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微睡へ衝撃を

里見悠は、彼女の自殺を止めてしまった。

彼の勇気で救われた如月御琴だったが、悠の言葉は裏目に出てしまう。

 屋上から御琴さんと降りて家路につくことになったのだが、すでに暗くなっていたため、女の子を一人で帰すのは男としてどうかということで彼女を家まで送ろうかと提案したのだが、俺の家が彼女の家と反対にあるということと、学校からあまり遠くないということで断られてしまった。

顔も赤かったので調子が悪いのかと思い手を貸そうとしてもその手を振り払われてしまって、自殺を止めてしまったこと以外に何か怒らせるようなことをしてしまったのではないかと心配になった。

ともあれ、家路につこうと彼女と反対方向へ足を向けた。


 家に着くころにはすでに太陽が落ちていた。月も雲に隠れてしまっていたため、街灯がなかったら足元も見えていなかっただろう。

家の扉に手をかけ、屋上での一件を思い出し、やれやれと一つため息をつき、ただいま、の一言と同時に家に入る。

靴を見ると、一足分しか置いてない。どうやら両親は今日も帰らないようだ。

「あ、おにぃおかえりー」

靴を脱いでいるところに、アイスを咥えた妹、風見華恋がリビングから出てきた。

「二人は今日も出張か?」

「聞いてなかったの?昨日、今日から一か月間は海外に出張だって言ってたじゃん」

「俺は昨日、家に帰ってないのだが」

「あっ、そっか。昨日は叔父さんの家につーちゃん口説きにいってたんだもんねー」

華恋はにやにやと口元を手で隠しながら煽ってくる。

「あのなぁ、いつも言ってるだろ。は俺たち以外には心を開いてくれないんだから、俺か華恋が行ってやらなくちゃいけないんだ。なのに華恋は行かないんだろ?同い年なんだから仲良くしてほしいんだけどな…」

彼女の擁護に、つい熱が入ってしまった。それほどに俺は里見卯都姫のことを気にかけているのだろう。それとも俺は、親しい人間にしか心を開けずにいる彼女に昔の自分を重ねて見ているのだろうか。

とにかく彼女に対して同情に似た何かを感じていることは否定できない。

「まあ、おにぃがつーちゃんと結婚しても私には関係のないことだけどねー」

俺をいじることに飽きたのか、華恋はアイスの棒を俺に渡すと、捨てておいてと言い残して自室へ戻っていった。

…あ、これ当たり棒だ。


華恋の作り置きしてくれた夕食を温めて食べた後、風呂に入って床に就く。帰宅した時間が遅かったのもあって、風呂から出たときにはすでに何もする気が失せていた。

携帯に何かメールが来ているのは分かっていたのだが、見て返事をするほどの気力などなく、着信音だけサイレントにして就寝した。


静かな朝だ。つまり、携帯のアラームよりも早く起きてしまった。とりあえずアラームを止めるために携帯を開けると、おびただしい数のメールが来ていた。


『これからよろしくお願いします』

『返信ください。寂しいです』

『ねえ、どうして?』

『寝てるの?』

『無視してるわけじゃないよね?』

――音声ファイルが送信されました――

『これ、貴方が私の言うこと聞いてくれるって言ってた証拠。言い逃れさせないから』

『返信まだですか?』


…おいおい、なんだこれは。流石にこの内容は趣味が悪すぎるぞ。

とにかく、直接会って聞いたほうが早い。途中のメールを閉じ、着替えることにした。

 着替えていると、チャイムが鳴る。どうやら来客のようだ。

それにしても、こんな時間からうちを訪ねてくるとは思わなかった。きっと、華恋が友達と一緒に登校する約束でもしていたのだろう。うちの学校は中高一貫で、華恋の同じ学校に通っている。そのこともあってか、俺の登校時間に合わせて一緒に登校していた。前に、兄妹で登校していて恥ずかしくないのかと聞いてみたところ、他人の印象に影響されたくないと言われた。そんな妹がようやく友達と一緒に登校しようとしてくれていることを考えると、なんだか子どもの成長を見ているようでほっとする。

「はーい、今行きますねー」

どうやら華恋が行ってくれているようだ。

華恋が応対してすぐ。なんだか下がうるさくなっていた。どうやら、華恋が叫んでいるらしい。そして、階段を上がる音がする。華恋は階段近くの自分の部屋を通り過ぎ、こっちへ向かってくる。

