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雨の小夜曲  作者: 網田鏡磨
雨の小夜曲-ある日常の物語―
6/9

シンデレラ

 泣きたい気持ちを誤魔化す様に、ストローでカップの氷をかき混ぜる。紙コップの中の氷はガシャガシャと、せせこましい音を立ててぐるぐると回った。と、肩で息をする音とともに頭上から影が落ちてきた。見上げると、額に汗を浮かべた彼がいた。相当急いだのか、ハアハアという息遣いが荒い。

「もう戻ってきちゃったの。もっとゆっくりしてきてよかったのに」

すると彼は椅子には座らず、私の前に跪いた。

「足、出して」

「え」

「どっちでもいいから足、出してみて」

とりあえず言われるがまま右足を前に出すと、彼は躊躇もせず靴を脱がせた。割れ物を扱うように優しく、そっと。

「あ、やっぱり肉刺まめが潰れてる。痛かったよね。もうちょっと我慢してね」

彼は戻ってきたときに下げていたビニール袋から消毒液と絆創膏を取り出し、私が呆気にとられている間に右足を消毒し、絆創膏を貼ってしまった。

「はい、今度は左足ちょうだい」

再度慎重に靴を脱がすと、またもや手際良く左足を治療してしまった。

「あ、ありがとう」

我に返ってお礼を言う私を見上げ、にっこりと微笑んだ彼は「もう一つ」と言うと、ビニール袋の中からストラップの付いたサンダルを出してきた。

「多分こっちの方が足が痛くないと思うんだ。今更が履いてる靴みたいにかわいくはないんだけど。家に帰るまでだから我慢してね」

片足ずつサンダルに足を通してくれる彼の所作がとても綺麗に見えて、自分はシンデレラなんじゃないかと錯覚すらしそうになった。履いているのはガラスの靴なんかではなく、量販店で売られているペタンコのサンダルなのだけれど。わしゃわしゃとゴミをまとめてビニール袋に入れ、ようやく彼は目の前の椅子に腰掛けた。

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