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闇の足音 沈黙

やっと新展開の話へと進めます。。

その時は突然やって来た。


闇の帳が落ちつつある夕刻の山道を勢いも殺さず、赤い一騎の騎馬が駆け抜ける。


正しく言えば、元赤色だったと言えよう。

元はさぞかし綺麗な赤色だったと思われるアーマーだが、あちこちにキズを受け剥げて色落ち、今はくすんだ赤褐色となっている。


騎士は村の門の前に来ると、騎馬からおり、門をたたき告げた。

「火急の件故、開門願う」


門の守番は生真面目な性格なのか

「どなたか知らないが、明日朝にまた来られよ。」

と返す。


「ならば、奥方様にトーラスが火急の件にて、お目通りを願っているとお伝え願いたい。」


門番も奥方の名前を出された手前、無下に返す訳にいかず、躊躇している。


「手遅れになったらお前に責任が取れるのか?、せめて屋敷に問い合わせの伝令でも出したらどうだ?」


門番の相方がディール伯の随行者いたトーラスの顔をやっとの事で思い出し、慌てた。

「それには及びません。只今お開けします。」


開くやいなや、騎馬ごと駆け抜け、トーマスは屋敷へと向かった。


屋敷の門番(守備隊)は村の門番と違い、トーラスを見知った関係であったため、取り次ぎの者を急いで屋敷の主人の元へ走らせた。


そして、屋敷内へと場面は移る。


※※※※

玄関での何やら慌ただしい動きに目を覚ました俺は、トイレに行くと部屋付きメイドに言い、そっと階下に降りた。


先日訪れたトーラスさんが、来訪者のようだ。



「前口上は良いので、何故この時分訪ねられたのかお聞かせ願いたい。。。」

執事頭の声が聞こえる。


「夜分、事前に前触れもなく、訪れる失礼申し訳なく存じます。なにゆえ我が主の命に拘わること故、ご無礼を承知の上お伺いいたした。」

そう言うと訪れた経緯を話始めた。


討伐に向かったダンジョンの攻略が現在行き詰まっていること。

その理由として、討伐隊が向かった先にあったのが、当初想定していた『自然発生のまだ出来て間もないダンジョン』ではなく、おそらく上位魔族が人間界侵攻の為に、設けた『ゲート型のダンジョン』であった為だと言うこと。


通常発生の魔物だけではなく、少数だが上位魔物(コカトリス、レイス、バジリスク、レッサーデーモン)までがダンジョン深部にいた為判明したらしい。


「下位とは言え、デーモンクラスが自然発生のダンジョンで見られることはまずないですから。」


「そのダンジョンのある場所が当家より比較的近い場所にあるということから、知らせに来て頂いたんですね。大変感謝します。」

母上の声だ。


「その事もありますが。。。実は協力を願いたいことがありまして。」


「ここはご存知の通り小さな村ですし、屋敷の警備の為の兵も最低限しかおりませんが?ご協力できることはほとんど無いかと。むしろ王都や周辺の街に援軍を依頼した方が良いかと思われますが?」


「実はこの村に優秀な白魔術師がいると聞き及んでおりまして。その者をお借りしたく、参上いたしました。

当家の主が今日、ダンジョン攻略最中にバジリスク数体と遭遇の末、石化の魔眼を浴びまして。

その解呪を出来る者が近くの村にも、隊にもおらず助けを求めこちらに参った次第です。

現在、魔法薬により石化の進行を遅らせておりますが、もって明け方までと治療師が申しております。是非お力をお貸しください。」


「それは無理です。」


「えっ?何故ですか」

トーラスさんが詰めよった気配がある。


「勿論当家としては、出来るだけのことはしたいとは思ってますが。。。」


「では、何故?」


「なぜならその者は現在、王都へ出かけているからです。この村には解呪できる者が現在おりません。」


沈黙がその場を支配した。。。




しばしの沈黙後、トーラスさんが口をひらいた。

「では、他に。。。他にこの近くの村で白魔術師は。。。」


「知っていればお教えいたしております。『ヒール』や『キュア』などの生活に密着した魔法ならともかく、ダンジョン都市以外に需要の無い『ストナ』を習得している者がこのような田舎の村にいるとお思いですか?」

執事頭が諭す様に言った。流石に同情的な声だ。


「他に、他に何が方法は。。。」


「急ぎ戻られれば、最後に看取られることもできます。乗られて来た馬はもう限界でしょうから、新しい馬を用意させます。それまでしばしお待ちを。」


「かたじけない。。。」

無理だと悟ったのかそれ以上トーラスさんは口をひらかなかった。





※※※※※※

(さて、どうするかだな。)


こんな田舎の村でも、『ストナ』を使える変わり者、すなわち『俺』がいた。


ただ、正直ディール伯とは面識はあるものの、それ以上の関係はない。

父上とはそれなりの関係はあったらしいが、危険を冒しても助けに行かなければならない義理も無い。


その上、まず母上が俺が『ストナ』を使えると分かったとしても、まず反対するのが目に見えている。


何故だか知らないが


俺が屋敷を離れること

俺の能力が世に知れること

に対し異常なくらい忌避(きひ)感をもっている気がする。


でも?


