第3話「地獄の学院生活の始まり」
魔法学院グレスティンに入学してから数日後――
案の定というべきか、予想してたというか僕はランク最高のAクラスに割り振られたそしてやはり学院の中は貴族ばかりだ。
貴族の中には知らない人は居ないとも言える出来損ないの人物。
その出来損ないがAクラスにいるという事実。
そう、僕はどこでも白い目で見られ続けている。
学院の教師達でさえも冷たく対応し、なにかと仕事を押しつけてくる。
入学するべきではなかったといつもそう思っていた。
学院の生徒は貴族だけではない。
たまに話しかけたり、仕事を手伝おうとしてくれる人は居るが周りの貴族が僕に近づこうとする人を遠ざける。
それでも来る人も居たが自分からも断ってしまっている。
そのせいか今では常に一人だ。
陰では色んな悪口を言われたりしている。
そんな日々を送る中で僕が唯一安心できる場所があった。
それは学院内にある工房だ。
工房の仕様は自由となっていて、今では自室のようになっている。
部屋中に入学してから作ってきた魔法具が散らかっている。
それら一つ一つを手に取っては試験し、過剰評価する人が居る。
そしてその人は僕がこの学院に入学してからしつこく絡んでくる。
休み時間もその人の授業中でさえも僕を楽しそうにいじって遊んでくる。
その人物は・・・・・・ガラガラガラ
「やぁ、今日も魔法具作成は進んでいるか?」
そう、僕の入学試験を担当した学院の教授、レーネ教授だ。
この人は所構わず絡んでくる。
しかし、学院に入学してからこの人がなぜ他の教師達とは違って自由人なのか少しわかった気がした。
学院内ではこの人は『紅蓮の魔女』と呼ばれている。
どうやら炎系の魔法をいとも簡単に扱い、あらゆる人や魔物を倒してきたらしい。
迷信などと言う貴族もいるが、この人自身何を言われても気にしていない。
言うだけ無駄とはこの人のことを言うのかもしれない。
「いつもの威勢はどうした?少年」
「その呼び方、どうにかならないんですか」
「少年には変わりないだろう。背が少しばかり小さいんだしな?」
「それについては言わないでください・・・・・・」
僕は出来損ないと呼ばれ始めてから縮こまって生活してきた。
そのせいか身長もいつの間にか伸びなくなってしまっていた。
「ふむ・・・・・・コンプレックスだったか」
「そんなんじゃないです」
「まぁそう落ち込むな。男というのは育ち盛りという物があるからな」
そう言ってレーネ教授は僕の肩を軽く叩く。
その行動に僕はとてもイラついた。
「それにしてもお前の作る魔法具には驚かされる。ここにある一つ一つがプロおも超えるような作品なのだからな」
「いつも言いますよねそれ」
「本当のことだ。実際魔法具の授業の成績はトップなのだろう?」
「魔法の方はからっきしですけどね」
「ふむ・・・・・・」
レーネ教授は何やら一人で考え込み始めた。
僕はそれを無視して魔法具作成に集中する。
――この魔法回路をこう繋げば・・・・・・完成――
魔法具完成させると同時に横から視線を感じ、そちらを向く。
するとレーネ教授がじーっとこちらを見つめていた。
「どうやら完成したようだな!私が試そう!」
「僕が魔法を使えないことを利用して楽しんでません?」
「気のせいだ。私は断じて楽しんでいたわけではないぞ」
「へぇ~」
ジトッと下目でレーネ教授を見る。
相変わらず何を考えているかわからない。
「それはそうと、君は魔法を使えるようになりたいのか?」
「どうなんですかね。自分でも考えたことがないです。今まで魔法に挑戦したことはありましたが、一度も成功することはありませんでした。そしていつしか魔法に挑戦することすらやめてしまった。今では魔法具を作ることが唯一の楽しみですよ」
僕はそう言って苦笑いを浮かべる。
それを見たレーネ教授が口を開く。
「別に魔法は今後一切使う気も使いたいと思うことも無いというのであれば私は何も言わないさ。ただ、魔法を使いたいという気持ちがあるのであれば私が協力しよう」
「え、えーっと・・・・・・」
突然の提案に思考が止まってしまう。
「すぐに答えは求めんさ。じっくり考えるがいい。答えが出たら私の所に来い」
