とべ!
昔々、ある所に、鳥の王国がありました。その王国では空を高く飛べれば飛べる程、優秀とされていました。
しかし、そんな国で飛べない一羽の鳥がいました。彼は幼い頃に羽を怪我して、いくら羽を動かしても飛べないのです。
けれども彼は、他のどの鳥よりも高く跳ぶことが出来ました。彼より高く跳べる鳥はいませんでした。
彼は飛べない分、他の誰よりも努力して、跳ぶ事で色々な事をカバーしていました。
そんな彼に愛する人が出来ました。彼女は鳥の王様の娘でした。
王女である彼女は、初めは鳥であるにもかかわらず飛べない彼を可哀想に思っていましたが、明るくひたむきに誰よりも高くとんでやると努力する彼に惹かれていき、彼が好きになりました。
両思いになった二羽は、共に行動するようになりました。そんな彼らの事は国中で有名になり、王女の父である鳥の王様の耳にも入りました。王様は、羽で飛べない様なオスが自分の娘と番になる事が嫌でした。
王様は、すぐに二羽に別れるように命令しました。しかし、彼らは別れたくないと言いました。しかも王女は、王様が許してくれないなら、縁を切るとまで言いだしました。
王女を愛していた王様は、それだけは嫌だったので、飛べない鳥に試練を課しました。
「あの崖の間を、橋を渡らずに行ければお前達の仲を認めよう」
王様が指を指した先にある二つの崖は、飛ぶことに長けている鳥でも、飛び移る事が難しいといわれている物でした。
飛べない鳥には、とても難しい難題でしたが、王女と結ばれたい一心で試練に挑む事にしました。
それから飛べない鳥は、崖の間を跳び移るために努力し続けました。
彼は自分がどれだけの距離を跳べるのか測り、そこから距離を伸ばせるように体力作りに励みました。そして、課された崖の間を何度も何度も跳び続けました。
何度も何度も、怪我をしました。そしてついに彼の顔に一生消えない傷が出来てしまいました。醜くなった自分を見て王女は嫌いになるのではないかと彼は不安になりました。しかし王女は「どんな貴方でも私は好きよ」と言ってくれたので、彼は泣いて喜びました。
努力し続ける彼に惹かれていく者も多くなり、二人の仲を応援する者も出てきました。それが面白くないのは王様です。王様は彼と王女を崖に連れていくと、彼に「今、課した試練を成功出来ねば娘から離れろ!」と言いました。彼は素直に頷くと、ビョンッと高く跳び、何と課された崖の間を跳び移るのに成功させました。
王様は、予想外な事に驚いて、側に控えていた部下に「王女を空高くに持ち上げろ」と命令しました。王女の抵抗をよそに部下は高く高く空を飛んでいきます。太陽と同じ位置まで飛んでいったら、流石の彼も追いつけないだろうと王様は考えたのです。
彼は、跳んで王女に追いつこうとしました。しかし重力に逆らえず落ちていきます。彼はそれでも諦められず、一か八か羽を動かしました。
彼の愛の力でしょうか、飛べない鳥は大空を飛ぶ事に成功しました。
空高く飛んでいった彼は、王女を奪い返すと二羽で遠く、遠くに飛んでいきました。
王様は彼らを探させましたが、ついに見つかりませんでした。
しかし数年後、彼らに似た番が多くの雛達と一緒に幸せに暮らしているのを見た者がいるとかいないとか。
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