第2話「ルイス=ラストラス」
三年前の冬――
一通の手紙が僕の所に届いた。
見た目は普通の白い封筒で、裏面を見た瞬間大声を出しそうになった。
なぜならこの封筒はかの有名な魔法学院からの招待状なのだから。
僕は魔法の才能がない。
だから見放されている。
なのに、なんで僕なんかに招待状が?
全く心当たりがない中封筒を開ける。
――我が校魔法学院グレスティンはルイス=ラストラスの入学を心待ちにしております――
中に入っていた書面にはそう書いてあった。
確かに名前は自分の物だが、どうしても信じることができない。
実際にランク分けを行うための訪問日も記載されていたためその日になればはっきりするだろうと思った。
そしてその日を静かに待った。
数日後、ついにやってきた能力把握試験日。
僕は今学院の門のところで立ち止まっている。
そんな中周りはどんどん中に入って行っている。
おそらく今日の試験を受けに来たのだろう。
僕は馬鹿にされるとわかっているが故に一歩を踏み出すことができない。
出来損ないのラストラス家と言われ続けてきた。
強力な魔法使いとして有名な三家に遅れを取らないと有名なのが僕の家ラストラス家。
魔法使いとして優秀な三家は話題になるわけでもなく、それに加わる可能性を秘めているというので注目されている。
それによってその子供である僕にも必然的に目が向いてしまう。
僕に何の可能性もないとわかった瞬間に世間の目は冷たい物へと変わり、家からも不必要として扱われている。
そんな僕がこの学院に入っても良いのかと、頭の中で考え込んでしまう。
送られてきた封筒の中には二枚紙が入っていて、二枚目には試験場所と試験内容が書かれていた。
それによると一人一人に一部屋ずつ割り振られて試験は教師達の使い魔によって行われるらしい。
だから他の人に見られることはないらしい。
まぁ僕のことなんか知らない人もいるだろうし、知り合いにさえ会わなければ・・・・・・
そんなことを考えていたとき
「ちょっとそこにいられては邪魔よ」
後ろから声がして振り向いた先にはまるでどこかのお姫様のような金髪の少女が立っていた。
「あら、どこの馬の骨かと思ったらあの出来損ないじゃない。こんなところで何をしているのかしら?ここはあなたのようなものが来るところではないわよ?」
そう彼女は僕の面識のある人類トップの三家の一家、エリオット家の長女クリスティーナ=エリオット。
彼女は次のエリオット家当主になる予定の人だ。
詳しくまでは知らないがどうやらトップ三家も家によっては苦労することがあるようだ。
「あ、いえ、その・・・・・・」
「あなたとの会話など時間の無駄ですわね。早くそこをどきなさい。」
問いかけに答える暇も与えられずに僕は端に寄った。
「あなたはここに来るだけ無駄です。早急に立ち去ることを勧めますよ」
彼女は通りすぎるときにそれだけ言い残して行ってしまった。
僕も学園に入りたいから来たのではない。
間違いだと言うため、入学を断るためにここへ来たのだ。
そう心の中で言っては門の中に足を踏み入れる。
自分に割り振られた部屋に行くとそこには一人の女性がいた。
書類には使い魔が試験を担当すると書いてあったのになぜ人が居るのだろう。
部屋を間違えてしまったのだろうかと確認するも部屋はここ。
「あ、あの・・・・・・」
「あぁ、来たようだな。では早速試験を始めるとしよう」
「あ、あの!試験って使い魔がやるんじゃ」
「私も使い魔と言ったら?」
「え・・・・・・?」
「冗談だ。私は人員が足りない分を補っているんだ」
「そ、そうなんですか」
話を聞いたところ一日に行う試験人数が多いため使い魔だけではなく、教師達も試験を見ているらしい。
「では、君の魔法を見せてもらおうかルイス=ラストラス」
「あ、あの、そのことなんですが、僕は何かの手違いで招待状が来てしまったようで魔法なんて・・・・・・」
「・・・・・・」
女性は黙って僕の事を見つめる。
少ししてから口を開いた。
「何を言っている。この学院が間違えるわけがない。ラストラス家のご子息を招待するのは当たり前だろう」
「で、でも・・・・・・僕は落ちこぼれで、魔法は全くダメですし・・・・・・」
「だから間違いはないと言っただろう。お前にも何かできることがあるだろう」
「魔法具くらいしか作れませんけど・・・・・・」
「そうか、では私がこれからお題を出そう。必要な物は私が生成するから言ってくれ」
「は、はい。わかりました」
「では、魔力を高めるための魔法具を作ってもらおう」
「わ、わかりました」
そう言って僕は用意された道具を使って魔法具作成に取りかかった。
魔力を高める魔法具は比較的簡単に作れる物で誰でも購入して手に入れることのできる物だ。
しかし、完成度によっては高級な物となり、上級貴族などがそれらを使うと言われている。
僕はなぜそんな作りやすい物がお題として出されたのか疑問に思いながら作業を進めた。
作成中は特に何も聞かれることがなく、一時間ほどで完成させることができた。
「で、できました」
「ほう?早いな。では早速運用試験と行こうか」
「え?でも・・・・・・」
「なんだ?未完成品とでも言うのか?」
「いえ、そういうわけではありませんけど」
「そうか。では私が試そう」
女性はそう言うと魔法具を手に装着した。
魔法具は同じ効果を持つ物でも様々な形がある。
装備するものや魔力に干渉するものであれば薬もある。
僕が作ったのは装備品で魔法を使うときに一番利用する手に装着するタイプの物だ。
