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闇の足音 禍福は。。。

楽しいことは続かない。


『禍福は糾える縄のごとし』

-『楽しい事』の後は『辛い事』が、『辛い事』の後には『楽しい事』が待っているってことを指すらしい。


それは、まさに『楽しい宴会』の翌朝未明に起こった。


「カンカンカン」

村中に警鐘が鳴り響く。


門の横にある、矢倉の警鐘だった。

寝ぼけ(まなこ)だった俺も何事かと、人の向かう方に向かう。


みな続々と本部(旧野戦病院?)に集合していく。昨日のメンバーと同じかと思うほど、引き締まった顔をしている。


ディール伯とトーラスさんは、

先に報告が入っていた様で、すでに机を囲み作戦を検討している。


二人の議論に水を挟むのは良くないな。。。


そう思って周りを見回すと、ジラースさんがいた。さりげなく近づく


「何があったんです?」


俺が話かけると状況を説明してくれた。


「どうやら『スタンピード』(モンスターの集団暴走)が起ったらしいです。」


「スタンピード?」


「通常、モンスターはダンジョン内の自分たち種族のテリトリーからあまり動かないのですが、今回何かに追い立てられるかの様に入口から溢れ出て来ています。

ここ数日、ダンジョンの外にもパラパラと魔物が散見されてはいたのですが、この規模だと恐らく。。。」


「恐らく?」


「下層に潜む上位の魔物が、地上近くに移動してきたのではないかと推測されます。」


何故か敬語だ。まあ良いか。。。


「兎に角、溢れ出た魔物が、こちらに群れをなして向かっており、その数、数百じゃきかないかと思われます。ダンジョンから、山間の谷を抜け向かっているようですが、途切れる様子がない為、場合によってはその数、千に達するかもしれません。」


「『スタンピード』が向かっているのは

こちら方面だけですか?」


「恐らく、アルト様の領地方向へも。。。」


(早くここから脱出して、何とか屋敷へ知らせないと。。。)


「ここからの脱出道は?来た道以外ですが。」


「こちらへ来られる際、ダンジョン前に右手に折れる道があったかと思います。あれが山越えの道となります。そこを伝って我が辺境領へ逃げるのが唯一の方法かと。。ただ、現状たどり着くのは。。。」


「たどり着くのは?」


「不可能かと。ここはご存知の通りダンジョンからの一本道で、袋小路になってます。。もし逃げるにしても、分岐点に到るまでの敵を排除しないと無理です。」


(無理か。。。)


「出れないならば、籠城戦を考えているとか?」


「そうでないかと思われます。

幸いなことに、ダンジョンからここまでの山間の道は、両側が切りたった壁で、また道幅が狭くなってます。

なので、大軍が押し寄せても正面の敵と相対するだけですみます。

ある程度は持ちこたえられるのではないでしょうか。。。


その間にどこからか援軍がくればあるいは。。。」


(もしかして詰んだとか。。。?)





※※※※※※

【伯爵視点】

「ふう。」


基本辺境伯の部隊は『騎兵』である。

それ(ゆえ)、辺境伯は悩んでいた。


騎兵は歩兵に対し、ほぼ無敵の力を発揮する。(大体歩兵9に対して騎兵1の戦力換算)

ただし、それはあくまで機動力を生かせる平地においてであり、山間部で『道幅が限られている場所』では突破力も機動力も落ちる為、その優位性を生かせない。


ましてや、籠城戦においては言わんやである。


勿論、辺境伯の討伐隊は伯爵専属の騎士で固めているため、騎兵としての能力は勿論剣技においても優れた能力を持っている。

いわゆる『歩兵としての力』を兼ね備えているので、タンカー(盾職)としての配備は可能だ。


ただ、籠城メインで考えるのなら、攻撃での有効打がなく決定力不足が否めない。

弓兵や魔法使いをメインとした遠距離型攻撃力が無ければ状況は膠着したままとなるろう。


今いる部隊はあくまで『自然発生型のダンジョンを短期で攻略する事』を前提に、近接戦主体の構成にしていた隊である為。残念なことに、その人材がいない。


「やはり、守りを固めひたすら増援を待つのが一番の良策か。幸い補給は谷側より何とかなる。。。」


(問題はアルトの領地へ向けての警告を送れないこと、それから先の戦闘で四肢欠損した兵の治療が間に合わなくなること、この二つだな。

四肢欠損の状態が定着してしまえば、高位白魔導師であれ、元に戻す事は難しいと聞く。)


「まずは、アルトにも現状を説明しておくか。」そう辺境伯は呟いた。




※※※※※※

(アルト)視点】


一通り戦況の分析が終わったのだろう。

ディール辺境伯にちょっと話がしたいと

言われ、別室に連れていかれた。


そこで、現状についてのディール伯の説明を受けた。

現状を打開する方法が見当たらず、籠城が最善の策と思われること。

魔物がこれから向かうだろう俺の住む村には警鐘をならすべく、

麓の村から使者を送らせたとのことだ。

着くのには山の外周を回っていので、急いでも4日はかかる見込みとも付け加えた。


ディール伯爵の分析は的をいているように思えた。


(ただ、まだダンジョンから魔物が溢れ出る状況は変わっていないはず。

しかも、上位の魔物が出てこようとしていると聞いた。この村方面が閉鎖されているとするとそいつらはどこに向かう?


