闇の足音 ロール(役割)
結局のところ。。。
伯爵は状態が回復するやいなや、何故俺がここにいるかトーラスさんを問い詰めたらしい。
そこで、俺が恐らく家の者に断りなく、屋敷を抜け出て来た事実を知り、とりもなおさず屋敷に、俺がここにいる事を伝えるべく人を送ったようだ。
未成年の貴族、その一員を
例え本人の同意があったにせよ、
後見人(親)の同意なく、領地から連れ出すってことは重大な犯罪になる。
「はっはっは。私が一人詰め腹を切れば済むこと。主の命が助かることに比べればわしの命など軽い軽い。」
そう本人は嘯いているが。。。
俺にとっては。。。微妙だ。
何か方法はないのか?誰も不幸にならない方法が。
(ん?待てよ?俺には実績がある。
ちょうど一年前、一人で山をふらふらした実績が。。。ね。笑)
なら?
(どうせ自宅療養の状況に変わりなんてないだろうし。決めた。)
そうとなれば早速伯爵に相談だ。
※※※※※※
会見をお願いすると、早速部屋に訪ねて来られた。
「今回はおかげで助かった。この恩は我が名においていずれ返そう。」
助かったと言うのに、顔色が晴れないのは
自分の命の代わりに部下の命が消えようとしているからだな。
「はて?何のことでしょうか?」
「ん?どういう事だ?」
「むしろ感謝を述べなければならないのは私の方です。
つい『屋敷から抜け出し遠出して』
挙げ句の果てに『山で遭難し』
たまたまこの村に帰るところであった『トーラスさんに保護をしてもらい』
安全を確保して貰えたのですから。」
「。。。。。」
お互いに顔を探りあった。
そして、沈黙を破ったのは伯爵の方だった。
「すまぬ。ワガママかもしれぬが救えるものなら、あやつを救ってやりたい。」
「なんのことでしょう?。助けて頂き感謝しているのは、むしろ私の方。それ以上でもそれ以下でもない筈ですが。
若輩ゆえ、領地も資産も持たぬ身。ここでの医療奉仕で礼に替えさせて頂ければと思います。」
「それで良いのか?」
「はい。『非力で考えなしの行動を取る、馬鹿なボンボン』って役柄なんで」
ふいに伯爵の手から剣が俺に向かって放たれた。少しでも動いていたら、当たっていただろう。
「ロールだと?お前は何者だ?」
そう、ディール伯爵が問いかける。
「??」
「『アルト オーガニクス ラファス Jr』としか言い様がないですが。。。」
「重ね重ねの非礼、詫びよう。ふと『妖精の取り換え子』かと思ったのでな。」
「人外の者だと?私は私でしかないのですが。。。証明する術は残念ながら私にはありません。
ただ、何であれ言えることは、『味方』だと言う事です。そう接してきたと思いますが。」
「『名前』について答えられた事からして、
『人外のもの』である可能性は低いであろう。
基本、人外の魔物なら、名前について嘘は言えないと聞く。自分もまた名前に縛られる存在ゆえにな。
もっとも、それはあくまで低位の魔物で、上位の魔物は仮名で偽わると言うが。ただ。。。」
「ただ?」
「上位の魔物なら。。。あの殺気を込めた振りになんの反応をしないとは考えられないからな。」
「じゃあ信頼頂けたんですよね?」
「『信頼する価値がありそうだ』とは思うが、まだ判断には至っていない。」
「何故か聞いても?」
「その年齢なのに、『賢すぎる』からだ。多少の賢さは、まあ分かる。でも『腹芸』が出来るような強かさ(したたかさ)は10才の子供には出来ぬ。」
(10才じゃないし。。。)
「11才です。」
顔をしかめ反論する。
『。。。。』
暫し沈黙が包む。
(何か俺やっちまった?)
不意に爆笑が包む。
「そうだった、そうだった。やはり私の考え違いだったようだな。」
トーラスさんのような笑い声だった。この主にして、あの部下ありか。っていうより、なんでか空気が和んだ。
なんでだ?
(むきになって年を訂正したから?
でも子供にとって1才の差は重要だ。)
「ふと私の娘も同じように言ったことを思い出してな。すまない。」
俺が憮然としてるように見えたのか、言葉を繋いだ。
(あっ、娘がいたのか。。でもこれで多少誤解が解けたのはラッキーかも。)
「親に似ず可愛い娘だぞ。」
そう言って
ちょっと何か思案しているようだ。
「しかし伯爵、私のことを試すとはいえ、剣を向けるのはひどすぎます。思わず縮みあがりました。」
構わずクレームを入れる。俺の知っている貴族というものは『体面』も大事にするはず。
「刀とな?」
手を広げて見せられた。
何もない。。。
冷や汗がでる。
「。。。。」
「ものを言う前に、良く事実を確認することだ。特に『体面』に拘わることはな。一度出た言葉は元にはもどらない。」
特に怒る風でもないので素直に非礼を詫びた。
「分かりました。無礼のほどお許しください。」
「はっはっは。素直で良い。殺気を剣気と捉えられる才能もまた良いな。本当に子息、もといお前と話ていると大人なのか、子供なのか判らなくなるな。」
(そりゃ前の人生合計すれば、30越えているからなあ。)