村の生活
「オギャアー」
凄い大音量の泣き声が響き。屋敷中のガラスが震えた。
「赤ん坊をいい加減に黙らせろ。
黙らせられないなら連れて出ていけ。
兄上の手紙があったから引きとったが、そうでなければ 由緒ある『オーガニクス家』の敷居をお前のような者に跨がせることなぞ無かったのに。」
30代と思われる小太りの男が顔を真っ赤にして怒っていた。
「すみません、すみません。。。
静かにさせます、お慈悲を」
そう言いながらただ、ただ謝る女性がいた。
執事らしきものが、主人の剣幕が聞こえたのか、慌てやってきた。
「ご主人様、この者の出は確かに下賤の身なれど、
その子は御血筋を引いているのもまた事実。
『炎の精霊』を従える可能性も未だ否定できません。
世間体もございます、今一度お考え直し下さいませ。」
「なら『ニクス』、お前が何か良い方法を考えるんだ。2日ほど猶予をやる。
こんなうるさい場所で安眠なぞできん。
わしは別邸の所にいって休む。」
そう言って、男は屋敷を出ていった。
「さて。。。どうしましょうか」
『ニクス』と呼ばれた男は眉をひそめた。
さて、約束の2日後
考えた末に『ニクス』は、自分の主人と主人の義妹を
離すこととした。
「甥子さまが16才(成人)になられるまで、
あの者と甥子さまを夏の別邸に移されては如何でしょうか?
あそこなら、ご主人様の目にあの者の姿が触れる機会もありませんし、甥子様の泣き声に煩らわせられる事もありません。
成人の儀に、『炎の精霊』がもし、甥子様へご加護を授けられたのなら、改めて養子に迎えいれられれば良いかと。」
「それは名案だな。、今すぐ別邸へ移せ」
そんなこんなで、俺はオーガニクス家の夏の別邸で幼少期を過ごす事となった。
※※※※※※
時は流れ、俺は十を数える年になっていた。
オーガニクス家が保有している『夏の別邸』は王都の北東の山間部に位置し、別邸をとり囲むように村が作られている。
というより、別邸を維持する為だけに最初村は作られたと言った方が正しい。
もともと涼を取りにきた一族の者が、滞在中不便を感じることがないようにこの村を作ったそうだ。
村には塀が張り巡らされており、出入り口は門ただ一つとなっていた。
屋敷は多少古びた感じはするが、丈夫に作られておりまた庭として広大な敷地を擁している。
現在、『アルトの母』が形式上村の『代官』とされており、その住居として屋敷は与えられていた。
もちろん、あくまて形式上の『代官』であり、村長は別にいて実際の業務を取り起こっている。その為、余程のことがない限り『アルトの母』が実務を行うことは無かった。
そんな中、俺が何不自由なく育ったのは言うまでもない。
※※※※※※
「『アルト様』、早すぎます」
「ロイ達が遅すぎるんだ。このままだと『イチオスの木』まで、昼までに着けないぞ。」
この世界では、夜は魔物が出る。
山間に住むアルト達はそれを良く知っている為、往復の時間を頭において常に行動している。
『イチオスの木』 そこまでが、アルト達10才になるかならないかの子供が、夜までに村へ戻れるぎりぎりのラインだった。
体力に自信のある年長の子供はその木まで行き、上の方に生えているイチジクに似た木の実をもいで帰り、年少の者に自慢している。甘いものが少ないこの地では貴重な甘味が食べれるかどうかは大きい。
(出来れば皆で『イチオス』まで行きたいな。『ロイ』は大丈夫としても、『ライラ』や『ネロス』、『サワン』は厳しいか。途中の沢で一休みして、様子を見よう。)
沢で待っていると後続の子供達が追い付いてきた。思っていた通り『ライラ』、『ネロス』、『サワン』に余裕がない。
「3人は村に戻った方がいい。『イチオスの実』は『ロイ』と俺でとってくるから」
粉屋の息子『サワン』は手拭いで汗だくの顔をぬぐい
『助かった』と言う顔をしている。
『ネロス』は少し悔しそうだ。
「私は嫌よ。まだまだ元気だし。あんた達なんて負けないんだから。」
『ライラ』だけは納得しない。
「『アルト様』にその口はないだろう」
屋敷の警護隊長の息子である『ロイ』が口を挟む。
「普通の言葉使いで良いって『アルト』が言ってくれたもん。」
