午後の慌ただしさ
お昼が始まり、風我と弁当を食べようとする。しかし、弁当を忘れてしまった悠は、華恋が持って来てくれることを期待するが…
四限目の授業が終わり、クラスの大半が一斉に教室を出ていく。
出ていったクラスメートは全員学食に行ったため、昼休みのこの時間にはほとんどが帰ってこない。
つまりは、この教室には風我と俺と一桁程度のクラスメートだけしかいない。
これから来るであろう如月さんのことを考えれば、人が少ないのは救いだ。
如月さんのことはよく知らないが、俺はスクールカーストでいう市民に値する。つまりは普通だ。
だからこそ、如月さんがこの教室にでも来ようものなら、明日はきっと、少なくともこの教室内では噂話が広がるはずだ。
「そんなにしきりに廊下を見てどうした?」
俺の机に弁当を置き、前の席へ座る風我。
「弁当を忘れちゃってさ。華恋が先に持ってこないかなって」
「おいおい、遅刻の次は弁当の忘れかよ。一日に何回華恋ちゃんを困らせるつもりだ?」
「そんな気はないんだがな…。とにかく、そろそろこれまでの原因が来るはずなんだ」
――ガラガラガラ
丁度のタイミングで扉を開け入ってきたのは、予想していた通りの如月さんだった。
「お弁当食べよ」
俺の前に弁当を置く。
「は?てめぇ、これはどういうことだ?このために忘れてきたのか?」
珍しく風我が激怒している。
皮肉や怒りこそあれど、意味もなく殴られもしなければ激怒することなどなかった。そんな風我がここまで怒りを顕にしているとなると、こいつは何よりも女関係を重視しているらしい。
こいつとの付き合いも一年と少しになるが、こんな風我は初めて見た。
こんな状況で思うことでもないが、風我の、よく染めていると勘違いされる地毛の明るい茶髪と、強面の顔による憤怒の表情は、さながら不良少年のようだ。
とはいっても、彼は女性に対してはそんな人間ではないが。
「お前は何もわかっちゃいない。如月さんとの関係はあくまでも責任の取り方なんだ」
「そんなことよりも。はい、お弁当」
如月さんは、風我の怒りをよそに、俺達の机に近くの机を付け、席に着いた。
「なあなあ、如月さん。そんな妹も大切にできない男なんかより俺にしなよ」
「きみとは約束してない。私が約束したのは里見くんです」
風我の誘いをすました顔で一蹴し、そこには俺しかいないかのように振舞い始める。
「はぁ!?悠お前、この子に俺のこと何か吹き込んだろ!」
「昨日色々あってこれなんだよ…。風我のことなんて話す暇はなかったよ…」
「色々って、マジなんなんだよ!…あー、クソッ。まあ、そうだよな。他人の芝生が青かったとか言うもんな。お前を信じてやるよ」
「なんか少し違うような―グムッ!」
「ほら。食べないとお昼終わっちゃう」
「ああ、もう。分かったって。だから、俺の口に無理やり押し込まないでくれ」
「…目の前でいちゃつかれると、やっぱりムカつくものだな」
そんな殺伐とした昼食が終わり、昼の疲れからか、二時間も快眠してしまった。
「おい、悠。これから用事はあるか?」
放課後になり、帰り支度をしていると、帰り支度の終わった風我から話しかけられる。
「いや、何も。」
「それならちょっと付き合えよ」
「いえ、悠くんはこれから私とデートするの」
「えっ、いつの間に!?それに、放課後になんて約束してなかったよね!?」
「お昼に言ったよ。”またね”って」
「ああ、確かに言ってたな。これは一杯食わされたな、悠」
「その単語、万能過ぎだろ…」
「でも、デートとは一言も言ってなかったよな?」
「…はい。確かに一言も言ってませんが、悠くんなら快諾してくれるはずです」
「だってよ。当の本人はそこんとこ、どう思ってんだよ」
要するに、如月さんの用事を断れるようにしてやったんだから早く断ってこっちに付き合えということだろう。
「ごめんな如月さん。俺、これから風我と約束が―」
「これでも?」
如月さんが俺に見せてきたのは、ボイスレコーダーと大きな字で遺書と書かれた封筒だった。
「おいおい悠。この子はお前の彼女じゃないんだろ?それでこんなのが出てくるとかお前、何をやらかしたんだよ」
「うん、ごめん風我。俺、行ってくるよ…」
画して俺は、複雑な表情の風我をよそに、如月さんと放課後デートに街へ繰り出すこととなった…。
前話投稿から一年がたってしまいましたが、数少ない読者の皆様はいかがお過ごしでしょうか。
もしかしたらまた一年、更新がされないかもしれませんが、どうか長い目でお待ちください。