そして、また俺が完全に治せなかったケガ人は諦めるのか?


そう言えば、ケガ人を『ロープウェイ』を使って下ろせないのだろうか?


真下に下ろすダイブはダメなのは分かっている。(『ワイバーン』がいる。)


でも、『ロープウェイ』なら?


確か到着時にスピードを落とせず、衝突するのが問題だったな。


制動装置を今から作る?

アカシックなら検索できそうだ。でも、崖から麓まで渡してあるロープが制動装置の摩擦に耐えられるとは思い難い。


他には?

そうだ。『パラシュート?』

確か空母に着艦する爆撃機が『パラシュート』を使ってスピードを制御していたはず。

材料は布とロープ。設計図は『アカシック』から。。。これだ‼)


考えつくと同時に『アカシック』を使い設計図を呼びだす。頭に、浮かぶ図面を紙に書き写していく。

平行して、辺境伯にベッドのシーツをかき集めるのと、ロープを集めることを依頼する。


辺境伯は俺が真剣なのを見てとって指示を矢継ぎ早に出していく。


『パラシュート』の材料は続々と集まっていく。

材料が揃った段階で図面に沿って『パラシュート』を縫い合わせる様にお願いするとともに、人が10人規模で乗れる滑車付き客車の作成を鍛冶職人に頼み作って貰えるよう依頼した。


こうして、なんと3時間後には試作機が完成したのだ。


「これは。。。これは一体何か聞いても良いか?」


伯爵が聞いてきた。俺の勢いに乗せられて作ったものの、伯爵自身は何かしらないのだから当然だ。


(えーと、説明は面倒くさいなあ。適当に言うか。。。嘘も方便って言うしね。)


「これは、古代遺跡から、私の父が発掘した書物に書いてあった、『ぱらしゅーと』ってものです。

こちらの地方でも、遊びに使う『凧』あれが、風を受けるとなかなか落ちないのと原理は一緒です。


あれをこの客車より、後方に放ち開く事によって、追突する前にスピードを殺すんです。開くタイミングが早すぎても、遅すぎても危険なので注意が必要ですが。」


「その様な不確かなものに、大事な部下を乗せるのは反対だ。」

(そう言うだろうな。)


「でも、今なら四肢損傷した傷を治せる可能性があると。。?」


「。。。。」


沈黙が支配する。


その時、

「主様、不肖この『ザレート』がこの箱にのり、無事領地へ帰還して見せましょう。

この通り、老いた身、家督も主様の計らいにより息子に無事継がせております。

四肢が欠けた状況では今後ご奉公もできますまい。少しでも可能性があるのらば、この者にかけて見たいと思います。」

との声が響いた。


「良いのか?」



「二言はありませぬ。」



結局、10名程度のものが『ザレート』に続き乗ることを希望した。


「なら、もう何も言うまい。麓の村までは高位の白魔術師を連れてきておくように手配しておく。」


そして、ぱらしゅーと決死隊は、『ロープウェイ』に乗り込む段取りとなった。


そして数刻後。。。

『ザレート』が、俺に話かけてきた。

「今回どんなことが起ころうとも、我々10名は『アルト』様を恨むことはしません。それだけは覚えておいて下さい。あと。。。」


「あと?」


「出来るなら、はなむけに、あの『Rock you』をかけて貰えると。。。」


そう言ってにかっと笑った。


そしてその時がきた。


『We will,We will』


大合唱が歌われ、そして『ロープウェイ』は走り出した。




※※※※※※

暫く後麓側より、狼煙が3本上がった。


歓声にみな湧く。


不思議に思っていると、トーラスさんが意味を教えてくれた。

「『荷物が無事、損傷なく到着した。』って意味だ。」


「麓の村から、ここの崖下まで早馬が1日あれば来る。どのタイミングで『ぱらしゅーと』を開いたかとかの詳細がそれで分かる。これで安全に帰れるぞ。子息、本当に感謝だ。」


続けて、客車を回収する方法がないので、新たな客車と滑車の作成に

みなかかり始めた。


『いざとなったら撤退する手段がある』っていうのは、心理的にも大きいのか

皆に笑顔が戻ってきている。


(我ながら、グッドジョブだ!!!)


---さてと次は。。。魔物退治だな。


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