「・・・・・・わかりました」
レーネ教授はそう言い残して部屋から去って行った。
ほんとあの人は何を考えているのかわからない。
それと同時にあの人から優しさを感じた。
あれは学院の教師故なのだろうか。
そんなことを考えていると再び工房の扉が開かれた。
またレーネ教授が戻ってきたのかと思ってそちらを見ると、そこには長く綺麗な金髪をした凛とした女性が立っていた。
僕はその人を見て誰だか一目でわかった。
クリスティーナ=エリオット。
エリオット家次期当主であり、入学試験日で邪魔者扱いしてきた人だ。
「あら、こんなところで出来損ないが何をしているのかしら?」
「・・・・・・」
「出来損ないの分際で私を無視するなんて良い度胸ね。私は忠告したはずよ。あなたはここに居るべきでは無い、と」
「別に、好きで居るわけでも無いです・・・・・・」
「そ、じゃあ早急に退学しなさい」
「無理です・・・・・・」
「何ですって?居たくないのなら退学するのが一番でしょう。それともなにかやめたくない理由でもあるのかしら?もしかしてあの女教授かしらね」
彼女は冷たい目で僕を見下ろす。
目を見なくとも声色だけで大体はわかる。
これが上に立つ物の権利と言わんばかりだ。
彼女とはクラスが同じため僕がレーネ教授にからかわれていることを知っている。
それにタイミングを見て工房に足を踏み入れたのだろう。
強者は自分より弱い人を見下す。
僕はその考えが嫌いだ。
何か言い返せばすぐに実力行使、そんな人間自体が嫌いだ。
そんな風に思うと体の中で何かが揺れた気がした。
まただ、昔にも何度か嫌悪を抱いたときに体の中で何かが揺れた気がしたのだ。
それが起きるから自分の気持ちは抑えるようにしている。
「まぁいいわ。なんとしてでも追い出してやるから。それにあの教授も私が叩き潰す。あの称号は私のものよ」
そう言い残して立ち去ろうとするクリスティーナ。
そしてふと足下に転がる魔法具を見つける。
「こんな物ばかりを作ってなんの価値にもならないわ」
そう言っては魔法具を踏み潰して壊す。
「では、さっきの事をあの人に伝えておいてくださいね」
そう言って今度こそ去る寸前にもう一人の女性の声が部屋に響く。
「なんだ?もう帰るのか?私の用があるのならば直接言えば良いだろう」
声のした方を見ると窓際にはレーネ教授がいた。
クリスティーナは驚きを表に出さないように歯を食いしばり、口を開く。
「あら教授、いらしてましたの。気がつきませんでしたわ」
「ふむ、ずっと私が居なくなるのを見計らっていた割には目が節穴なんだな」
「くっ・・・・・・」
「わざわざ少年に八つ当たりしに来るとはな?それに彼の作品を壊すなどと立場を知れ」
徐々にレーネ教授の怒りがあらわになっていく。
「彼の作品はプロも作れぬ代物だ。それをどう弁償する?全財産をはたいたとしても賄えぬぞ」
「ふんっ、こんなガラクタにそんな価値があるわけありません。よくそんな嘘が言えますね紅蓮の魔女」
「ほう?学院でそのように呼ばれたのは久しぶりだな?」
「噂は聞いていますわ。炎を操るのがお得意とのことで?」
「まぁ、少しばかりな?」
「だからといって私より上のはずがありませんわ!」
「ほう?では試すか?元々お前の目的は私なのだろう?」
「えぇ、ですが今は学院内それに下校時間も近いことですし失礼しますわ」
「まぁ好きにするが良い。私はいつでも相手をしよう」
「その言葉、覚えておきます」
そう言ってクリスティーナは廊下に出る。
すると遠くの方から走って近づいてくる音と同時に声が響く。
「やっとみつけたー!」
大声でそう叫びながら近づいてきたのは自称クリスティーナのライバルでトップに立つ三家の一つの次期当主で同じクラスのアリス=エンジェルだ。
彼女はクリスティーナに近づくと前のめりになりながら怒鳴る。
「いつまで経っても現れないから探したじゃない!」
「何の話かしら」
「とぼけないで!今日の放課後は訓練所で勝負すると約束したでしょ!」
「してないわ。あなたが勝手に決めつけただけよ」
「むぅ、それよりこんなところで油売って何していたのよ」
