熱意とからまわり
「えっ、いきなり子爵から注文を頂いて来たのですか?」
『ミヤーノ』の裏がえった声が響く。
「『失敗したらどうしようか』なんて考えられていませんよね?」
「勿論いない。始めから失敗を前提で考えるには時間がない。それと今回はあくまでも『注文』じゃなく、『お試し』だから。」
「どちらでも同じですよ。子爵家にお納めするのですから。」
「とにかく、針子さんの手配よろしく。とっとと素晴らしい服作って、子爵の度肝抜いてやりましょう。」
※※※※※※
それから数字間後、倉庫は片付けられ、30人ものベテラン針子が集められていた。
「5~6人だったんでは?」
ははは とミヤーノは笑う。
「『新しい技術を知りたい者は?』と
声がけしたら皆集まって来ました。」
(ま、嘘だろうな。ミヤーノの面子にかけ集めたに違いない。)
「じゃ、始めます。ミヤーノさん達生地の専門家は、生地の状態のチェック願います。」
「色ムラ一つ見逃さないよ。」
とのミヤーノの声が上がる。
「で、針子さんですが、子爵から採寸した寸法を基に型紙をおこして貰います。
型は、フォーマル、セミフォーマル、カジュアルと3つに分け作りましょう」
『アルカイック』から代表的な型紙の情報を取りだし紙に大体の線を引いた。
「実際の数字に合わせて、きちんと引きなおし願います。目分即じゃなく、きちんと尺を当ててください。だれでも、尺を使えば同じものが作れるようにします。
この工場ではベテランの目測に頼る方法は必要ありません。だれでも、同じような服を効率良く作れるようにしたいと思ってます。」
「こんなバラバラに部位を分けて、綺麗に組上がるのかい?」
ベテランの針子から質問が飛ぶ。
「そのために、定規できっちり図るんですよ。」
「『アルト』様、生地の検品オーケーです。」
『ミヤーノ』の声が響く。
「よし、では紙型に合わせて各部分を切り取ってください。色違いで複数切り分けしましょう。あっ裏地にはしっかりとした別の生地を使ってくださいね。」
なんと、紙型の起こしから、布地の切り分けまで8時間で出来てしまった。
気がつくと倉庫に明かりが灯されていた。
「縫い合わせは明日にしましょうか。暗いところで作っても失敗するだけです。明日10時ぐらいに集まってください。」
そう言ってお開きにした。
※※※※※※
朝10時に、倉庫に行くとなんと1着仕上がっていた。
「皆さんの頑張りにはびっくりしました。
熱意があって素晴らしいです。」
数名の針子さんがドヤ顔をした。
「でも、これではダメです。廃棄してください。」
そう言ったとたん落胆が浮かぶ。
「廃棄何故ですか?、そこそこ良いものに仕上がっているじゃないですか。」
「ですね。ただ『そこそこ』です。
例えば、ここ、縫い目が見えてかつ不揃いです。」
「そこはそうやって縫うのが、普通だ。」
「なら、普通じゃないやり方を覚えてください。」
「例えばここをこうやって直接縫い込むのでは無く、中におりこんで裏側から縫ったら?」
「縫い目が見えない。」
「ですね。色々工夫していきましょう。既存の品と『同程度の仕事』であれば、
後発の我々が劣っていると取られる。
『敢えて我々に服を頼もうって人は少ないと思います。』
手間ですがもう一度、作り直してましょう。」