二
「お前の両親は優秀な剣士だった。
私が昔騎士団の団長をしていたことは前に話しただろう。
その時のメンバーのうちの二人がお前の両親だった。
父親のほうは自らの身の丈程もある大剣を振るい、母親のほうは魔術と剣術を巧みに使いこなす、それはそれは優秀な剣士だった。
だからそんな互いの強さに惹かれあったのかもしれない。
二人は恋に落ち、結婚した。
そして二人は私に騎士団からの退団を申し込んできた。
私にとっては二人がいなくなることは痛手だったが、仕方なく承諾した。
その後二人はある村に移住し、幸せな生活を送っていたそうだ。」
そこで師匠は間をおいて、また語り始めた。
「だがその翌年から魔物たちが急に大規模な軍団を持ってして大攻勢を仕掛けてきた。
私の騎士団はギルドからの依頼を受け、他の騎士団と共に魔物討伐へと向かった。
だが敵の軍勢雲霞のごとし。
いつしか私たちは魔物軍団に押されていった。
そんな疲労の溜まっていた時期だったからだろう。
私は一つ依頼が来ているのを気付かないでいた。
その依頼はあの二人の住んでいる村からの緊急支援要請だった。
私は村へ急いだが、ことは終わっていた。
家は焼かれ、人は殺されているまさに地獄そのものだった。
私は懸命に二人を探したがどこにもいなかった。
ただ、真っ二つに割れた身の丈程の大剣と、高等魔術の魔道書のみが落ちていた。
私は最早諦めようとしていたその時、泣き声が聞こえた。
私はすぐさま泣き声のする場所に駆けつけた。
今でも忘れない。
そこにはヘラ、お前を大事そうに抱えて死んでいる母親と、その二人を守ろうと刀折れ矢尽きるまで戦った男の最期の姿があった。
私は母親からヘラを取り上げようとしたが、彼女の腕の力は強かった。
ヘラ、きっとお前さんを最期の最期まで守ろうとしたんだろうよ。
そうして私はまだ生まれて間もない君を引き取り、団からも身を引いた。
君を育てて、せめて君の両親への償いになればと思ってね。」
師匠は目の端には涙が見えた。