2-2 試験前日1 幻獣ハーピー
次の日、フリーだったため、街をぶらぶらとした。入団試験は明日だ。予定通りだ。
「マリーさん、街を見てきます。」
「行ってらっしゃい。」
500年ぶりに訪れた街の調査だ。
街は大きく東西南北に分かれてる。北区の一番北側が王宮だ。ここからでも大きな宮殿が見える。マルチス王国のシンボルである、ウロボロスの紋章の国旗が挙がっている。永遠の象徴だそうだ。王宮皇族たちもこの北区域に住んでいる。
東区は大きな教会があり、病院が併設されている。聖職者や医療に関わる人達が住んでいる。
西区は戦士や魔法士などの王国騎士団が生活している区域だ。本部や学校もそこにある。マルチス王国騎士団のシンボルもウロボロスだ。正面の壁に描かれている。明日の試験会場もこの場所だ。
南区が、一般人が生活したり、商業施設が立ち並んでいる区域だ。僕が泊まっているマリーの宿屋もそこだ。
「この区分けは変わっていないんだな。」
そんなことを思いながら、歩き回った。
街の武器屋や防具屋、魔道具屋なども回った。魔道具屋とは、魔法を使って動く便利な生活用品が販売されているところだ。
地元の田舎町に比べると充実していたが、武器や防具は500年前とあまり変わっていない気がする。魔王を倒したあとは大きな争いは無かったようで、武器や防具を使うのは冒険者と王都を守る王国騎士団くらいだ。なので、道具の進化は不要だったのだろう。
それら四つの区域の中心には大きな広場があり、人々が自由に使える。店舗などは構えることは出来ず、たまに行われるバザーやお祭りの時に店を出す場合は申請が必要だ。その辺りのルールも変わっていない。
そして広場のちょうど中心に銅像が立っている。四人の英雄の銅像だ。500年前と変わっていない。少し色あせてはいるが、かなり綺麗だ。街の人に聞くと、掃除等していないのにいつも綺麗なので、マルチスの七不思議の一つになっているらしい。
「僕の像もまだ残っている。改めて似てない。」
変わっていないことに少し安心した。そしてあの頃は色々あったなぁと思いながら眺めていた。
すると、一緒についてきていたケットシーのタマが、街にいた猫と話をしている。話が終わったのか、僕に近づいて服を引っ張りながら話しかけてきた。
「ちょっと話があるにゃ。」
「どうした?」
「この街にいる、わたしの部下の猫が困っているので助けてほしいにゃ。」
「困っているって、何を?」
「この王都や街について情報を集めてんにゃが、邪魔する魔獣がいるらしいにゃ。」
「え?街のなかに魔獣がいるの?」
「詳しいことは本人(本猫?)に聞いていないのにゃが、そうらしいにゃ。」
魔獣が街のなかにいることは、非常に問題だ。暴れだしたら一般人に被害が出てしまう。
早速問題を打ち上げた猫をつれてきてもらい、ケットシーと話をさせた。(もちろん、僕は動物と話が出来ないし、猫語も分からない)
「その魔獣がいる場所が分かったにゃ。」
「よし、連れて行ってくれ。」
僕たちは猫についていった。街外れの人が来ないような場所かと思いきや、公園の端にある木が生い茂っているエリアで、ちょうど木陰になっている場所だ。こんな人目に付くような場所に魔獣がいるのか?
「ここが魔獣がいると言っている場所か?」
「そう言っていますにゃ。」
「でも、なにもいないようだが。」
「そうですにゃ、日中はいないにゃか?」
そんな事を言っていると、木の裏から女性が現れた、と思ったら、大きな羽を持っている魔獣だった。
「またあんたたちかい?この街を色々と探るのはやめとくれ。」
「あんたが、うちの猫達の邪魔をしている魔獣にゃか?」
「邪魔しているのは、あんたたちだよ!!」
言い争いが始まった。あれ、言葉が分かる。すると、パトリシアが陰から現れた。
「エリック様、この方は魔獣でありますが、幻獣ですぞ。ハーピーです。」
「え?幻獣なの?何で町の中に??」
僕は驚いたが、パトリシアは冷静だ。
「久しぶりじゃの、ハーピー。こんなところにいたのか。」
「え、あんたはユニコーンじゃないか?生きていたのかい?」
「そう簡単には死にませんぞ。ご主人様をずっと待っておった。」
「そうだったの。で、見つかったのかい?だけど、あんたの主人はずいぶん昔に生きていた人間だったと思うけど。」
「こちらの方が、ご主人様である、エリック様です。」
「え??ずいぶん若いけど?」
「間違いありません。エリック様は、500年前から転生なさったのです。」
「へーそうなんだ、珍しいわね。」
パトリシアは、ハーピーとこれまでの話をした。そのあと、ハーピーは僕に話をした。
「私はね、500年前魔王が勢力を伸ばしている頃、魔王側にいたの。魔王の力が凄くて、逆らえなかった。そしてあの日、人間の英雄たちが魔王を倒した。そして私はついに自由になれた。私は英雄たちにとても感謝したわ。だから、英雄たちが住むこの街を守る事にしたの。今でもあの像が私の心を落ち着かせてくれる。たまにあの像を掃除しているのよ。だから、英雄のあなたに会えてとてもうれしいわ。」
なるほど、だから英雄の像は、500年前の物とは思えないほどきれいだったのか。っていうか、七不思議の原因はあんただったのか!
「エリックちゃんでいい?あなたは魔王を倒すの?」
「ああ、僕は仲間を集めて、復活する魔王を倒す。」
「魔王がまた現れるなんて許せないわ。是非手伝わせて。」
僕はハーピーと主従契約を結んだ。魔名は「はなえ」とした。東洋っぽくて、気に入ってくれた。
契約によっててに入れたスキルは、【スリップサーフェス】。対象者と何かを一度だけ摩擦係数をゼロにする。なかなか使えそうだ。
「私が猫たちの探索の邪魔をしたのは、大切な街を守りたかったから。でも、魔王を倒すための情報収集であれば、協力するわ。」
猫たちの問題も解決できた。感謝しろよ、タマ!