倍がえし?
「このままだと、在庫が無くなりそうです。」
売り子に回ってくれている針子さん達が嬉しい悲鳴を上げている。
『自分たちが作った洋服が目の前でバンバン売れている。』その現実を目にしてるんだから気持ちが分かる。
「『クリーム』が凄い売れているから、もっと作らないと」
とぶつぶつ言っているのは『ベラ』だ。
「今日は早目に店仕舞いしましょう。
明日からの仕入れも考えなければ。
『針子さん』は服を作るのをメインで、
『売り子』さんは別に募集した方が良いですね。」
そんな話を交わしていた時であった。
「『アルト』殿はおられるか?我が主『メイ子爵』の命により、お迎えに上がった。ご同行願いたい。」
数名の衛兵がドヤドヤと売り場に入ってきた。
買い物客がざわざわしている。針子さん達も動揺している様に見える。
(このままだと、悪い評判が立ってしまう。)
「私が『アルト』だ。
何ゆえ、商売の最中に大勢で押し寄せた?
仮にも『メイ子爵』にも商売を行う許可はとってある筈だが。
そなた達は大切な『オープニングイベント』を『台無しにしてこい』と子爵に命じられて来たのか?」
『音魔法』を使い、大音量で一喝する。
衆目が集まる中、隊長格らしい男の顔が真っ青になる。
が構いやしない。
「叔父上を通じ後日、正式に子爵家に対し抗議を入れさせて頂く。意味は分かるな?」
「まず、そこのお前。名前と役職を言え。」
「子爵家で衛兵を率いさせて頂いております『ベヌート』と申します。」
「では、もう一度だけ問おう。
良く考えて答えろよ。
『子爵』の意志で、このタイミングに乱入したのか?
それとも、、、例えば誰からか『アドバイス』を受け、たまたま『このタイミングに合わせ』来たのか?
子爵に問えばすぐ分かること。良く考えて答えろよ。」
俺の言った言葉の『真意』に気付いたのか
ハッと顔を上げる。
「ここへ伺うに当たり、『服飾ギルド』に『アルト様』の所在を尋ねました。
『家格」を大事にする方なので、それなりに供を連れ、なるべく早く行かれた方が良いとアドバイスを。。。」
「アドバイスをもらったのだな?」
頷いた。
「では、この時点での『大勢での乱入』は『子爵』の意志では無いと分かりました。でも正直言えば、店の前で状況をみてご自身で判断して頂きたかったですが。」
『ベヌート』は頷いた。少し顔に赤みが戻っている。
「それと、私が『服飾ギルド』にそもそも属していないって事は?」
「知りませんでした。」
(まあ、洋服って思い浮かべた時点で普通は『服飾ギルド』を思い浮かべるか。。。)
「ちなみに、そのアドバイスをくれた者は?」
「『バーナード』と言う、メインストリートに店を構える『大店』の主です。それなりの地位がある方なので、信用したのですが。」
「酷い。せっかくの晴れの日に。。。『バーナード服飾店』はなんの恨みがあって。。。」
『ベラ』が呟く。涙を浮かべる娘もいた。
ざわざわと、展開を見守っていた野次馬も
騒いでいる。
「あそこの店員なんか感じが悪いのよね。」
「ちょっと上から目線で、お高く止まってるって感じ?」
「どうせお前らには買えねえだろって感じなんだろう」
等の呟きが聞こえる。
(数百人のクチコミ舐めるなよ。『バーナード』)
パンパンパン
俺は手を鳴らす。
「ちょっとしたボタンの掛け違いのようですね。皆さんをシラケさせてしまったお詫びに、ハンカチを配らせて頂きます。」
そう言ってキャンペーン様に作ってもらったハンカチを配るよう指示した。
「では、子爵家に今から私は行って来ます。引き続きお買い物をお楽しみ下さい。」
わぁーっと会場は沸いた。