口を尖らし、プイッと『ライラ』は横を向く。
(しょうがないな。)
「『ライラ』の為にも頑張って沢山取ってくるから、村で待っていてくれ」そう言うと
「絶対だからね」と
『ライラ』もしぶしぶ従ってくれた。
その後、俺と『ロイ』の二人はイチオスの木まで行き実を50個ほど採った後、18時前に村へ帰ってきた。
「沢山採れたからみな喜びますね、あっ、でも『サワン』あたりは食いしん坊だから、足りないって言うかも知れませんね。」
ニコニコした顔で『ロイ』は言う。
(こいつ本当に良い奴だなあ。。。)
足取り軽く、『ネロス』、『サワン』の家に行き、それぞれに手土産を渡す。
(『ロイ』と『ライラ』は仲悪いから、『ライラ』の家には俺だけで行くか。)
「『ロイ』先に帰って、女中頭の『メリダ』に『イチオスの実』を渡しておいてくれるか。パイでも作って欲しいって言ってね。」
「分かりました。」
『ライラ』の家に行くのはちょっと億劫だったのか
『ロイ』は素直に頷き、屋敷へと戻っていった。
※※※※※※
『ライラ』の家は、村で唯一の『白魔導師』の家である。
(それもあり、『ライラ』は簡単な『ヒール』程度の魔法を使えるといつも自慢していた。)
「『ライラ』。『イチオスの実』、沢山採ってきたぞ~」
家の前で呼び掛けるも返事はなく、代わりに家から『ライラ』の父親が出てきた。
「おやおや、『アルト様』。『イチオスの木』まで行かれたんですか。この実、私も妻も大好物なんですよ」
「今晩は。『ヨーゼフさん』。『イチオスの実』、まだまだなっていたので、今度また行って採ってきますよ。今日とってきた分はここに置いていきます。皆で食べて下さい。」
「ありがとう。ところで『ライラ』を見ませんでしたか?
18時までには戻って来るよう言ってあるのですが。」
「昼ごろに沢の辺たりで別かれてからは。。。ちょっと」
「そうですか。まだ明るいので、もうちょっと待ってみます。」
何となく嫌な予感がした。
(まさか、あの後俺達の跡を追ってきたとか?
『ライラ』の性格なら有りうる。。
でも道は一本道。帰りにすれ違わないってことはまずないか。
一応『ネロス』達に沢で『ライラ』が引き返したか確認した方が良いな。)
『サワン』の家にその足で行く。
『サワン』の家は皆から集めた小麦を臼で挽いて販売する他に、行商人から買い付けた物も売っているちょっとした商家だ。
「『サワン』、沢で別れた後みんなどうした?」
「沢で泳いだ後、俺と『ネロス』は沢蟹取りかな。その後魚釣りをして、そうだ『秘密基地』でそいつを焼いて食べた。」
『ベース』とは沢の近くにある洞穴で『ネロス』が父親について狩りをしている時に偶数見つけたものだ。
「『ライラ』は?」
「そういや、途中から見かけなかったな。先に帰ったんじゃない?」
少し胸騒ぎがした。
(村に戻ったかどうかは、『ダナン』に聞けば良いか。。。)
村を囲うように塀が立てられ出入りには門が立てられている。
門の脇には簡単な小屋があり、張り番のダナン爺さんが出入りを見張っている。
「『ダナンさん』、こんにちは」
「お坊ちゃん、何かご用で?」
「『ライラ』を見ませんでしたか?」
「坊っちゃん達と朝出て行ってからは見てないですなあ。一緒じゃなかったんですか?」
「途中で別れた。サワンやネロスと先に戻ったと思うんだけど。。。」
「粉屋の息子達はちょい前に帰って来ましたが、ライラは見なかったですぬ。」
「行き違いだったかな?ちょっと見て来ます。有り難うございました。」
礼を言って離れた。
「坊っちゃん、門を閉める時間迄には戻って来て下さいね」
後ろからダナンの声が聞こえた。分かっているというように手を振った。
(村に戻っていないって事はやはり俺達を追ってきた可能性が高いな。間もなく日が落ちる。何とかしないと。。
帰り道ライラとすれ違わなかったな。何かあったとするなら
可能性は沢から『イチオスの木』までの間か。
簡単なケガなら『ライラ』なら『ヒール』を使って自分で治せる。ケガで動けなくなっている線は多分薄い。
何かにはまって身動きとれなくなっているとか?
