そろん
書き置きの手紙があった事を思いだし、中身を見てみた。
涙で文字が所々滲んでいる。
『突然いなくなる母を許して下さい。
私のことは忘れ、幸福な人生を願わくば送られるよう祈ってます。』
書いてあったのはこれだけだった。。。
短い分だけに却って気持ちが伝わってくる。
(早まった事を。。。。幸福なんて人それぞれの考え次第なのに。
『爵位』を持った者が必ずしも幸福って訳ではなかろうに。
しかし何故姿を消す必要まであったんだろうか?)
ディール伯より聞いた母の出自を思い出す。
(『旧ザンザニア』今は『ザレス』だっけ?
『国に帰る』と宿の支配人に言っていたらしい。ならそこに行けばいつか会えるだろうか?
ただ、今の俺は所詮11歳。一人旅すらままならない。。。歯がゆいな。)
「『アルト様』」
後ろから躊躇い勝ちに声がかかった。
「奥様が去られた旨、宿の者より聞きました。」
『ムラーノ』だった。
「『ムラーノ』か。教えてくれ、俺はどうしたら良い?」
「御身のされたいようになされぱ良いかと。ただ、闇雲に一時の感情に流されることだけはお止め下さい。」
「何故お母様は出ていった。いや、『出ていかなければならなかった』のだ?」
「私も詳しくは分かりませぬが、
『ニクス』から私が聞いた話では、
元より『アルト様にもし精霊が顕現した時は伯爵家へ養子に引き取ることになる予定だったとか。。。
恐らくその事を奥様はご存知だったのではないですか?
それでアルト様の今後を考え身を引かれたかと。」
(なんの事はない。お母様が俺から離れていった理由は、すべて自分が撒いたって訳か。。。
もし『音の聖霊』について口をつぐんでいれば。。。
得意にしゃべったばかりに。。。)
「奥様の出自を考えると、『ラファス様』の血を引かれているとは言え、『精霊が顕現しない確率も』高かったですから、成人の『告知の儀』まで様子を見られていたかと。」
「でも、成人前に『精霊が顕現した』と分かってしまった。。。」
「その通りでございます。それで伯爵家では急遽『アルト様』を迎えいる算段としたのです。」
「しかしお母様は何故出自を気にされる?
王国に滅ぼされたとは言え『王家』の一族であり、碑鮮の出では無いはず。
しかもお父様に正妻として迎えられた身なのであろう?
何故身を引かれる必要がある?」
「『アルト様』、『ソロン教』をご存知ですか?」