男なら、困っている人を見捨てるなんて

出来やしないよね。やっぱり。


『義をみてせざるは、勇なかりけり』ってことわざ?もあっちの世界にはあった気がするし。


俺は動くことにした。


部屋にもどり、部屋付きの女中に寝る旨を告げると、用意を始めた。

(持ち物は特に必要ないな。)


ベッドに毛布を詰め、雨どいを伝い庭に出る。

庭師小屋に登り、塀を伝い、木を伝って屋敷の外へ。今度は失敗せずに出れた。

そのまま、村の塀沿いに進み隙間より村の外へ出た。

街道の分岐点まで無事にくると、流石にホッとし、茂みに潜んだ。


(これで、本当に良かったんだろうな?)

迷いは正直あった。


待つこと数分、馬がもの凄い勢いで通り過ぎた。


(まずい)


とっさに、『スタン』を威力を抑え馬の前方へ放射状に放った。


勿論、馬は驚き、トーラスさんを振り落とそうとした。


(ヤバい)


大ケガさせる所だった。


「何奴?俺は今手加減できるような状態じゃないぞ。覚悟をもって挑んでこい。」


「お久しぶりです。覚えてらっしゃいますか?」


「悪いが子供の冗談とは言え、今の俺には付き合っている余裕がない。」

凄い気迫だ。


「今抱えている問題を私が解決する方法をもっていたとしても?」


まだ殺気は消えない。


(ふう。)


「ハイヒール」


いくら話しても、無駄だろう。

なら実力行使だ。


呪文をおれが唱えたのを見て、はっとした顔になった。


「子息、『ストナ』が使えるのか?」


「はい。もっとも母上は知らないことなので、母上が先ほど言わなかったことについて責めないでくださいね。」


「だが。しかし。。。」


「ディール伯領では、人の能力を見かけで判断されるのですか?」


「そう言う事を言っているのではない、危険のある場所に、貴族に連なる者、ましてや若年の者を。。。」


「何が言いたいかおおよそ分かっています。ただ、『困っている貴方がいて』、それを『解決出来る僕がいる』。しかも『時間はない』。ならすることは?」


「分かった。この恩はこのトーラスが一生かかってむも払う。助けてくれ。」


(だから、もとからそう思っていたんだって。)


トーラスの馬に相乗りし、ダンジョン近くの村へ俺は向かった。





※※※※※※

「右45度から中型の魔物5体接近、おおよそ距離60m」


「ああ?45度?」


「正面と右の間です。」


「そいつは右斜め前だろ?」


「そうとも言います。。。そんな事より」


「次、50m先左藪に7匹潜んでます。突破か回避願います。」


「こんだけスピード出てるんだ、突破だよ、突破。正面突破」

そう言いながら馬のスピードを上げる。


「イチイチ、戦っていたらキリないから、避けて行くっていったのはトーラスさんでしょう?」


俺が敵のおおよその位置が分かると言ったところ、ナビゲートしろと言ったのは勿論トーラスさんだ。


ただ、8割のところ、まず避けないで突っ込んでいく。しかもスピードを敢えて直前で上げてだ。


実は『イチオスの木』を越えて数時間走った辺りで、魔物との遭遇率(エンカウント)が異常に上がった。

トーラスさん曰く魔物の(ダンジョン)が近いと言う。


「魔物はダンジョン内に生息してるんじゃ?」


「普通のダンジョンならな。そうだろう。しかし上位の魔物がいてそいつが何らかの意思を持って出てこようとしたら?

まあ、出て来もするさ。はっはっは。」


「流石の坊主、いや、子息様もびびって怖じけづいたか。」

楽しそうに笑う。


「私ですか?勿論怖いですよ。死ぬ可能性だってあるんですから。怖いからこそ、慎重に、『死ぬリスク』を避けるよーに良く考えているんです。『蛮勇』と『勇気』を履き違えてもらっては困ります。」


「ちぇっ、可愛いげのないガキだ。」

ボソッと呟いた。


(聞こえないと思っているのかな?でも、ガキっポイところあるから、きっとわざとだ。)


しょうがない。聞こえなかったことにして、スルーしよう。

(我ながら大人の対応?だ。)


不意に森を抜け、開けた岩肌の大地が広がる。


「ここから、村まで遮蔽物のない一本道だ。それにあそこ」

と指をさす。


ダンジョンの入口が見え、魔物がうじゃうじゃ居るのが見える。


「で、作戦は?」


「こっからは姿を(まもの)(さら)すことには避けられない。だから」


「だから?」


「全速力で駆け抜ける。大人しくしがみついておれよ。」


(結局、正面突破かよ。脳筋はこれだから嫌だ。。。)


でも、しょうがない。振り落とされないように馬にしがみついた。


そして、『パパパかぱーぱん♪、パパパかぱーぱん♪、パパパかぱーぱん♪、パパパパ~♪』

ワーグナーの音楽『ワルキューレの騎行』を思いっきり『音出し』で周囲に響かせた。


(個人的にはクイーンの『Rock you』でも良かったんだけどな~。馬鹿が突っ込んでいくなら

これでしょう。)


そして、なんと魔物達も。。。

呆気にとられていた。


そしてトーラスも。



(あまり俺をなめんなよ)

『ヒャッホー、ヒーハー』

俺は雄叫びをあげ、馬もハイになりながら突っ込んでいく。


呆然として棒立ちになっている、魔物を『スタン』で片っ端から打ちながら。

『キモチE~。あっはっはっは、あっはっはっ』

と俺はいつしか叫んでいた。


(これは後に、鉱山の村の連中から『悪魔の笑い声』と評されたらしい。)


(失礼な。)


開けた場所はいつか通り抜け、谷合の道に入り、そして門が見えた。


俺達はどうやら生き残ったらしい?

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