それか滑って川に落ちたとか?
そうだ『丸太橋』
橋と言っても渓谷と渓谷の間に数本の丸太が渡されているだけの簡単な作りで、普通に通る分には問題ない場所である。ただ、もちろん手すりなどない。
俺達を追って走ってきたとしたら?
そこで落ちたんじゃないか?
ありうるな。。。
渓谷は高さは無いが急坂だ。
『ライラ』の足であの斜面を登るのは厳しい。
だとしたら?川沿いに川を降りてくる?
なら、例の沢まで戻って来ようとするはず。
そして。。。
あそこには俺達の『秘密基地』がある!!)
そう見当をつけ走りだした。
※※※※※※
走り出したのは良いが、だんだん暮れていく夜道に焦りは募る。
--- 沢までいけば『秘密基地』がある。
『秘密基地』、洞窟に藁を敷いただけのものだが、中にみなで持ち寄ったものがある。
俺が屋敷から持って行ったロウソクと火打石、毛布。
ロイとの打ち合い用に木刀もある。それにネロスがおやつ用にかくしてある干した芋も。
火と毛布、食べ物があれば最悪一晩はすごせるはず。
その前に。。。
まず、俺自身がそこに着かないと。
月がボンヤリ照らす夜道を走る。
---昼間走る道と夜走る道は違う。遠くで魔物の遠吠えも聞こえる。
(沢に降りる場所が見つからない。通り過ごしたか。。。灯りも持たず山に夜入るなんて、我ながら大馬鹿だな。今からでも村まで戻れるなら戻る。。。か。)
ガサッ
その時木の上より気配がした。
(不味い。夜行性の魔物か?)
地面に臥せ息を殺す。
「ホー、ホー」
(フクロウか。良かった。)
顔を起こすと白いフクロウが目の前の枝に止まっていた。
目が合うと首を傾げる。そして、近くの木の柄だに飛び移った。
そして、「ホーホー」と鳴く
(ん?)
また「ホーホー」と鳴く。
(もしかして誘っている?)
そばに近づくと、また次の枝に飛び移りこちらを見つめる。
それを10分位繰り返すと、見馴れた沢へ降りる道についた。
着いたのを確認するがごとく、フクロウは頷き、夜の闇に消えて行った。
(不思議なこともあるものだな。。。おかげで助かった。)
今後、狩りに出たとしてもフクロウを害することは絶対しないと心に誓った。
なんとか沢まで下り、秘密基地に入る。
洞窟の入口は分からないように木の板で塞いである為
中は真っ暗で、何も見えない。記憶を頼りに火打石とロウソクを探した。
カチッカチッ。数回打ちならす事により火花が散る。灯りを元に周りを見回すと
いたっ!!
『ライラ』が奥で倒れているのを見つけた。
ピクリともしない。
触ってみると雪のように冷たい。
(もしかして死んでる?)
パニックになりかけたが、良くみると胸が上下している。
(息はある。ただどうしたら良い?
背負って麓までかけ降りる?
まて、冷たい?川沿いに降りてきた?なら。。。?)
不意に頭の中で何かが繋がった。
「『低体温症』。。。。」
(なんだ??『低体温症』って?不意に浮かんだ言葉に戸惑う。)
何故か知らないが、このままではまずい気がした。。。
(そうだ、温めないと)
濡れた服を脱がし、毛布でライラをくるむ。
(これだけじゃ駄目だ。火をもっとおこす必要があるな。)
怖いが、今一度坂を登ることにした。右手に木刀、左手にロウソクを持ち登る。
(早く木の枝を集めないと。)
沢の上に立つと下の村に松明が沢山揺らめいているのが見えた。
(助かるかも)
一瞬ぼっとした時だった。左手に痛みを感じる。
「ギャッ、ギャッ」
気が付くと魔物である3匹の『コボルト』に囲まれていた。
(彼らに取って人間の子供など、ちょろいエサに過ぎないんだろうな)
「くっそー」
腹に力を入れ木刀で殴るも、簡単に避けられる。
「ちくしょう」
「やられてたまるか」
しかし、無情にもかすり一つしない。。。
「くそっくそっくそっー」
(やられてたまるか~。『ライラ』を助けるまで死ねない。)
その時、何かがはじけ飛んだ
「く◼っ◼そ◼がー◼うりゃー◼」
大音響が夜の闇に響き渡る。
そして、後には気絶した『コボルト』が3匹、泡を吹いて倒れていた。
(いったい何が起こった?