そう言ってクリスティーナが出てきた工房内を見る。
そして僕と目が合う。
「出来損ないと一体何をしていたのよ」
「あなたには関係ないわ。私個人の話よ」
「出来損ない、何をしていたの」
急に話をふってくるアリスに僕は返答が遅れる。
すると後ろにいるレーネ教授が口を開いた。
「ただそこの女が喧嘩を売ってきただけだ」
それを聞いてアリスは驚く。
「出来損ないに喧嘩を売ったの!?正気!?勝負にもならないじゃない!」
「勘違いしないで、私が戦うのはあの女です」
「あの女って・・・・・・紅蓮の魔女!?」
「いちいちうるさいですよアリス」
そう言われるもアリスは無視して工房に足を踏み入れる。
「クリスを倒すのはこの私なんだからあんたなんかに先を越されてはたまんないわ!あんたのことは私がクリスを倒してから倒してやるんだから!」
アリスは人差し指でレーネ教授を指して言う。
「ほう?お前はその女よりも強いと?」
「当たり前じゃない!見くびらないでよね!」
「ありえませんね。私がアリスに負けたことなど一度もありません」
「あなたが勝負から逃げるからでしょ!」
「逃げてなどいません」
などと急に二人の言い合いが始まる。
それを横目に「なんかややこしくなりましたね」とレーネ教授に目で語りかけるがレーネ教授は微笑んで僕を見てきた。
この人はこの状況を楽しんでいる。
はぁ、と僕は心の中でため息をつくのだった。
◇◇◇
それから数ヶ月後、学年最後の定期試験。
この学院で定期的に行われる試験は魔法と魔法具について学んだことの総復習の形で行われる。
やり方は毎回違うようで何で評価されるかは直前まで公開されない。
今年の試験は今まで筆記だったから最後も筆記だろうと思い準備を進めた。
そして試験日一学年全員が突然訓練場に集められる。
そして教師の一人が台に乗り話し始める。
「これより一年の最後の試験を始める。今回の試験は実戦だ」
それを聞いた生徒達はざわつき始める。
それを気にせず話を進める女教師。
「実戦とはいえ本物の敵と戦うのはお前らには無理だ。ということで試験官が決めたペアで模擬戦闘を行ってもらう。しかし、魔法も武装も制限はない。全力で戦うが良い。それぞれ指定された時間に遅れないよう闘技場に来ること。それ以外は何しようと構わん。以上だ」
そう言って女教師は台から降りては訓練場から出て行く。
生徒はざわついたままだ。
何でもありという事で喜ぶ物、緊張している物、それぞれが別だ。
それに比べて僕は魂が抜けたようになっている。
「あら、あなたの運もこれで尽きたわね」
そう言ってきたのは金髪の少女、学年トップの成績を誇るクリスティーナだ。
クリスティーナが近づいてきた少し後にもう一人の少女が来た。
「とうとうあんたとの決着の時よ!」
そう言って少女はクリスティーナを指さす。
もちろんこんなことをするのはアリス=エンジェルだ。
この二人は学年トップを争うメンバーでもある。
さすが最高クラスにいるだけあるという物だ。
そして教師の使い魔と思われるフクロウが訓練場に飛んできては試合を行う組み合わせと時間を発表していった。
いつまで待っても僕の名前が呼ばれることはなかった。
「そして最後にルイス=ラストラスとクリスティーナ=エリオット」
その発表にその場の空気が静まり返り、僕に視線が集まる。
僕自身この結果に驚いている。
そして近くにいたクリスティーナが口を開く。
「私の手であなたを潰す宿命なのかしらね。ま、せいぜい頑張ることね」
そう言い残して彼女は去っていく。
同じAクラスだからと言って僕と彼女の能力差は天と地の差がある。
この現実に僕は絶望した。
周りの生徒は楽しむような表情でこちらを見ている。
するとその中の一人の少女が無表情のまま僕の元へ近づいてきた。
「あなたも災難ね。でもこれも何かの運命なんだと思うわ。私と同じように」
彼女は無表情のまま淡々と述べる。
彼女はすごく大人の雰囲気を纏っていて長髪の黒髪が清楚系を思わせている彼女の名はエミリア=シャーリー。
貴族ではないが首席で入学したのが彼女だ。
学院側も何かしらで見極め彼女が優秀と認めたのだろう。
