闇の足音 やっちまった?
「開門、開門~」
トーラスさんの声が響く。
騎馬が衝突する寸前で門が開き、通過すると同時に門は閉じられる。
(見事な統制だ。。。でも、もしぶつかったらどうすんだ。この脳筋め。。。)
まあ、これが初めてって訳じゃなさそうだけどね。
門を越えると、すり鉢状に村が広がっていた。背後には鉱山があり、門に向かい左手は急な崖となっているように見える。
村と言うには、そこそこの規模だな。
ー鉱山労働者の村か。
労働者プラス騎兵隊400名(実際うち何人が生き残れているのか分からないが)
下手したら1000人近い規模かな。
一様にみな暗い目をしているのが気にかかる。
「子息さまよ。見物は悪いが後にしてくれないか?」
そうだった。目的を忘れるところだった。
トーラスさんに連れられ、村で一番大きな建物に入る。とは言え、簡素な木造作りだ。
「トーラス殿、首尾は?」
建物に俺達が入ると同時に
中に詰めていた、部隊長クラスの幹部が声をかけてきた。前、屋敷でちらりと見かけた男だ。
トーラスはあごで俺を指す。
「何をふざけて。。。」
(まあ、そう思うだろうな。普通)
ただ、言いかけ、途中で言葉を飲み込んだ。
(俺の顔に見覚えがあった?んだろうな。)
「わざわざ、ご子息さまのお見舞い痛みいります。で、白魔術師はどこにお連れ頂いたんでしょうか?」
(あっ、やっぱり。そう思うか。説明が面倒だな。。)
顔に出たのか、
「細かい話は後だ。ご子息を主のところまで連れていく。」
そう言い、トーラスさんは奥の部屋までどんどん進んでいった。慌て俺も後に続く。
奥の部屋はさながら野戦病院の体をなしていた。明らかに鉱山労働者と思われるようなおっさん達も駆り出され、介護に当たっている。
一番奥の立派と言えるベッドにディール伯は横たわっていた。
目が俺を追っているので、かろうじて生きているのが分かるが、顔に表情がなく、デスマスクのようだ。横のテーブルには煎じられた薬草のような物が見える。
『ストナ』
俺は大声で叫び
続け様に『ストナ』を伯爵の体中にかけまくった。
「。。。。」
部屋中、沈黙が支配する。
あれっ?俺何かへんなことをした?
皆が俺を見つめている。。。
なんか恥ずかしいかも。
「。。。。。」
「。。。。」
「???」
初めて使う魔法だからもしかして失敗したとか?
「か、か」
ん?
「感謝する。」
その一言が、伯爵から出たとたん、大歓声が屋敷中に響いた。
ふーう。
※※※※※※
伯爵の治療が終わったものの、『はいそれで終わり』って訳にはいかなかった。
「はいっ、それでは、足の親指にこのタグを結んで行って下さい。急を有する人が赤、多少余裕が見れる方は黄色、普通の薬でも治せそうな方は青をお願いします。」
「あっ、そこの人、そこのケガ人はどう見ても青色じゃないですか?」
「えっ?お偉いさん?そんなことしっちゃない。ダメダメ。俺の魔力だって無限じゃあない。後で余力あったら治療するから。」
「お前ら、おやかた様に恥を掻かせる気か~、しゃきんとせ~」
無駄に元気な声が響く。
(うるさいなあ~。)
誰だかわかるだけに苦笑が浮かぶ。
まあおかげで助かったけどね。
そして、高価なMPポーションが山と積まれていく。
(魔術師がいない筈なのに何故こんなにMPポーションのストックがあるんだ?)
そんなこと気にかけている間もなく、次から次へと人が運び込まれてくる。
俺は流石に四肢欠損、部位欠損の人までは治せないが、
毒状態、石化状態、切り傷などについては簡単に治せる。
ポーションを飲んでは治し、飲んでは治しをひたすら続け、
やっと、騒ぎが収まったのは6時間もたった後だった。
実は、最後の方はついでに騎士だけじゃなく、鉱山労働者の方々で落盤にあって骨折した人や、肺を患った人も治したんだけどね。
命に貴賤は本来ない筈だし、ポーションも沢山使えるから、良い経験値稼ぎに。。。
(おっと。)
まあ、みな喜んでいたし、村の雰囲気も良くなったから良いでしょう。気付いたら、いつの間に昼前に。。。
(あっ、何かやっちまった気がする。そうだヤバい!帰らないと。。。)
昼前までに予定ではチャッチャと伯爵を治療して送り届けてもらう予定だったのに。。。
(さて、困った。)
真っ青な顔をしていると
トーラスさんがちょうどやってきた。
「今回は本当にお世話になりました。お顔が優れないようなので、休まれたら如何ですか?寝所を用意させます。」
言葉使いがなんか大人に対するような
感じに変わっている。
(なんか気持ち悪い。。。)
「帰らないと。。。」
「はっ?」
「帰らないとまずいことに。。。屋敷の者に内緒で、抜け出して来たので、家のものが心配して大騒ぎになっている可能性が。。。」
「それは、それは大変ですな。」
まるで他人事のよーに返された。
確かにここに来たのは、俺の『勝手な』善意だし、騎士達の治療を行ったのも頼まれたわけじゃない。
だが、もう少し真摯に考えてくれても良いじゃないか。。
ふと、トーラスさんがニヤニヤ笑っているのに気がつく。
「うん?」
「いや~子息も、子供のような顔をされるんですな。」
えっ?俺って子供だし。(少なくともこの世界じゃあね。)