いや、今一番大事なのは、『ライラを助ける』こと、
これだけだ。何が起こったかは後でゆっくり考えれば良い。)
そう頭を切り替え、薪探しに専念した。
幸い山中だけとあって、短時間でそれなりに集める事は出来た。
急ぎ戻り、敷藁を集め、枝に火をつけた。生木と言うこともあり、燃えにくかったし煙も出たが、暖を取る目的は果たされた。
さて、ここでこのまま救援を待つか。
「寒い」
ガチガチ歯がなる音が聞こえた。
(意識は戻った。まずは良い傾向か。
でもまだ体温は戻っていないようだな。
あと俺にできることは何だろう?
たしか、雪山で遭難した場合、
お互いの体温で温めあうと聞いたことがある。
えっ?
山小屋ってなんだ?
どこで聞いた?)
取り敢えず服を脱ぎ、ライラを胸に抱いて毛布を身体に巻き付けた。
冷たい。
30分ほど経つと心なしかライラの顔に朱が指してきたように感じられた。
(いつも生意気だが、こうして見ると普通に可愛いな。)
疲れていたのか、焚き火の暖かさによるものなのか、ここで俺も意識を手放した。
ふと目を開けると、どこか見たことのある部屋にいた。
(屋敷じゃあないな。でも、取り敢えず助かった?『ライラ』は無事だったのか?)
薄暗い部屋だ。
焦点があってきたので目を凝らすと
側に人が立っているのに気付いた。
年配の女性で何と言うか『凛』とした雰囲気の女性だ。
メガネをかけているせいか知的にも見える。
強いて言えば、『図書館の司書』といったところか。
ー
メガネ?
図書館?
司書?
なんだそれは?
ただ言葉はストンと落ちる。
「かっかっか。言うにことかいて、『図書館の司書』とな。」
何が楽しいのか、笑ってる。
(失礼なこと言ったかな。
でもこの人は図書館の司書って言葉を知ってるようだ。)
そして、今さらながら図書館の司書と言う言葉を口にしていないことに気付きぞっとした。
(神々の一柱?大魔法使い?魔族?)
「おやおや、どうやら『大馬鹿』ではないらしいね。今回のあんたの行動を見ているとどうも大ハズレ引いちまったと思って嘆いてたんだが。」
(。。。そこまで、そこまで言わなくとも。。。。
確かに『灯りを持たず』、『一人だけで』、『後先考えずに飛び出して来たこと』は浅はかだったが。でも、それで『ライラ』が無事だったなら。。。)
「はあ。ちっとは馬鹿だったとは思っているんだね。
でも、それだけかい?」
(?)
「なら見せようか。」
彼女が杖をふると、『テレビ画面』のような映像が出てきた。
(『テレビ?』)
そこには、
『泣き叫ぶ』母上
『真っ青になっている』ロイの父親、
『顔中殴られてアザだらけになっている』ロイ
『護衛隊の隊員に問い詰められている』ライラの父親
などの顔が映っていた。
『土下座している』村長
の姿も見える。
「そんな。。。」
「みんな『あんたの不用意さ』が招いたことだよ」
ふいに涙がポロポロ流れ落ちた。
「あんたが万一『亡くなっていた』としたら、これどころの騒ぎじゃ済まなかったよ。
村長はじめ、村人はみな『死刑』か、良くて『犯罪奴隷送り』だっただろうね。
そこまで考えて取った行動だったのかい?」
「こんな大事になるなんて、俺に分かるわけない。」
涙がポロポロ出てくる。
「『知らなければならない事』を、『知らないこと』、それは『罪』さね。もしそれで周りに不幸を振り撒いたとして、お前は『知らない』の一言で済ますつもりかい?」
