。
「なんだ、お前も勝負を挑むと?」
「君は七星全員を今敵に回した。それを後悔することになるよ?」
「忠告どうも。だが俺はいつでも受けて立つ」
「そっか。わかったよ。では来週に僕たち三人が相手をするでどう?」
「ほう?」
「場所は闘技場。時間は正午かな」
「良いだろう」
「持ち込めるのは魔法具一つまでです。使い魔の仕様も認めましょう。それ以外は反則と見なし負けとする。と言ったところでしょうか」
俺に魔法具をいくつも使わせないことで自分たちが優勢になるようにしたと言ったところか。
「いいだろう」
「では、来週を楽しみにしていますね。あなたの無様な負け姿を見るのが楽しみです」
そう言って女子に人気男が笑顔で去って行く。
他の二人もそれに続き、去った方では女性との黄色い声援が聞こえてきた。
「あんた正気なの?あいつらと戦うなんて」
「売られた喧嘩は買う物だ」
「私のは断るくせに・・・・・・」
ボソッとクリスティーナが何か言ったが、俺には聞こえなかった。
「俺もお前の相手をしている暇はない、じゃあな」
そう言って自室に向かう。
扉を開けて自室に入るとミーアが待っていた。
「お帰りなさい、主様」
「あぁ」
そう言ってミーアは部屋の中で俺に付いてくる。
作業机に座ると後ろから女性の声がした。
「どうやら大きく出たようだな?」
「ほんと神出鬼没だな、レーネ教授」
レーネ教授が奥から出てくる。
一体どうやって入っているのやら。
「師匠と呼べと言ってるだろうに」
やれやれと言った風な態度を取りつつすぐに態度が変わる。
そして真剣な口調で俺に問う。
「お前はそこまでして何を求めるというのだ?力を見せつけたいのか?私はお前にそんなことをさせるために魔法を教えたつもりはない」
「もちろん。そんな気持ちは一切ない。だが、やらなければならない。あの約束のためにも・・・・・・」
魔王とした約束。
世界を平和に導くというもの。
世界を平和にするなら争いの根源である学院の中身から変えていく。
そこを起点に人類、そして他種族とも分かち合う。
それができないならわからせてやるだけだ。
「その約束とやらがそんなに大切なのか?」
「あぁ」
「それにこの戦いは必要なのか?」
「あぁ、やらなければならない。でないと解決できない」
「そうか、そこまでの思いがあってなお、やるのならば止めはしない」
「・・・・・・」
レーネ教授は心配してくれているのだろう。
だがいつまでも心配をかけるつもりはない。
いつか守る立場になるために・・・・・・
「お前はその力をどう使っていく?ただ戦うためだけか?」
レーネ教授の言葉に重みを感じた。
それは魔王の話にも似たような感じがあったからだ。
命の重み、それは一人で背負いきれるような物ではない。
それを彼は一人で背負っていた。
「俺は誰かを傷つけたいわけじゃない。約束のため、誰かのためになることをするつもりだ」
「具体的には?」
突然の質問にすぐに答えは出なかった。
するとレーネ教授が提案するように言ってきた。
「もし具体的な考えを持っていない、まだ無いのなら・・・・・・」
それを聞いてレーネ教授を見る。
すると彼女は真剣な顔をして言った。
「ここの教師になってみたらどうだ?」