失敗の原因(わけ)
そして翌朝、倉庫前の特設広場へ『ムラーノ』と行って見ると、実に閑散としていた。
少し早くきたらしい『ミヤーノ』が残念そうな顔をしている。
「どのくらい来ました?」
「数名ほど冷やかしにきたくらいです。
あとは服飾店の店員らしい者の姿がちらほらですね。今回ばかりは『アルト様』の思惑が外れたみたいですね。」
「来て頂いた方のリストを見せて下さい。」
5名ほどしか書かれていないリストが出されてきた。
名前、住所、性別、サイズ一覧が書かれている。ただし、すべて同じ筆跡だった。
何か違和感?を感じる。
「これを書かれた方は?」
と聞くと
「はい、私ですが。」
と大柄な体型の30代半ばの針子さんが
おずおずと前に出てきた。
「名前を伺って良いですか?」
「伺うなんて恐れ大いです。『ベラ』言います。」
「何か気付いたことはありませんか?」
「私でよろしいんですか?」
頷き話を促すとポツリポツリとだが口を開いた。
「みな、採寸なんて初めてなんでびくびくしてました。わたしがしゃべりかけると、ホッとして、、、こっただ話でいいんですか?」
「はい、続けて下さい。ヒントが欲しいんで」
「『たったこれだけのことで、服が貰えるなんて素晴らしい。聞いてきて良かった。』と。。。みな言ってましたです。」
一見普通の会話だが、、、まてよ?
「『聞いてきて良かった』とみな言ってたんですね。
ちなみに、この字はすべて『ベラ』さんの字ですね。お客さんにどうしてリストに直接書いて貰わなかったんですか?」
「あっ」
『ミヤーノ』がすっとんきょうな声をあげた。
「『アルト』様、貴族の方と違い、字が読める庶民はわずかです。多分『ベラ』が特に優秀なだけです。」
(じゃ、キャンペーンのチラシは意味なかったとか??。。。
やっちまったぜ。)
※※※※※※
結局『ミヤーノ生地店』で、
ビラだけではなく、口頭でも簡単に説明してもらう事にした。
(まだまだだな。俺も)
「『アルト』様、早く気付いて良かったです」
「『ミヤーノさん』と『ベラさん』のおかげです。早く気付けたのは幸いでした。」
「はははは。」
「ところで『ミヤーノ』さん、服飾店の者が偵察に来ていたと言っていましたよね?」
「遠巻きに見ている者のうち何人かは知っている顔でした。」
「あとでその服飾店の名前をリストに作って貰えますか?」
「服飾店の名前のリストですか?」
訝しげな表情をミヤーノは浮かべた。
「『キャンペーン初日、書かれたビラを基にまだ『海のものとも山のものとも分からない』生地店の様子を見に来る。それだけでも、情報の感度が高い相手だと分かります。
いつかこっちの陣営に引き込みたいと思いませんか?」
「なるほど」