(そんな事できない。)
悔しくって、情けなくって涙は止まることをしらなかった。
「ふう。泣けば良いってもんじゃあ
ないんだけどね。失敗したその後、
どう振る舞うか それが大事なんだが。。
で、あんたはどうしたい?」
「今後同じ失敗を繰り返さない様、『賢く』なりたい。」
「賢くなりたい?どんな賢さが欲しいのかい?」
ふっと彼女は笑った。
「『物事を深く考えられる賢さ』が欲い。」
「考えるには、『裏付けとなる知識』も必要だ。今回も『貴族』の一族と言う自分の立場に関する知識があったら、また違った行動もとれたんじゃないかい?」
「『大切な人を守れる力が欲しい』。その為の『知恵』も『知識』も欲しい。」
「『覚悟』はギリギリ合格かね。前世の記憶は心の成長に合わせて徐々に戻していくつもりだったけど、返して大丈夫そうだね。」
そう言うと指をパチンと鳴らした。
そのトタン頭がすっきり晴れた感じがした。
大森 海翔として生きていた19年間がよみがえった。
「あなたは?」
「かっかっか お前が選んだ『フクロウ』さね。」
「お名前を貰えますか?」
「『真名』を授けるにはまだ早い。あんたの今の器じゃ破裂しちまうよ。」
「いえ、『真名』など大層なものではなく、何と呼べばば良いかと。。」
「単に『オウル』でいいさね。
さて、そろそろ『お目覚め』の時間だよ。他に何かあるかね。」
「コボルトに囲まれた時、助けてくれたのはあなたですか?」
「いんや、あれはあんたが選んだ『聖霊の加護』によるもんだね。」
「俺が選んだ聖霊?それは?」
「何から何まで聞こうとするんじゃないよ。あんたの首の上についているのは『単なるお飾り』かね。自分で考えるってことをしないと。」
「ではあと一つ、俺があの方、神?から頂いた『天恵』って?」
「『前世の記憶を持って転生できる特典』と、『前世のアカシックレコードへのアクセス権』さ。ーこれはあんたが前世で手に入れる事が出来ただろう知識の範囲でしかないけれどね。」
「『アカシックレコード』?」
「『宇宙の記憶』ってやつさね。宇宙が出来てからすべての事象はそこに記載されているさね。
ただあんたが『アクセス』できるのは、そのごく一部。
簡単に言えば、『あんたが生きていた時代』の、『あんたが検索できた範囲の知識』それを調べることができる。
それだけでも過剰かとあたしは思うんだが。」
(インターネット端末を持ち運べる感じかな)
「分かった気がします。色々ありがとうございます。」
「それじゃあ。また会える日を楽しみにしているよ」
『オウル』の周りの輪郭が薄くなっていく。
と思ったら急にはっきりした。
「忘れてたさね。私からのギフトさ。」
目の前に『ステータスウインドウ』なるものが頭に浮かんだと
同時に俺の意識は薄れていった。
※※※※※※※
「きゃーあーーーーーーーーーーー」
突然凄い悲鳴が耳元で響き渡る。
そして
『パシーン』
おもいっきり叩かれ、
突き飛ばされた。
そこには顔を耳まで真っ赤にし、
目に涙を浮かべた『ライラ』がいた。
「『アルト』、何を私にしたの」
「何も?」
おもいっきり蹴飛ばされた。
「あたし。。。」
「あたし?」
「子供出来ちゃう」
「。。。。。」
確かにお互い裸だけど。。。
「もうこれで私一生結婚できない。『アルト』に汚されたんだわ。わーん」
(どこでそんな言葉覚えたんですか?