僕はてっきりクリスティーナさんが首席だと思っていたけど、意外だった。
それよりも私と同じってどういうことなのかを考えるうちに最初の試験開始の合図が鳴り響き、生徒はバラバラに移動を始める。
魔法の復習に向かうもの、魔法具のメンテナンスを行うもの、各試合を見物するものなど様々だ。
僕は試合までの間何も対策を練ることができずにとうとう試験開始となってしまった。
闘技場待機室では僕の一つ前の試合が行われている最中だ。
その試験はアリスさんと男子生徒によるもので、男子生徒はアリスさんを警戒しながら魔剣を構えている。
教師達は試験の最後のAクラスのメンバー同士を戦わせているようだ。
そしてその最後の二つに優良候補の二人を割り当てている。
映像越しに試験を見ていると、アリスさんは動く気配なく余裕の表情だ。
相手の男子生徒は手を出せないまま警戒を続けていた。
そんな中アリスさんが動いた。
「あんたとの試合になんて興味はないわさっさと終わらせてあげるわ。早く来なさい」
アリスさんらしい煽りだ。
男子生徒は怒りを堪え切れず今にも斬りかかりそうになっている。
もう既にアリスさんの手のひらの上で踊らされている。
次の瞬間男子生徒から動いた。
「いつまでも余裕でいられるとおもうなぁ!」
勢いよく走り出すと強化魔法でも使用していたのか、普通の人より何倍もの速さで走りアリスさんの後ろに回り込んでは持っていた魔剣を振り下ろした。
その魔剣がアリスさんを二つに斬った、誰もがそう思った。
ゴロンと二つに斬られたアリスさんが地面に転がる。
しかし男子生徒の顔は真っ青に染まっている。
その男子生徒が斬ったアリスさんは氷で作られた人形つまり本体は別にいるのだ。
次の習慣斬られたアリスさんの氷の像は粉々になり宙に舞い上がっては男子生徒を囲む。
そして竜巻のように舞っては闘技場全体に極寒の風を吹かせた。
闘技場の観客席にいた人たちが再び男子生徒を見たときにはすでに氷像となってしまっていた。
「これだから雑魚は相手にならないのよ」
さすがというべきか、一瞬で終わってしまった。
相手が初めから斬りかかっていれば本当の瞬殺だったのだろう。
そんな試合を見ていた僕までもが青ざめそうになってしまう。
なぜなら僕の相手はあのクリスティーナ=エリオットさんなのだから。
最低限の魔法具は用意した物の決定的な決め手がない以上勝ち目はない。
思考を最大限に活用しながら試験会場へと向かうのだった。
闘技場のリングに出ると周りの座席は埋まっていて正面にはもう既にクリスティーナさんが立っていた。
「あら、逃げなかったのね。なにか策でもあるのかしら?」
相変わらずの余裕な態度だ。
彼女の対策はない。
僕ができることなど何もないのだ。
魔法においては勝つ術はない。
クリスティーナに勝てるとしたら・・・・・・
そんなことを考えているうちに開始の合図が出された。
速攻で決めるかのようにクリスティーナが魔方陣を描く。
その魔方陣からは真っ赤な炎が現れる。
これは烈火とは比較にならない上位魔法だ。
「獄炎弾丸」
クリスティーナがそう唱えると炎が勢いよく射出され僕を目掛けて飛んでくる。
本来なら防御魔法を張り巡らせるなどをして防ぐが僕には出来ない。
だからこそ全力で回避し炎を躱す。
彼女との戦いは一瞬が命取りだ。
今の一撃も早く避けたはずなのにギリギリだった。
再び彼女を見たときにはまるで炎を纏っているかのように闘技場中に熱風が吹いていた。
彼女は初弾で決まる予定が僕が躱してしまったために苛立っているのだろう。
なぜ僕が魔法を躱せるくらいの身体能力を身に着けているのかというと、試験の前日までに体を鍛えた、というよりは鍛えさせられたという方が正しいのだろう。
その鍛えた人は今観客席の一番上で微笑みながら観戦しているレーネ教授だ。
レーネ教授が魔法を連発しひたすら避けまわるという只々過酷な日々を送らされたせいで今となっては魔法で身体強化した人には敵わないものの何も強化していない人よりは俊敏に動けるようになっていた。
そのおかげでクリスティーナさんが放った魔法をギリギリ避けることが出来たのだ。
「なんで出来損ないのあんたが避けているのよ。さっさとくたばりなさい」
怒りをあらわにしているクリスティーナを見て観客席がざわつく。
クリスティーナは再び魔方陣を描く。
今度は数を増している。
確実に仕留める気だ。
「獄炎弾丸」
いくつもの炎の弾丸が射出され僕に迫る。
その時に僕は一つの魔法具を取り出して防御壁を張る。
それによって獄炎弾丸は防がれ消える。
これもレーネ教授が考えたこと。
魔法が使えない僕にレーネ教授が魔力のみを貸してくれているのだ。
おかげで魔力を溜めるための魔法具を作らされたけど……
まぁそれによって助けられているのだから何も文句は言えない。
「あなた私をおちょくっているの?逃げたり防御したり、魔法が使えないあんたが抵抗する意味が何処にあるのよ!」
クリスティーナは激怒した。
魔法も使えない僕が抵抗するのが腹立たしいのか、殺意を帯びた目をしている。
「あなたは生きる価値のない出来損ない・・・・・・そんなやつに私が負けるわけない・・・・・・」
次の瞬間僕を囲むように炎の竜巻が複数出現した。
「こ、これは・・・・・・」
「これは私が独学で開発した魔法よ。あの女を超えて私があの称号を奪って頂点に立つために作り上げたの。まさか初戦で、しかもあんたに使うこととなるなんてね」
狂気を帯びた笑みを浮かべてクリスティーナは言う。
その間に炎の竜巻は僕に近づいてきていてもう逃げる隙間もない。
「そのまま燃えて灰になるといいわ」
不適な笑みを浮かべたクリスティーナが手を前に掲げる。
「業火狂乱」
クリスティーナがそう唱えると複数の竜巻は一つとなりより激しい炎の竜巻となった。
大きな竜巻となった途端体が燃えるように熱くなっているのを僕は感じる中、ここで死ぬのかと諦めかけていた。
すると誰かの声が響いた。
――お前はここで滅びるのが望みか?――
男の声だった。
その問いに声を出すこともできず心の中で思った。
――僕は魔法も使えない出来損ない・・・・・・何処に行っても厄介者扱いされるんだ・・・・・・生きる価値なんて――
そう思って限界を迎えそうになった僕はその場に膝をつく。
――お前は人に人生を決められて良いというのか。お前の意思はないのか。もし生きたいと言う意思があるのならば、その願い我が叶えよう――
――自分の意思・・・・・・僕は・・・・・・生きたい・・・・・・生きて好きな魔法具作りをしたい・・・・・・!――
強く、強く生きたいと願った。
すると謎の男の声は答えた。
――クハハハ、面白い。強さを求めず魔法具を作るために生きたいとは。なかなか面白いやつに我は出会えたという物だな。いいだろうしかとその願い聞き入れた!さぁ、生きる意思を声に出すと良い。さすればお主のこの死を我が回避させてやろう――
そう言われた僕は必死で声を出そうとする。
しかし、炎のせいで酸素がないためすぐに声を発することができない。
熱で喉も焼けてしまいそうだ。
それでもなお声を出そうと僕は必死に口を開く。
――フッ・・・・・・その諦めぬ心、気に入った。ここは我がお主に変わってやろう。
しばし体を借りる――
謎の声がそう言うと僕の体の中で何かが揺れるのを感じた。
嫌悪感を抱いたときに起きていた物だ。
だけど今は嫌悪感を抱いていない、それなのになんで・・・・・・
――今は体を我に委ねるといい。名乗ろう、我の名は・・・・・・――
その瞬間僕の体の中で何かが爆発した。
それと同時に僕を包んでいた巨大な炎の竜巻が消えてなくなった。
それでもなお僕の体は熱かった。
正面を見据えるとクリスティーナさんが驚いた顔をしてこちらを見ている。
そしてその表情が恐怖へと変わっていったのだ。
観客席も静まりかえり、闘技場が静寂に包まれた。
僕の体の感覚がない。
立っているはずなのに足の感覚すらないのだ。
自分の意思が効かない体がクリスティーナさんに向けて手をかざす。
その瞬間に僕の体は吹き飛ばされ、リングの壁に衝突した。
僕はそのまま気を失った。
気を失う直前には炎を纏った赤毛の女性が微かに見え、僕の記憶はそこで終わっていた。
更新遅れてすいません。
今後も遅れることはありつつも、間隔が空きすぎないように気をつけたいと思います。