瞬間
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しばらくイベント広場で待機していたが
なかなか採寸に来る人が来ない。
全員暇をもて余しているのが分かる。
採寸係を除いた20名は、取り敢えずハンカチなどの小物類の作成をお願いした。
(これは本当に失敗したか?)
そう思った矢先『ミヤーノ布地店』の奉公人が飛び込んできた。
「旦那さま、大変でございます。お客様が店先に溢れてます。何でもただで洋服を寄越せと。。。」
(あちゃー。もしかして口コミだと採寸場所まで伝わらなかった??)
「取り敢えず行って見ましょう。」
ミヤーノ布地店に着くとなんと、長蛇の列が出来ていた。
急いで、採寸場所(倉庫前)まで誘導する。
それから、『修羅場』が始まった。
ちなみに、結局採寸がすべて終わったのは日も落ちかけたころであった。
最初の5人を含めトータル78人もの人が採寸しに来てくれたようだ。
最後のお客が帰った後、スタッフは
みな疲れ果てた顔をしていた。
「今日は皆さん、お疲れ様でした。明日もよろしくお願いします。少ないですが、ここ3日分として日当を出させて頂きます。」
そう言って30人みなに、用意しておいた銀貨を一人一人手渡ししていく。
皆に笑顔が戻っていった。
「明日もよろしくお願いします。」
そう言って渡し終えた方から帰ってもらった。
すべて終わったあと、『ミヤーノ』から
「『アルト様』よろしいんですか?すべて持ち出しではないんですか?私の方で出すつもりでいたのですが。」
と聞かれた。
(やはりそのつもりだったんだな。)
そこで、昨晩『ムラーノ』と話をした内容を話す事にした。
「『ムラーノ』が『お母様』から、服の仕立て金として40金貨を渡されていたそうです。それに旅費の残金として20金貨がありました。
子爵と私用で『ミヤーノ』さんから仕入れた高級生地の費用で、現在20金貨を既に使っているので、残金は40金貨あります。
針子さんへの1日当たりのお手当てとして、銅貨5枚で考えると1日銅貨150枚 金貨換算で1.5金貨と思ってます。
今、倉庫代と雑費は『ミヤーノ』さんに甘えさせてもらっていますが、採寸に来て頂いた100名分の生地代は私の方で持たせて貰おうと思ってます。
その費用、相場から見てざっくり3金貨ではないでしょうか。まあ今日の状態を見ると、あと100人分追加した方が良いか。それでも6金貨ですよね。
1週間のうちに『洋服屋』を軌道に載せることが出来れば何とかなる数字ですよ。
逆に最悪軌道に載せることが出来なかったとしても、今なら私が『高い買い物(洋服)をしただけ』で済む話です。」
そこまで話をしてやっとミヤーノは納得したようだった。
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明けてその翌日、その日は朝から倉庫前に長蛇の列ができた。
「押さないで下さい。ご好評により、キャンペーンは先着200名様までとさせて頂きます。」
そう言って整理券を渡していくが、200を超えても、まだ枚数は足りそうになかった。
「200番以降の方は、ただで洋服をお渡しする事はできませんが、新しい店で使える50%引きクーポン券をお渡しします。良ければ採寸にご協力くたさい。」
その案内も功を制したのか結局3日で当初見込みを遥かに超える623名の採寸データが揃うことになった。
「採寸ご苦労様でした。採寸チームの方あと一踏ん張りお願いします。」
「もう誰もおらんよ。」
「いるじゃないですか?」
「いや、お客さんすべて帰ったよ?」
「皆さん全員で、採寸願います。そして皆さんみんなにも、ただで出来あがった服を差し上げます。」
「わぁー」と大歓声が上がった。
皆の分を合わせて656名分のデータが揃った瞬間だった。