ライラさん)
あっけに取られている間にも攻撃は続く。
「責任取りなさいよね~」
「って何もしてないし。。。」
「男の人と女の人が裸になって同じ布団に寝たら、
お腹が大きくなって、
子供ができて、
責任を取らせなきゃならないって
となりの『ニーナ姉』が言ってた。
もしかして、アルト逃げるの? 逃げるのね?」
えーと、色々突っ込みどころ満載だけど。。。
「わーん、あたしお嫁さんになれない」
もしもーし。
結局この修羅場?は『ライラ』が俺の左手の傷を見つけるまで続いた。
「『アルト』、その傷は?」
すっかり忘れかけていたが、『ライラの攻撃?』により、傷口が開いて血がにじんできた。
「『コボルト』に切られた。」
「なんで・・・?」
やっと話を聞いて貰える間が取れたんで、倒れているライラを見つけてからの経緯を話した。人肌で温めた経緯については今一つ理解できていない様だが、自分を助ける為に俺がここまで来たこと、自分が寒さで死にかけていた事については理解できたみたいだった。
「そして、あたしを守る為に『コボルト』と戦ってくれたのね。」
「えっ、うん、まあ」
(何か違う気がするが、まあ嘘ではないよな。)
「傷は?」
「一応、傷口は水で洗って、引き裂いたシャツで縛ってある。まあ大丈夫だろう。」
「駄目よ」
(えーともしもーし)
治療をさせろと言うライラの押しに負けて
結局頼む事にした。
水で優しく傷口を洗う。
(普段家で治療を見ているんだろうな)
【ジュッ】
「ぎゃあ~」
(ライラさん、何するんですか)
焼けた木の枝を、傷口に押し当てられていた。
「あのね、『悪い病魔』を殺さないといけないの」
(傷口が火傷になっただけのよーな気がしますが。ライラさん。。。)
10歳児に傷の治療を任せてはいけませんです。ハイ。
「こっからが本番」
(えっ)
「光の化身『イリス』よ、我にこのものを癒す力を与えよ。『ヒール』」
みるみるうちに、傷が癒え、肉が盛り上がり傷口も塞がった。
もっとも火傷跡は消え無かったが。
ライラは魔力不足なのか、『ヒール』を唱えるとふらふらになり倒れてしまった。
「魔法』って本当スゲェ。って言うか『ライラ』本当に使えたんだな。。。
その後、裸のままのライラを放置出来ず、乾いた服を着せた為、後日殴られたのはまた別の話。
火傷騒動が落ち着き、しばらくたった頃
ロイが秘密基地に飛び込んできた。
「『アルト様』ご無事ですか?」
「あたしの事は心配じゃないの?」
と復活した『ライラ』が軽口をたたく。
「おまえは自業自得だろ」
(かなり怒ってるな)
「少しは、、、少しは悪かったと思っているわよ。
ただ、どうしてもお父さんとお母さんに沢山『イチオスの実』を採ってきてあげたかったの。二人とも『イチオス』大好きだから。」
「で、『アルト様』を巻き込み、みなを心配させたのか」
案の定、プイっと『ライラ』は横を向いた。悪くは思っているようだ。
(そんな事、まだ10才の子供が考えて行動するわけないじゃん。って俺も考えて無かったしな。)
話を変えることにした。
「どちらかと言うとおまえの方が心配だけどな。」
実際、青アザだらけに『ロイ』はなっていた。
「ライラ、『ヒール』」
「待ってくれ。『ライラ』、申し訳ないが息子に『ヒール』をかけるのは止めてくれ。」
遮るように声が響く。見るとロイの父親で警備隊長の『ティアース』がいた。
「『アルト様』、愚息へのお気遣いありがたく思います。
ただ、差しでがましいようですが、愚息には、お構いなきよう願います。」
「???」
「息子には、『アルト様』を命に代えても御守りするよう日頃から教育してきておりました。
なのに、今回事もあろうことか『アルト様』を置いて、こやつは屋敷へ先に帰って来ておりました。
これはその罰を受けさせているところです。」
(って言うか、屋敷に戻るよう指示したのは『俺』だ。)
「『ライラ』の家に行く際、『ロイ』へ先に戻るよう言ったのは私です。その時は『ライラ』が行方不明になっているとは誰も知りませんでした。ましてやその後、俺が『ライラ』を探しに飛びでるとなど、誰も予想つかなかったと思います。だから『ロイ』に『非』はないと思います。」
そう答える。
「息子への気遣いありがとうございます。」
『ティアス』は言葉を切った。
「なら。。。」
「『アルト様』は勘違いしています。確かに『アルト様』は私の主筋。成人していれば、私や『ロイ』はその命に従うのが筋です。」
何が言いたいか薄々分かった。
『ティアース』は話を続けた。
「残念ながら今の『アルト様』はあくまで『保護対象』でしかないのです。
現に私は奥方様より、『アルト様』が危害を受けないよう見守るよう指示を受けてます。
『過保護にするのは避けたい』とのご意向により、代わりに同年代の我が息子をつけていたのですが。」
『ロイ』を見る。俯いていることから役割については勿論知っていたようだ。
「我が愚息には、常に寄り添い、自分の身を捨てでも、御身を守るよう常日頃言い聞かしております。それをこやつは怠ったんです。罰を受けるのは当然かと。」
(『ロイ』が罰を受けたのは、俺の考えなしの行動の結果と言うことか。すまない。)
心の中で手を合わせた。
「奥様が待たれています。戻りましょう」
※※※※
屋敷に戻ると、真っ青な顔をした母親がいた。
この日を境に屋敷への『療養』と言う『監禁生活』が始まった。