大変まずいことになった。今の俺はワイシャツとパンツのみという恥ずかしい格好だ。

このまま妹の侵入を許そうものなら、今日から一週間は夕食を作ってもらえなくなるだろう。

それだけは何としても阻止せねばならない。

「華恋、待つんだ―」

「お、おお、おに――へ、変態っ!!」

勢いよく開いたドアが勢いよく閉まる。


 一階のリビング。

朝食はいつも華恋と一緒に食べている。

華恋は朝食や弁当までも作ってくれ、毎日とても感謝している。

そう。今日も変わらず、華恋と朝食を食べるはずだったのだ…。

「はい、次を食べて」

隣に座った如月さんが、俺に朝食を食べさせている。

一度は断ったのだが、「一度でも命令を聞かなかったら、今度は遺書を用意してやる」などと脅されてしまったら仕方がない。

どうやら彼女は相当心を病んでらっしゃるようだ。

しかも、メールをよく見ると、迎えに行ってもいいかという旨のメールも入っていたため、途中で見るのをやめてしまった自分と、こんなものを送ってきた彼女を呪った。

「なあ、この食べ方だと遅刻するからやめないか?」

「そうだね。でも、私には全く関係ないから」

食べ終えた華恋が、俺のことなどいないもののように、頑として目を合わせず台所へと行ってしまった。

何か癪にさわるような――この状況が原因だった。

「はい、次」

兄の威厳のピンチなど露知らず、如月さんはペットの餌やりの要領で、華恋の作った朝食を俺の口に詰めてくる。

支度が終わったのであろう華恋がリビングへと戻ってくる。

「おしあわせに」

感情のない一言とともに、リビングを出て行ってしまう。

実妹に物凄く冷たい目をされた。二人だけで家にいることも多く、昔は俺が面倒見ていたこともあって、かなり心にくるものがある。

もしかしたらこれが、思春期の子供に拒絶された親の痛心なのかもしれない。

「なあ、華恋。ちが、これは――んぐ!?」

「ほら、早く食べないと遅れちゃうよ」

「……ふんっ」

荒々しく閉まる玄関の音が聞こえる。

あの機嫌の悪さはこれまでで最悪のものだ。

あの状態の華恋はもう何をしても機嫌を直してくれない。どうやって機嫌を直してもらおうか…。


「もっと早く走らないと、遅刻しちゃうよ」

「先にいってくれ…!俺、今、食った…とこ…だから…!ウッ!」

食後にもかかわらず通学路を全力疾走させられる。俺が何をしたと言うのだ。如月御琴という一人の人間を助けたというのに、その応酬が妹の冷たい目だなんて惨すぎる。

しかし、今はそんなことよりも目の前の遅刻だ。

ここまでせっかく皆勤だというのに、こんなことで俺のこれまでの努力を壊させてたまるか。

しかし、如月さんが横にぴったりとくっついているととても走りづらい。

「も、もう、おいてってくれ…!は腹が…痛え…。」

「おいていけるわけがないじゃない。」

あれ、こいつ、案外優しいんじゃないか…?

「だって、あなたが行かないんじゃ行く意味ないじゃん。昨日のこと、まさか忘れてないよね」

こいつ、俺の心配なんか一切してなかったわ。


 「セーフ!?」

チャイムの音よりも大きな声で、教壇で点呼をとる担任に一言。

「そう、ですね。セーフにしておきます。」

どうやら慈悲からのセーフだったようだ。

点呼を背で聞きながら早足に、最後尾窓際の机へと向かう。

席に着くと同時、前の席に座る桐野風我が後ろを向いて話しかけてきた。

「朝は真面目、放課後は自由なお前が遅刻とはな。遂にこっち側に来るのか?」

「そんなわけないだろ。そして、この前のカラオケの約束を蹴ったこと、根に持ってるのかよ。仕方がないだろ、親戚の具合が悪かったんだから」

その日は卯都姫珍しく電話があり、風我とのカラオケの約束を蹴ってしまっていた。風我には具合が悪かったと言ったが、結局は卯都姫が何でもなく呼んだだけだったわけだが。

「とにかく、だ。華恋ちゃんのおかげで遅刻しなかったお前がよくもまあ遅刻できたもんだ。あんまり華恋ちゃんを困らせてやるなよ」

風我は今朝の苦労を知らないから言える。あんな事があれば誰だって遅刻するだろう。

俺は神妙な顔で風雅の目をじっと見る。

「それはじきに分かるよ。…嫌でも分かるはずだ。」

「お、おう。それは、楽しみだな」

風我は苦笑いで正面に向き直った。

しかし、言葉の通りに風我にも理解できるようなことが起こるだろう。

非常識と言えようことながら、それをやってのけたような奴だ。

きっと来るだろう。

弁当を持った彼女が――


半年ぶりであるせいか、ルビの振り方を忘れてしまいました。

せっかく、このような拙い文章を読んでいただける方もいらっしゃるのに、本当に申し訳ありません。

なので、ここで補完させていただきます。

華恋かれん桐野風我きりのふうが


次話はもっと早く上げられると思いますので、お待ちいただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 続きを有難うございます。 「書く」ことが出来る人は本当にすごいなぁ~と思います。 無理されません様に~またお邪魔させて頂きます。
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