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服飾戦争

驚いたことに『ムラーノ』曰く、『ミスリル製』で『ディール伯家印』があるものについては、かなり高額の値段がつくと言う。王都では中くらいの屋敷が買えるのだとか。


(つまり、手土産の価値としては充分って訳だ。)


「子爵への顔繋ぎはできそうですね。」


「顔をつないで、服飾ギルドの悪行を訴えるという手もありますよ。」

『ムラーノ』は言う。


「まあ、その方が現実的ですね。

でもそれならば、子爵邸へわざわざ行かず、このままここを素通りすれば良いんじゃないんですか?

そうすれば籠手を子爵に渡す必要もないですし。

さっさと王都に行きオーダーメイドの服を作れば良いと思います。」

少し怒ったように俺は言った。



「アルト様としてはそれじゃ収まらないと?」



「だから『舐められたら倍返し』と言ってます。」

まだ、『ムラーノ』は話したそうにしていたが、敢えてここでこの話は打ち切った。



「さて、『ミヤーノ』さん、話は変わりますが、生地を作らせている取引先経由で『針子さん』を何人か用意できますか?」


「5~6人ならすぐにでも可能です。でも(あらかじ)め言っておきますが洋服店にいるようなプロを期待されても困りますよ。」


「それと洋服を作るスペースをどこかに確保できませんか?」


「うちの倉庫なら無償で使っていただいてかまいません。ただ同じ洋服で勝負しても老舗の『バーナード服飾店』には勝てないと思いますが。」


「『オーダーメイド服』ならね。でも同じ土俵で勝負する必要性はありますか?

『既製服』ならデザインと値段、引き渡しのスピードで勝負できます。」

そう言って俺はにやりと笑った。


そして、既製服を大量に作る仕組みを『ミヤーノ』さんに披露した。


「このやり方だと、今の服飾店では高くて手が出せなかった洋服も『庶民』が手を出せるようになります。そして、また在庫として倉庫に眠っている生地も有効利用できますよ。」


「やりましょう。」

そこには目を輝かせた一人の商人がいた。





※※※※※※

翌朝より、早速俺達は行動を起こした。


まず、子爵家への先触れとして『ムラーノ』に献上品を持たせ行かせた。

その際、訪れる理由について前もって伝えることにする。



昼前に『ムラーノ』が戻ってきたので、首尾について聞く。

「献上品について、大変に喜ばれていました。

ミスリル籠手に彫られた紋章にも

すぐ気がついていたみたいです。


『午後にでもすぐアルト様へお越し頂きたい』とのことでした。」


(よし、魚は餌に食いついた。)



そして、その日の午後3時には子爵家の応接室に俺はいた。

子爵は意外にもまだ20代と思われる細面の金髪碧眼の美丈夫で、前世では『モデル』と言っても充分通じる感じであった。


「前振りの使者より、挨拶に伺いたい旨と、服飾店を我が街に開きたい旨は聞いている。

しかも丁寧に手土産まで頂き申し訳ない。


ついては、服飾店を開くに当たって、出来るだけの便宜を図ろう。


取り敢えずは商売税のしばらくの期間の免除と服飾ギルドへの口利きを考えているが。。


その前に、この件本当にご子息が中心で動かれているのか?」


(まあ、10代の俺が仕切っているって言えばこの反応が普通だろうな。)


「はい。私が中心となって進めております。

若年故にご心配おかけします。


それとせっかくのお申し出ですが、税の免除も、服飾ギルドへの口利きも結構です。そもそも『服飾店』ではなく、『洋服店』を作ろうと思っているのでギルドに入るつもりがありませんし。」



「『服飾店』と『洋服店』に違いはあるのか?」

(よしよし、乗ってきた。)


「はい、大きな違いがあります。

『服飾店』は自前でベテランの職人をかかえ、『オーダーメイド』でその人の為だけに服を(あつら)えるお店です。」


「それに対して、今度私が立ち上げようとしている『洋服店』は、工場で大量に作った『既製服』を並べて買ってもらう方式をとりたいと思ってます。勿論『既製服』だけではなく、『セミオーダーメイド』も承ろうと思ってますが。」


「『服飾店』の方が良さそうに余は思うが?」


「考え方次第かと。『オーダーメイド』はその人のその時の体型に完全にフィットするべく、熟練の職人が丁寧に(あつら)えます。


なので1着作るのに、何度か服飾店に足を運ばなければならなかったり、出来上がりまでに時間がかかります。


以前服を作られた際、どうでしたか?


そしてもちろん、熟練の職人を使うのでお値段もそれなりにかかったかと思いますが。」


「今思うとそうだな。王にお目通りするためにこの間新しく誂えたのだが、出来上がりまで2月以上かかったような気がする。 値段もかなりかかったな。着心地はもちろん満足はしているが。」


「それに対し『既製服』は、店側が用意した服の中から、お客が自分の体型にあったものを選んで買う形になります。気に入ったものがあれば即持ち帰りができますし、『オーダーメイド』1着分の値段で数着買えるので、遊び心で数着着回すこともできます。

何より、型紙(パターン)を一つ作れば、熟練の職人でなくとも、ある一定以上の品質の服が量産できますし、生地屋も発注が多ければ安く卸せるので値段も安く仕入れる事ができます。


そして、『セミオーダー』これは完全な『フルオーダー』と『既製服』の中間の商品となります。ある程度値段が安く、しかも仕上がりも充分以上の品質となります。

勿論、品質では熟練の職人が作った『フルオーダー』には負けますが、へたな職人の『フルオーダー』の品質よりは高いものになるかと。」


「一つだけ聞きたい。

既存の『服飾店』と潰し合いにはならないのか?」


「先ほどの説明では不十分でしたでしょうか?」


「住み分けは出来ると?」


「むしろ、既製服により服を庶民が気軽に買えるようになれば、洋服業界の裾野が広がり恩恵を受ける事になるかと。また高い着心地の良い製品の需要はなくならないと思います。」


「この街の産業がまた一つ発展すると言うことか。」


「そのとおりかと。」


「『服飾ギルド』への口利きがいらないのは良く分かった。ならば『生地ギルド』への口利きは必要ないか?」


「縁があり『ミヤーノ生地店』と『洋服店』立ち上げの話を現在しております。」


「重ねて言うが、税の免除は本当にいらないのか?」


「既存の店からどんな横やりが入るか分からないので、目立ちたくないのです。」


「それでは、余の面子がたたない。土産ももらったことだし、何かないのか?」



「で、あれば、一つお願いがあります。」



「なんだ?」



「試しに当店に洋服を『セミオーダー』して頂き、それを来てパーティーに出て頂けたらと思います。勿論お代はいりませんし、気に入らなければ無理に着て行かれる必要もありません。」


「皆の目に止まらせたいと言う訳だな。そんな事で良ければ協力しよう。」


「では早速、採寸させてもらいます。」



「今からか?」



「はい。」



「。。。。。。」







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