勝利
廃棄にする1着以外は、幸い手付かずであった。
そこで縫い方を『アルカイック』で調べ
まず手先が特に器用な5人に教えることにした。
その核となる5人を中心に人数を6人ずつふり分け、チーム内で教えあうよう指示した。
これが功を制したのか、はたまた彼女達の才能がもとから高かったのか、午前中には3着もの色違いのフォーマルスーツ(白、黒、ブラウン)と1着のセミフォーマルジャケットが大体の仕上がりをみせた。
(いける。でもあと一工夫だな。)
「素晴らしい。こんなに簡単に服が出来てしまうなんて。」
『ミヤーノ』が満足気にしている。
(この程度の満足じゃダメだ。服の品質だと『オーダーメイド』には及ばないからな。まてよ?服だけで勝負する必要もないか。)
「『ミヤーノ』さん、刺繍が上手い人数人と、ハンカチみたいな薄い生地を織れる方集めて貰えませんか?」
「今度は何を?」
俺は作戦を耳打ちし、図面を描いて見せた。
「まったく『アルト』様は人使いが荒い」
そういいながらもミヤーノは嬉しそうに人を集める為、出ていった。
※※※※※※
3日後、納品に子爵家に訪れた。
「まさか、もう出来あがったのですか?」
「はい」
「それで現物はどこに?」
「量が多いのでこれから運び入れさせます
。」
「なんと、1着じゃ?。。。」
「取り敢えずフォーマル3着、セミフォーマルジャケット3着、カジュアル3着ほど用意しました。色は白、黒、ブラウンの3色にしています。そして、こちらがシャツ、ネクタイ、ハンカチになります。気分に合わせてコーディネートできます。」
ネクタイは初めて見るものだったらしく、付け方をレクチャーした。
「ちょっと着替えてくる。」
数分後、戻ってきた伯爵は微妙な顔をしていた。
「これはいったい?」
「実は、フォーマルスーツについてはボタンだけ付けておりません。」
「何か理由が?」
「ボタンの調達は残念ながら出来ませんでした。』
「ああ、ちょっと違いますね。
このようにある事はあるのですが、
『子爵を満足させるレベルのものが調達出来ませんでした。』」
そう言ってお洒落心の無い普通のボタンを見せた。
「なるほど。。。ではどうしろと?」
「もしお好みのボタンをお持ちなら、付け替えする事も可能です。もしくは、良い出物が出るまでしばらく待って頂くか。。。」
「私は、私はこの服を着て王宮の晩餐会にでたい。。。
実は明後日王都で王主宰の晩餐会が開かれるんだ。
そこに是非これを着てでたい。。
ボタン、ボタンならある。
仕立ててくれた『バーナード服飾店』には悪いが、ボタンだけこれに付け替えて使わせて貰おう。」
(ワレ、服飾戦争に勝利したれり。)
心の中でガッツポーズをした。
※※※※※※
俺が子爵と話ている間『ムラーノ』と『ミヤーノ』は外で気をもんで待っていた。
「で、アルト様、首尾はどうでしたか?」
無表情でうつむき。。。
そして、顔を上げにっと笑った。
「作戦大成功。バーナード服飾店のフォーマルスーツからボタンを取り外して急いで付け替えるよ。」
「しかし、まさか本当にオーダーメイド製品に勝つとは。。。」
「だって、子爵は『王家の普代であること』に誇りをもっておられるんでしょう。なら、あれは外せないよね。」
我々のタキシードの胸ポケットには『聖杯と剣』すなわち王家普代の証のエンブレムの刺繍が縫い付けられていた。