中二病でも恋が死体!
「たいへんなんです! わたしのへやに……し、したいがころがっていて……!」
「ははぁ」
呼び鈴が鳴った時、私は丁度帰宅途中で、カーステレオからお気に入りのラジオ番組のエンディングを聴いていた。カーナビの横に固定されたスマートフォンのボタンを押すと、ラジオのDJの声は小さくなり、代わりに電話口の向こうから女性の慌てふためいた声が流れ始めた。今夜はもう店仕舞いのつもりだったが、仕方がない。したい処理班を生業にする私は、早速Uターンを切り、依頼主である女性の住む一人暮らしのマンションへと車を走らせた。
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「はやく!こっちです!」
呼び鈴を鳴らすなり扉が勢いよく開けられ、怯えた様子の女性が私を部屋へと引っ張り込んだ。私は蹌踉めきつつも、冷静に部屋の中を見回した。慌てなくても、したいは逃げない。特段荒らされた様子はなかった。肝心のしたいは、部屋の隅で小さく体操座りしていた。そのしたいはまだ中学生くらいの、幼い少女の姿をしていた。私は唸った。
「なるほど……これは酷い」
「一体何で……誰がこんなことをしたのでしょう……」
混乱する女性がすがるように問いかけた。私は彼女を手で制した。
「まぁまぁ、落ち着いて。それはしたいに直接聞いてみましょう」
「?」
私は今にも泣き出しそうな顔のしたいにゆっくりと近づいた。小さな『したい』は、依頼主にそっくりの顔をしていた。同じように目に涙を浮かべ、体をガタガタ震わせ、その小さな手にはどこから持ってきたのか包丁が握り締められていた。怯える『したい』に、私は優しく話しかけた。
「やぁ、こんばんは。君は一体『何したい』なんだい?」
「…………」
「…………」
『……たい』
「ん?」
小さな少女のしたいはチラリと私を見上げ、すぐに目線をそらすと、やがて小さな声でぽつりとつぶやいた。
『……恋がしたい』
「恋……君は『恋がしたい』なんだね」
したいがゆっくりと頷いた。
『……うん』
「ほかには?」
『……活躍したい。……おしゃれしたい。……楽したい。話したい! 愛したい! それから……!』
「ははぁ」
私は頷いて、優しく「したい」の頭を撫でた。ぎゅっと自分の体を抱きしめていた「したい」は、緊張が解けてしまったのか、やがてその目から大粒の涙を流し始めた。
「あのぅ、何か分かりましたか……?」
私の後ろから、女性が恐る恐る尋ねた。私は振り返って彼女に言った。
「ええ。この『したい』は……貴方が生んだものですね」
「ええっ」
驚く彼女に私はゆっくり説明を始めた。『したい』は、貴方が心の中で『こうしたい』という欲求の具現化したようなものであること。貴方が自分を殺し、欲求を抑えれば抑えるほど『したい』は苦しみ続け、今後も『したい』は増えていくだろう、ということ。私の話を聞いて、この『したい』の「殺人犯」である彼女は、部屋の隅っこの少女を罰が悪そうに怖々眺めた。
「そんな……私は別にそんなこと……! こ、この『したい』は、どうすればいいんでしょうか…?」
「『して』あげてください。自分の本当に『したい』ことなんて、自分なら余計に分からないものですよ。今度は貴方も『したい』と一緒に、心の声にちゃんと耳を傾けて」
私は彼女を見つめながらそう告げた。彼女は一瞬戸惑ったような表情を見せたが、やがてゆっくりと、恐る恐る包丁を握りしめる自分の『したい』のそばに腰を下ろした。
「ごめんね……あなたは、私だったんだね……」
『…………』
「私……私本当は心の何処かで気付いていたんだと思う……。でもしたいのに出来ないって言い訳して……。ならいっそ、やりたいことすら無かったことにして、自分の『したい』を殺してしまおうかなって……」
【①】
「でもこれからは……私の『したい』に、ちゃんと向き合うから……!」
【②】
『したい』はその小さな顔をゆっくりと上げ、やがて"母親"の胸の中に飛び込み、悲鳴にも近い大きな声を上げて泣き出した。彼女もまた、痛みに耐えるかのように大粒の涙を流していた。その時、『したい』が握りしめていた包丁は……私は何故だかその場面を直視できず、帽子を深く被りなおした。
『したい』処理班の私の仕事はここまでだ。それぞれの『したい』に向き合った彼女達がこれからどうなるかは分からない。せめて二人の無事と幸せを祈りながら、私はそっと、次の現場へ向かうことにした。
【問題】
この文章には次の一文が抜けています。『』内の台詞が当てはまる番号を、作中の【①】と【②】、どちらか選びなさい。
・『私も……』
貴方の解答:




