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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔の灯

作者: 縁側

謎の短編だ!

 分かっていた。自己犠牲などと戯言を吐く人間なんてどうせろくな奴がいない事を……。ただひねくれている自分でも未だに信じれないし、分かりたくもない。目の前の光景が目に焼き付いて離れない。


「たじゅ────」


 ああ──また一人死んでしまった。


「ははははは……」


 思わず笑い声が口から零れ落ちる。狂っていくと分かるが、それも仕方がない事。この状況を見て『おかしく』ならないってこと自体が普通ではありえないことだ。

 石でできた祭壇には蠟燭が二本ほど明かりを灯しており、その真ん中には彼らの象徴である×印の四か所から手が四本ほど不気味に何かを掴もうとする形で描かれているエンブレムが置かれている。

 暴れてやろうかと思っていてもそれを実行できない。祭壇の上に生贄のように洞窟の壁に鎖が打ち付けられそれに体中が雁字搦めにされて───フュールは動くことが出来なかった。

 ただただ目の前で行われている『狂行』を目に血を走らせながら見ることしか出来ない。口にも鎖が巻き付けられ喋る事すら出来ないからだ。なので、実際にフュールは喋っているようで喋っていなかった。


「────」


 理解不能な言葉を吐きながら全身白だったフード付きのローブを着た血塗れの男は、無造作に髪を鷲掴みにして引きずりながら女の子を持ってきた。


「あああ───」


 フュールは知っていた。祭壇の前に投げ出された目が赤色の特徴がある少女を。


「シール……」


 シールと愛称で呼ぶほどに仲が良かった彼女が目の前に今いるのだ。理解した……したくはなかった。したくもない。この先彼女も生贄にされる事が目に見えるからだ。


「───ッ!!」


 がしゃがしゃと音を立てながら暴れまくった。いくら暴れようがほどける筈もない。しかし、やらない事には何も始まらない。もがいてもがいて…もがく。音に気が付いてシールは手や足に鎖が巻き付いて動けなかったが、どうにか顔を上にあげてフュールを目にした。


「ねぇ、フュール」

「───!?」


 哀れなフュールの姿に、鎖の隙間から覗かせるように見える目を見て、すぐに彼だとシールは気が付き、ニッコリと微笑んだ。何で笑っていられるんだ、こんな状況でと、口にするが当然彼女にも周りにも何も届かない。


「っう!」

「───」


 先程の男がシールの頭を鷲掴みにして祭壇に向かって何かを唱え始めた。すると、ゆっくりと後ろから同じ姿の人が大量に現れ、手には──屍を持っていた。目に光がない『それ』は、紛れもなくフュールと同じ村に住んでいる村人たちだった。


「───これより。ぎしきをはじめましゅ」


 同じ姿の人の後ろにはまだ幼い──フュールより若く、一桁の子供の姿の『子』が幼い声で始まりを伝えた。


「かみゅのおちゅげにより、あかきゅひとみゅをもちゅものをさしゃげましょう」

「「「「捧げましょう」」」」


 てくてくと白いローブに背中には祭壇と同じエンブレムが入った黒髪で青い瞳の子供が、祭壇の前に立ち、フュールを背に後ろを振り向いて、両手を広げた。


「でぇは、さいごのいきぇにえを、しゃしゃげましょう」

「──!!───!!」


 シールはフルフルと体を震わせても尚、フュールに笑顔を向けていた。


(やめてくれ!そんな事よりも早く逃げろよ!!)


 しかし、シールは頭を横に振った。何の意味があったかは今のフュールには分からなかった。ただ、シールは口を動かして、フュールだけに伝わるようにした。


『だ、い、す、き、だ、よ、ふ、ゅ、-、る』

「!?」


 成し遂げたと再び微笑んだ瞬間に、腹から手が四本、貫いて出てきた。


「あ、あああ………」


 目からは正気が失われ、手はだらりと力なく垂れ下がった───死んでしまった。彼女はもう、この世界にいなくなってしまった。涙と共に、血が体の至るを所を流れているのが分かった。


「?───あ」




 フュールは体中を手が、見知った村人の手が、鎖の上に巻き付くようにへばり付いていた。


「でぇは──シェントケンニムム様。おおしゃめくだしゃい」


 ボウと懐から紫色で金の装飾が施された本に火を付けて祭壇に投げた。ほぼ同時に後ろの人達からも、手に持った屍を同じ位置に投げられた。


 もうもうと火が、屍を燃料にして燃え上がり始めた。死臭や腐敗臭、肉が焼ける匂いを立ち込めながら。


「おまえたぁちゅ、ぎしゅきゅはおわりでしゅ、よろこんでぃここで死ね」

「「「「っは!!」」」」


 もう、訳が分からない。フュールは目の前で嬉々として燃え盛る火の中に飛び込んでいく同じ格好の人に……もう、『人』なのかうかがわしい者達の狂行にそれ以外の言葉が思いつかなかった。


「───」


 意味不明な言葉を言いながら。子供は奥へと消えていった。


(こんなところで死んでたまるか!!)


 もう、火はフュールを焼き尽くす勢いですぐ下まで燃え上がっていた。だが、やはり。鎖は千切れない。


(くそ!くそくそくそ!!みんなやシーナのために死んでたまるか!!!!)


 足が火に掛かり燃える激痛が襲い始め、次第に鎖全体に熱が徐々に伝わっていた。

 熱い熱い……激痛に、最早自分が何をしたかったのか。しようとしたのか。意味が分からなくなっていく。


(楽にしてくれ……いっそのこと……)



『フュールはどうしてそんなにひねくれてるの?』


「!?……ああ、そうだな」


 幻聴なのか、それとも本当にシーナの声なのか見分けがつかないよな生き生きとした声が聞こえた。


「みんなを──守るためだな」

『やっぱり、フュールはそうでなきゃ』


 身を焦がす熱が途端に嘘のようになくなったと思ったら鎖がバラバラになり、フュールの拘束もほぼ同時に解けた。


「何が……」


 焼け焦げた死体の上に着地した嫌悪感よりも、状況に呆然としていた。


「これは……」


 ふと、上を見上げると、紫色に光る球が宙に浮いていた。それはフュールの目の前に浮かびながら移動すると、胸の中に吸い込まれるように入っていった。


「!?」


 体中に力が湧いてきた。黒だった髪は若干紫色が掛かったような色に変わり、青い瞳も薄っすら黒くなった。

 感覚的にだが『あれ』が何か分かった。


「みんな……ありがとう………」






 洞窟の外に出れば……あるのは焼けた家や荒らされた畑があるだけの廃墟となった村だった。


「グラント」


 後ろを振り向き、感覚的に行使した。

 洞窟は崩落するように急に崩れて跡形もなく消え去った。フュールは静かに手を合わせた。


「みんな、頑張るから見守ってくれ」



 虚しそうにとぼとぼと、歩き始めた後ろには何もなく。前にも行く道がないが……それでも、フュールは進み始めた。生きるために……。


 こうして……魔法の始祖『フュール』は、村から出ていき。数々の功績を後に世界中に残す旅へと、その足を向けていくのだった。


お読みいただきありがとうございました!

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