やはり魔法を一番使う箇所ということでたくさん売られているのが多いタイプでもある。
その女性は魔法具を装備して部屋の窓を開けては外に向かって手をかざす。
「烈火」
女性がそう唱えると手のひらに魔法陣が浮かび炎が出現した。
そしてその炎が勢いよく射出されると十メートルぐらいで大爆発が起きた。
あまりの大爆発で部屋が振動し、爆風で色んなものが飛んでしまう。
あまりにも衝撃を受けた僕は固まってしまった。
すると教室の扉が急に開かれ数人の大人が入ってきた。
「今のは誰がやった!あんな上級魔法を放つなど何を考えている!」
どうやら偉い人たちを怒らせてしまったらしい。
女性は爆発が起きた空を眺めたままで、部屋に入ってきた人たちに気づいていない。
「答えろ!一体誰が・・・・・・お前か?出来損ないのラストラス」
一人の男の人が僕の存在に気づき問いかけて近づいてくる。
「出来損ないのお前がなぜあんな魔法を使える!何をした!」
「ぼ、僕は何もしていません・・・・・・」
魔法具を作りはしたが実際魔法は使ってないので嘘は言っていない。
僕はそう心の中で思いながら緊張で体が強ばる。
「彼は何もしていないさ」
そう言って気まずい空気を破ったのはさっきまで爆発に釘付けだった女性だ。
「レ、レーネ教授、それはどういう?」
「だから言っただろう。彼は何もしていない。魔法を使ったのは私だ」
「で、ですが、なぜあんな上級魔法を・・・・・・もしやこいつがあなたに失礼なことを・・・・・・」
「なぜそこまで彼に執着する?それに私が使ったのは烈火だ。彼に試験内容としてこの魔法具を作らせ、それの試験運用をしたまでだ」
「し、初級魔法があんな威力に!?しかもこんなやつが作った魔法具で!?ありえない!」
「事実だ。全員あれを見たであろう」
「・・・・・・」
そう言われて男が黙る。
それにこの男の態度からして僕の試験官の女性はかなり偉い教授なのだろう。
「あなたがそう言うのであればそうなのでしょう。ですがこれからは気をつけるようにしてください」
「あぁ、わかったよ」
「では、失礼します」
そう言って男の人たちは部屋を出て行く。
教授と話していた男は不満そうに僕の事をずっと睨んでいた。
――やっぱりここは居心地が悪いな。早く断らないと――
そう思って女教授の方を向くと目の前に目を輝かせた女教授の顔があった。
「なぁ、君!これをどうやって作った!?材料からして素材は関係ないのであろう!?やはり構造か!?」
「あ、あの・・・・・・えっと・・・・・・」
ものすごい勢いで問いかけられて言いたいことが言えなくなってしまった。
「魔法具はただ普通に作っただけです・・・・・・」
「それなのにこんな高性能な物を!?君は天才か!」
ものすごく上機嫌になって肩を叩いてくる。
この人は苦手なタイプだなと心の中で思う。
「あ、あの・・・・・・入学の件なんですけど・・・・・・」
「ん?あぁ、そのことか。それなら合格だ。君をこの学院に歓迎しよう」
「え・・・・・・?」
「聞こえなかったか?合格と言ったんだ」
「な、なんでですか?魔法も使ってないのに・・・・・・」
「別に魔法の能力だけを必要とするわけではない。それに君の作った魔法具は完璧すぎる。どんな技術者よりも優れているだろう」
「そ、そんなことは・・・・・・」
「あるな。魔力効率がとても良く、魔法の威力向上まで再現されている。ここまで完璧と言える代物を見たのは初めてで感激したぞ」
「あ、ありがとうございます」
「さて、結果を告げたことだ。少々検査させてもらうぞ」
「検査、ですか?」
「あぁ、すぐに終わるさ。魔力量や魔力適性を見るだけだ」
そう言って教授は顔を近づけてきては目を見つめてくる。
恥ずかしくなった僕は目を逸らそうとしたが、『動くな』と怒られてしまったためおとなしくする。
少しすると・・・・・・
「お前・・・・・」
教授が何かに気がついたように呟く。
何か異常でもあったのかと気になってしまい試しに確認してみることにした。
「あ、あの・・・・・・魔法適性が全くないとか、魔力すらないとかですか?」
「いや、そういうわけではない。君は正常だ」
そう言って教授は振り返って歩いて行く。
「そう言えばまだ自己紹介をしていなかったな。私はこの学院の教授のレーネ=カミヤだ。これからよろしくなラストラスのご子息殿」
こちらに振り向いては手を差し伸べながらレーネ教授は自己紹介をした。
最後のは絶対からかっていると、僕はそう確信した。
礼儀としてこちらも名乗ろうと握手をして言う。
「ルイス=ラストラスです。よろしくと言われましても・・・・・・」
「入学する気はないと?」
「・・・・・・」
心を読むかのように言われ、何も言えなくなってしまう。
この人の事は苦手だ。
何もかも見透かされているようで、この人自身の考えていることすらわからない。
「君は入学するべきだ。さもなくばさっきの男共にお前が思っていたことを教えてやろうか?」
急な脅しに冷や汗が止まらなかった。
「それともあれか?この私が居るからなどと言わんだろうな?」
――やばい、何もかも見透かされている――
自分の身の危険を感じた。
こんなにも人のことを怖いと思った事がない。
何やらレーネ教授が赤黒いオーラを纏っているように見える。
「え、えーっと・・・・・・」
「入学するな?」
「・・・・・・はい」
そう答えるしかなかった。
これがきっかけでこの人にひどい目に合わされるなどと予想もしなかったのだ。